姉と兄を発見した当時のことを振り返る依頼者。耐え難い光景を目にしたと語る。写真中央に写るのは、イーブイの二見信定さん(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

かつて家族6人で暮らしていた3Kの集合住宅。すでに家を出て暮らしていた次男が家のドアを開けると、そこには病気で亡くなった長女と首を吊った長男の姿があった。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長(以下、二見氏)は、これまで自殺や孤独死の現場を動画にすることは避けてきた。しかし今回、依頼者本人の意向もあって公開を決断した。部屋の片付けを通して、兄と姉を亡くした弟は何を思うのか。

次男に届いた「最悪の知らせ」

その部屋には4人兄弟(長男・長女・次男・次女)の長男と長女が2人で暮らしていた。ある日、近くで暮らす次女の家のポストに、長男からの置手紙が入っていた。

〈姉のことを死なせてしまった。もう生きていかれへん、ごめんな〉

その知らせを受けた次男と母親が急いで家に向かったところ、病死した長女と自死をした長男がいた。すぐに警察や消防もかけつけ、検死をした結果、長女はやはり病死。長男は首を吊ったことによる縊死だった。遺体の第一発見者となった次男が話す。

「次女から連絡がかかってきて、兄ちゃんから手紙が入っていたと。その手紙の内容を見たら、ただ事じゃないことに気がついて、すぐに用意して1時間かけて家まで行きました。玄関を開けたらもう首を吊っている兄ちゃんがそこにおって。姉はたぶん病気で先に亡くなっていて、それに気付いた兄が“(自分が)やってしまった”と思い込み、後追いで亡くなったんかなと」

長男と長女は生前から仲が悪かったという。それでも、近くに住んでいるのだから困ったら何かしら連絡が来るだろうと家族は思っていた。しかし届いたのは最悪の知らせだった。


当時の状況を説明する依頼者。写真中央に写るのは、イーブイの二見信定さん(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

2人が暮らした家は荒れていた。過去にイーブイが配信したゴミ屋敷やモノ屋敷と比べればその量は少ないものの、生活ゴミが散乱し、大量の本が無造作に積み上げられていた。風呂場やキッチンの様子を見る限り、掃除もできていなかったようだ。


今回の部屋の間取り。かつては家族6人で暮らしていた(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

家具や生活用品、そして調味料まで、2人の部屋にそれぞれ同じモノが置かれていた。一緒に住んでいながらも、実際は別居状態だった2人の関係がうかがえた。

「物を捨てづらいっていうのもあるんやと思います。この家は5階でエレベーターがないので、一回モノを持って上がってしまったらそれを下ろすのもしんどいですし。亡くなる前、体が弱っていたっていうこともあって、多分ゴミ出しとかもしんどかったかなって思います」(次男)

長男は心に病を、長女は身体に病を抱えていた。

この家には長女がしばらく1人で暮らしていたという。長男は別のところで1人で暮らしていたが、管理会社から「(長男の)家賃が滞納されている」と保証人になっていた次男のもとへ連絡が入った。

「兄ちゃんの家に行ったら飯も食べていない状態だったので、そこから姉に一緒に住んでもらっていて、たぶん7年くらいになると思います。困っている同士なんやから手を取り合ったらいいのにと思ったんですけどね」(次男)



依頼者が撮影した、発見当時の部屋の様子(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

言われなければ、人が亡くなった場所とはわからない

片付けに入ったスタッフは総勢8名。貴重品を分けながら片付けをしていくが、捜索物は次男があらかた取り出していた。部屋は引き払うことになるので中のモノは全撤去となるが、ゴミ屋敷とモノ屋敷の中間のようなちらかりようで、仕分けに時間がかかる。部屋で仕分けをする4人と、ゴミを外に運び出す4人に分かれて作業はスタートした。スタッフの1人が部屋に入ったときの様子について話す。

「死後数時間しか経ってないので匂いはありませんでした。生ゴミが腐った臭いとかはありましたけど、言われなければ人が亡くなった場所だとはわからないです」

長女が亡くなった日時についてはイーブイも知らないが、臭いがないということはその死からも時間が経っていないように思える。すると、長男の自殺は衝動的なものだったのかもしれない。

玄関から入ってすぐの和室が長男の部屋、奥の和室が長女の部屋だ。長女の部屋からは、思い出の品がたくさん出てきた。4人がまだ子どもだった頃の学校の通知表や卒業アルバム、学校で描いた絵も出てきた。昔はここが子ども部屋だったのだろうか。


依頼主が探していたという通知表。家族の幸せだった頃の痕跡が各所に残されている(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

兄と姉を亡くした次男には大きな後悔が残った。

「頼ってくれればどうにかなったんかなとか、生きているときに僕が顔を出していたら何か変わってたんかなとか、やっぱり突然のことだったので、ああしていたらよかった、こうしていたらよかった、もうそれしかないですね。困っていたらそこで言うやろうし、逆にもう誰を頼ったらいいかわからへんみたいな人にもし兄弟がおるんやったら、言ってくれたら兄弟なんやから何とかするし、そこで一言なかったからすごいモヤモヤするし、元気やったら元気やでっていう一言があるだけで、もうそれだけで大丈夫だと思う」(次男)


