1997年にカムリのプラットフォームをベースに開発された初代ハリアー(写真:トヨタ自動車)

20〜30年以上経った今でも語り継がれるクルマが、続々と自動車メーカーから投入された1990年代。その頃の熱気をつくったクルマたちがそれぞれ生まれた歴史や今に何を残したかの意味を「東洋経済オンライン自動車最前線」の書き手たちが連ねていく。

RAV4/ハリアー『それ以前』と『それ以降』

今や一過性の人気を超えて、定番スタイルの1つとして認知されているSUV(クロスオーバーとも呼ぶ)。大径のタイヤを装着した、背の高いハッチバックボディを持つ4WD (4輪駆動)を主としたクルマである。

わざわざそう説明したのは、時代によって呼び名が変化してきたからだ。かつて、こうしたクルマはRV(レクリエーショナルビークル)やクロスカントリー4WDなどと呼ばれていた。SUVと呼ばれるようになったのは、2000年代以降である。

そんなSUVが今、非常に売れている。2022年度の新車販売ランキング(登録車、自販連調べ)ではトヨタ「ヤリス」が1位、同「カローラ」が2位であるが、いずれも「ヤリスクロス」と「カローラクロス」というSUV版がなければ、そのポジションはない。


RAV4の登場は1994年。現在とは異なりコンパクトなモデルで、当初は3ドアのみの設定だった(写真:トヨタ自動車)

さらに2022年度のランキングを見ていくと、50位までになんと21モデルものSUVが占めていることがわかる。

前述のヤリス(ヤリスクロス)、カローラ(カローラクロス)のほか、トヨタ「ライズ」、ホンダ「ヴェゼル」、トヨタ「ハリアー」、同「ランドクルーザー」、同「RAV4」、マツダ「CX-5」、トヨタ「クラウン(クロスオーバー)」、スバル「フォレスター」、日産「エクストレイル」、ダイハツ「ロッキー」、スズキ「ジムニー(シエラ)」、マツダ「CX-60」、三菱「アウトランダー」、マツダ「CX-30」、レクサス「NX350h」、日産「キックス」、トヨタ「C-HR」、マツダ「CX-8」、同「CX-3」という顔ぶれだ。

これらSUVのほかは、多くがミニバンとコンパクトカーであるから、SUVの存在感は大きい。では、このSUV隆盛のきっかけは、何であったのだろうか。

現在のSUV人気を予見する存在となったのが、1994年に誕生した初代「RAV4」と1997年の初代「ハリアー」だ。あえて強く言えば、SUVはRAV4とハリアーの登場により、『それ以前』と『それ以降』に分けられる。

どういうことかといえば、初代RAV4/ハリアーはヒット車となっただけでなく、『それ以前』のモデルたちと、クルマの構造そのものが違っていたからだ。

自動車には、モノコック構造とラダーフレーム構造という2種類の構造があり、モノコック構造は乗用車に、ラダーフレーム構造は商用車や堅牢性が必要なクルマに用いられてきた。

『それ以前』のSUV(RV、クロスカントリー4WD)は、堅牢性などの観点からラダーフレーム構造であった。そんな中、RAV4/ハリアーは、乗用車と同じモノコック構造を採用して登場したのだ。


それまでの無骨なクロカン4WDとは異なるスタイリッシュな外観が特徴(写真:トヨタ自動車)

ちなみに、今も大人気のランドクルーザーとジムニーは、どちらもラダーフレーム構造を守っている。ランドクルーザーのルーツは1951年のトヨタ「ジープ」にあり、ランドクルーザーの名称を使い始めたのは1955年のこと。つまり、68年もの歴史を持つ。

また、ジムニーが軽自動車初の本格4WDオフローダーとして誕生したのは1970年。こちらも50年以上の歴史を持つ、伝統のモデルとなるのだ。この2台は、どちらも『それ以前』に生まれたクルマで、構造は当時の常識であったラダーフレーム構造である。

悪路を走る特殊なクルマ

ランドクルーザーやジムニーが生まれた1950〜1970年代には、まだSUVやクロスオーバーといった呼び方はされておらず、「オフローダー」や「クロスカントリー(クロカン)」などと呼ばれていた。1970年代まで、悪路を走るクルマはまだまだ特殊な存在であったのだ。

その後、1980年代に余暇を楽しむクルマとして、オフローダーやクロカンがRVとして人気を集めるようになる。


当時、人気だったクロカン4WDの1つ、ランドクルーザープラド(写真:トヨタ自動車)

このころ人気となったのが、トヨタ「ハイラックスサーフ」や日産「テラノ」、三菱「パジェロ」、いすゞ「ビッグホーン」で、これらはみなオフロード走行が重視され、ラダーフレーム構造を採用していた。つまり、1980年代まで、今でいうSUVは「悪路をゆく、タフなクルマ」というイメージであったのだ。

もちろん、どれも人気があり街で見かける機会も多かったけれど、年間販売ベスト10に入るようなものではなかった。ランキング上位に入っていたのは、カローラを筆頭に「マークII」や「シビック」「サニー」といった、舗装路を走るセダンやハッチバックだ。

