(写真:Ushico/PIXTA)

アメリカの調査会社ギャラップが6月に公表した「グローバル就業環境調査」によると、日本では「熱意あふれる会社員」の割合は5%と、調査した145カ国で最低でした。ほかにも各種調査から、日本の会社員の仕事満足度(ワークエンゲージメント)が低いことが明らかになっています。

「日本の会社員は、世界で最もやる気がない」と言われると、穏やかではありません。日本の会社員は、(伸び悩んでいるものの)給料がそこそこ高く、クビになる心配もあまりありません。にもかかわらず、仕事満足度が低いのはなぜでしょうか。

今回は、日本の会社員と人事部門の責任者・マネジャー、外国人へのヒアリング調査を踏まえて、日本の会社員の仕事満足度が低い理由を考えてみましょう。

従業員はいろいろな原因を指摘

まず、「現場のことは現場に聞け」ということで、20代から50代の会社員56名に仕事満足度についてヒアリングをしました。仕事満足度が「高い」という少数派の意見から。

「2年前に今の会社に転職し、商品開発を担当しています。仕事は前の会社よりもハードですが、学生の頃から商品開発をやってみたいと思っていたので、とても充実した毎日です。年収もアップしましたし」(消費財メーカー、30代)

「職場の人間関係が良好で、雰囲気も明るく、とても働きやすい職場です。休暇を取った時のバックアップや育休などの制度もしっかりしていて、安心して働くことができます」(金融サービス、40代)

一方、大半の回答者は、仕事満足度が「低い」現状と理由を以下のように訴えていました。

「当社では、人事制度や職場運営ルールが意味もなくコロコロと変更されています。とくに評価が不公平で、頑張っても報われないので、優秀な若手ほど会社に見切りをつけて辞めています」(商社、40代)

「新卒採用を絞った影響で、自分の下に若手がなかなか入らず、先が見えない下働きを続けています。長時間労働が続き、私だけでなく職場全体が疲弊しきっています」(重機メーカー、20代)

「上司が自分のことだけ考えていて、メンバーをちゃんとケアしていません。そのため、職場はバラバラで、雰囲気が悪く、会社に行くのが億劫です」(通信、30代)

「若手や中堅には優秀な人材がそこそこいるのに、ゴマすりの無能な人材のほうが昇進しています。経営者も公私混同が激しく、従業員からまったく信頼されていません」(エネルギー、50代)

「会社が面白くない、仕事が面白くない。給料が安すぎる。いろいろありますが、とにかくやる気がしません」(部品メーカー、20代)

マネジャーの意見は?

では、従業員を雇用し、管理する立場の人事部門は、問題と原因をどのように捉えているのでしょうか。大手・中堅企業の人事部門の責任者・マネジャー37名にヒアリングしました。

「満足度調査をし、従業員と面談し、原因の把握に努めています。ただ、部門・役職・性別・年齢などで傾向が毎年のように変わり、理由を分析できていません。したがって、対策のほうも迷走しています」(旅行)

「当社では、若手の満足度が低く、離職率が高まっているので問題視しています。離職した元従業員をフォローしているのですが、仕事・評価・環境・報酬などいろいろな問題が指摘されており、これだという原因はわかっていません」(小売り)

「満足度調査を毎年実施していますが、満足度が低い原因は実に多種多様です。これという切り札で解決できるものではないでしょうし、多視点アプローチで、あれこれ施策を打ち続けるしかないと思っています」(素材メーカー)

「原因はいろいろ」「事情は人それぞれ」ということのようです。そこで、ヒントを求めて、アメリカ・インド・中国・ドイツ・シンガポール・ブラジルなど9カ国14名のビジネスパーソンにヒアリングしました。

「ITのスキルを生かしてコンサルティング業務をしています。インドでもデジタル人材が不足しており、給料はどんどん上がっています。仕事は充実しているし、給料も増えて、言うことありません」(インド、IT)

「以前の勤務先がコロナ禍で業績が悪化したことを受けて、2年前に転職しました。年収が1割ダウンしましたし、仕事も面倒くさい営業職で、満足度はかなり下がっています。そろそろ転職するつもりです」(シンガポール、医療サービス)

海外では仕事内容と報酬を重視

この2人のように私がヒアリングした外国人は、仕事の中身と報酬の2つだけを重視していました。自分に合った仕事をし、報酬が高ければ満足、自分に合わない仕事をし、報酬が低ければ不満足、というわけです。

日本では、仕事と報酬だけでなく、職場環境・人間関係・経営陣への信頼などさまざまな要因が従業員の仕事満足度に影響している、という事実を外国人に伝えたところ、不思議な顔をされました。

「そもそも会社って、雰囲気が暗く、嫌なヤツが多くて、つまらない場所だろ。ブラジル人は、ちゃんと仕事があってそこそこ給料をもらえれて、週末に楽しく踊って過ごせれば大満足。会社には、そんなに多くのことを期待していないよ」(ブラジル、食品メーカー)

日本の会社員の仕事満足度が低い原因は、「実にさまざま」「人それぞれ」です。ただ、筆者は、外国人のコメントを聞いて、「就社」「共同体」という日本企業に特有の慣行・特徴に注目しました。

日本では、新卒学生は会社で担当する職務を定めずに入社します。「就社」です。そして入社後も、ジョブ・ローテーションで数年おきに職務を変えます。職務を明確に定めて「就職」する諸外国と比べて、日本では望まない仕事を担当しているケースがどうしても多くなります。

また、日本人にとって会社は、働いて給料を得る「機能体」というだけでなく、心のやすらぎ・人とのつながり・社会参加などを実現する「共同体」でもあります。そのため、純粋に会社を「機能体」と考える外国人と比べて、会社を評価するポイントがたくさんあり、「ここが足りない」と厳しい評価をします。

日本人は会社に期待しすぎ

このように、日本の会社員は、「就社」によって望まない仕事を嫌々やり、「共同体」である会社にいろいろと期待しすぎて失望する――。これが、そこそこ給料が高く、クビにならない日本の会社員の仕事満足度が低い理由です。

いま、働き方改革が進められています。若い世代の価値観が変わっています。こうした変化によって、日本の会社員の仕事満足度は上向くのでしょうか。筆者は、将来を楽観視しています。

近年、大企業を中心にジョブ型雇用への転換が進められ、国も普及を後押ししています。ジョブ型雇用とは、まさに「就職」です。また近年増えている中途採用では、ジョブ型雇用が主流です。ジョブ型雇用が浸透すれば、望まない仕事を嫌々やるというケースはかなり減るでしょう。

若い世代は、会社生活とプライベートを明確に分け、会社との関わりを必要最小限に抑えようと考えています。F.テンニースが1887年に唱えた「ゲマインシャフト(共同体社会)からゲゼルシャフト(機能体社会)へ」という変化がようやく日本でも起こり、「会社に面倒を見てもらおう」という過剰な期待はなくなりそうです。

もちろん、ジョブ型雇用への転換が掛け声倒れに終わったり、会社側が若い世代の考えを「やる気を見せろ!」「会社を愛せ!」と押さえ込むことが考えられます。企業の経営者・人事部門がどこまでやり方・考え方を変えるのか、大いに注目しましょう。

(日沖 健 : 経営コンサルタント)