家の真ん中にキッチンがあるが、2人で過ごしていた痕跡はない(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


各々の部屋に置いてあった調味料。家庭内別居状態だったことがうかがえる(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


片付け後のキッチン。まずはこの部屋を一掃し、左右の部屋の動線を作った(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「無責任だ」と他人を非難するのは簡単

次男が2人の住む家に入ったのは、6年ぶりのことだったという。それだけ後悔するのであれば、なぜ6年間も家に行かなかったのか。そんな意見が出てきそうだ。しかし、イーブイの二見社長は「そんなの第三者がわかることじゃない」と言う。

「たとえば孤独死した母の家に数カ月帰っていなかった子どもを非難している人がいたとして、遠方に住んでいる可能性とかは考えないのかなって思います。あなたは親が近くに住んでいるかもしれないけど、北海道と沖縄で離れて暮らしている親子だっています。結局、問題を考える頭になっていないんです。その人が想像しているよりも問題は遥かに複雑なんです。後からいろいろ言う人がいますが、そんなの言った者勝ちじゃないですか」

連日、あらゆる問題を抱えたゴミ屋敷の住人と接している二見社長だが、最近、あらためて考えさせられるような出来事があったという。

国内初の内密出産を報じたニュースを見たときのことである。赤ちゃんを産んだ10代の女性が匿名を希望し、母親の名前を記さずに出生届を出す方針を病院が固めたというものだった。

二見社長も初めにこのニュースを見たときは、「なんで自分の子どもなのに頑なに名前を隠すんだろう」と疑問に思ったそうだ。しかし、精神科医の知人にその話をすると「それは考えが足りないだけだ」と言われた。精神科医によれば、このような事例は少なくないという。


空箱に積もったほこり。この家での止まった時間が表れているようだ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

母の再婚相手から娘が性的虐待を受けている。しかし、その子は性的虐待を受けていることを母に言えずにいる。言えば自分を守ってくれるかもしれないが、母は確実に傷ついてしまう。悩んでいるうちに娘は母の再婚相手との子どもを妊娠してしまった。誰にも相談できず、中絶手術が可能な時期を過ぎてしまったというケース。

「まったく想像になかったことだったので、なんでも否定から入ったらいけないなとあらためて思いました。そして、僕の仕事にも当てはまることだなと考えたんです」(二見社長)

2人と一緒に暮らさないことを選んだ次男、次女、親にも、人に言わないだけで仕方のない事情があったのかもしれない。


片付け前の洋室。さまざまなゴミが積み上がり、仕分けに苦戦した(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


片付け後の洋室。カーペットの下の床は綺麗だ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

兄と姉を亡くした弟が語ったこと

作業も4時間を超えるとだいぶ片付いてきた。仕分けをしていたスタッフが運び出しに回り、5時間足らずで部屋はまっさらになった。次男が生まれたときから、この家はモノだらけだったという。「初めて見るここの壁。こんな狭いとこに6人で住んでいたから、僕の部屋はなかったんですよ」と話す次男に、暗い様子はない。


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「悲しい思い出がなくなったなって思って。久々に帰ってきたら兄ちゃんが首吊っていて、この景色を見るとあの姿を思い出すっていうのがあったので。(片付いた部屋を見て)“これからや”とちょっと前向きになれます。2人が亡くなったこと自体はもう変わらないんで、それに引っ張られないようにこれから生きていこうと思います」(次男)

亡くなった2人が暮らした部屋は、ベランダにまでモノがあふれていた。モノが入った状態のタンスの引き出しが積み上がっており、外から見てもだいぶ散らかっている様子が見て取れただろう。


2人の遺体発見時に捜査員が入り、家の中のモノが外に出されたようだ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

街を歩いていると、同じようにベランダにモノがたまっている部屋を目にすることがある。自分が住んでいるマンションで目にすることもあるかもしれない。そのとき、ただ「汚い」と顔をしかめるのか、その背景に何か事情があるかもしれないと考えるのか。

しかし、背景に思いを馳せたとして、「何か人に言えない事情があるに違いない」と決めつけてしまっては、色眼鏡で人を見ていることにもなる。今、世の中ではSNSを中心にあらゆる思い込みが人を追い込んでいるように思えるが、「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」と考えることが相手を理解することにつながるのではないか。

この悲しい現場がそんなことを考えさせてくれた。


片付け前の和室。漫画やゲームソフトなどが散乱していた(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


片付け後の和室。この部屋の壁を見たのは久しぶりだと依頼主も喜ぶ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


「悲しい思い出がなくなった」と依頼主は語った(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

(國友 公司 : ルポライター)