そんな時代となる1990年代に、RAV4とハリアーは登場する。1994年に発売されたRAV4は、「多様な用途に応えるフレキシブル ビークル誕生」とうたった。「オンロードでもオフロードでも楽しめるたしかな走り」と説明する。

つまり、見た目はクロカンなのに、オンロード(舗装路)=街中を走る、と言ったのだ。これには、驚かされた。


SUVをファッションに昇華させたRAV4は、アクセサリー類も豊富だった(写真:トヨタ自動車)

そして、1997年にデビューしたハリアーは、さらに驚愕であった。クロカンなのに、「新ジャンルの高級車」として「スポーツユーティリティサルーン誕生」と宣言したのだ。

SUVは「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」のこと。まさに初代ハリアーは、21世紀のSUVの隆盛を予見するかのような登場であったのだ。


北米ではレクサスRXとして販売されただけに、高級感のある内外装を持っていた(写真:トヨタ自動車)

とはいえ当時、クロカンは「悪路をゆくタフなクルマ」というのが常識であった。それに対して、乗用車と同じモノコック構造で「街乗り」をうたうRAV4とハリアーには、「なんちゃってクロカン」との侮蔑的な呼び名が使われた。

「なんちゃって」とは、1970年代後半に流行った言葉で、冗談をごまかすためにも使われたが、「なんちゃってクロカン」に関しては、「見た目だけクロカンの偽物である」との文脈で使われることが多かったのだ。

「なんちゃって」だからこその美点

実際に、2車種はオフロード走行が苦手だ。そういう意味では、「なんちゃって」なのであるが、それはオンロードでの走行を重視したためでウィークポイントではない。むしろ、RAV4とハリアーにはラダーフレーム構造の古式ゆかしいクロカン4WDにはない美点が、備わっていた。それは「軽さ」だ。

モノコック構造は、乗用車と同じように薄い鉄板を箱型にしてボディ骨格をつくる。一方のラダーフレーム構造は、トラックやバスのように、ハシゴ型のフレームにエンジンやサスペンションが装着され、その上に箱型の車体(キャビン)を載せている。


初代RAV4(3ドア)のサイドビュー。全モデルがフルタイム4WDを採用していた(写真:トヨタ自動車)

鉄板で箱型のキャビンを構成するのはモノコック構造と同じだが、ラダーフレーム構造はキャビンの下に強固なハシゴ型のフレームがある。

丈夫ではあるけれど、フレームがある分だけ、重量はどうしてもかさんでしまう。重量がかさめば、それに対応するためエンジンも大きくする必要があるし、サスペンションも重いものを支えるために硬くなる。

一方、モノコック構造は、ボディが軽いから小さなエンジンでもよく走るし、足回りも柔らかくできる。その結果、モノコックボディの方が軽快に走り、燃費にも寄与、そして何よりも乗り心地が良くなるのだ。

毎日のように、過酷な悪路を走るような使い方であれば、ラダーフレーム構造のクロカン的なクルマが必要だろう。しかし、乗用車と同じように街中で使うのであれば、フレーム構造はあきらかにオーバースペックだ。RAV4とハリアーは、実に理にかなったつくりであると言える。

では、「なんちゃってクロカン」と揶揄されたRAV4とハリアーが生まれてから、世の中はどのようになったのだろうか。それは市場が答えてくれている。


セルシオやアリストなど上級セダンに匹敵する質感を持つハリアーのインテリア(写真:トヨタ自動車)

RAV4誕生の翌年、ホンダはライトクロカンと称した「CR-V」を発売しているし、日産は「エクストレイル」を投入。

ハリアー(北米ではレクサス「RX」として販売)が新しい高級車としてヒットすると、メルセデス・ベンツは「Mクラス」、BMWは「X5」を発売したし、スポーツカー専門メーカーであるポルシェが「カイエン」を発表したときには、世界中が驚かされた。

『それ以降』、世界がSUVブームに向かい、ブームを越えて定番となっているのは、発売されている車種の多さを見ればわかるだろう。


ハリアーには本革シート仕様も用意された(写真:トヨタ自動車)

2022年度の国内ベストセラー50位までにランクインした21のSUVのうち、ラダーフレーム構造を使っているのは、先に挙げたランドクルーザーとジムニー(シエラ)の2モデルのみだ。

しかし、ラダーフレーム構造を持つクロカン4WDが絶滅したわけではない。もともと、クロカン的な使われ方のニーズは一定数あったし、今もある。しかし、決して大きな市場ではないため、それ以上には伸びない。RAV4とハリアーと投入したトヨタは、それを予見していたかのようだ。

バブル崩壊後の気運の中で

当初は「なんちゃってクロカン」と揶揄された、クロカン4WD風の乗用車。しかし、その使い勝手や見栄えの良さから市場は拡大し、SUV/クロスオーバーという名前を得て、新たなジャンルを確立することに成功した。


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時はバブル崩壊直後の1990年代。新たな時代を迎える中で、自動車業界もさまざまなチャレンジを行った時期だ。そんな中で生まれ、25年以上が経った今も人気車種であり続けているのが、RAV4とハリアーである。まさに、21世紀を予見していたクルマだったと言えるのではないか――。

(鈴木 ケンイチ : モータージャーナリスト )