日本ではサウナ室のそばに必ずある「水風呂」。サウナ中の快感増幅装置としての用途以外の効能や入り方を紹介します(写真:sasaki106/PIXTA)

日本では、サウナ室のそばに、冷水の張ってある「水風呂」が存在しないサウナ施設はまずお目にかからない。少なくとも日本のサウナファンたちは、「サウナのない水風呂」なんてサウナとも認めたがらないのではないだろうか。

ところが世界に目をやれば、必ずしもサウナとセットでキンキンに冷えた水風呂に入るわけではないし、逆にサウナがあろうがなかろうが、健康法として「水風呂」に入る……というトレンドも見受けられる。

それでは、サウナ中の快感増幅装置としての用途以外に、水風呂にはどんな効能や入り方があるのだろうか

話題の新刊『「最新医学エビデンス」と「最高の入浴法」がいっきにわかる!究極の「サウナフルネス」世界最高の教科書』日本語オリジナル版翻訳を手がけた、フィンランド在住のサウナ文化研究家・こばやし あやな氏が「水風呂の知られざる驚きの健康効果」を解説する。

「熱いサウナ」を好む国は「水風呂」もマスト?

まず、世界のサウナ大国の入浴プロセスに目を向けてみよう。

「SAUNA」という言葉の発祥国フィンランドでは、『「水風呂にこだわる"サウナ好き"」の超残念な盲点』でも説明したとおり、サウナ室のそばに冷水を張った人工的な水風呂が設置されていることは、まずない


人によっては、サウナ室から外気浴に出向くまでに軽く冷水シャワーを浴びるが、とくに冷水浴を挟まず、外気だけでクールダウンする人が大半だ。

これは夏でも低温低湿な気候風土も関係しているだろうが、とくにキンキンに冷えた水風呂を頭に思い描きながら我慢を重ねる必要がないほど、サウナ自体が温度帯も穏やかで十分気持ちよく、満足感を得られるから……という文化的背景もあるだろう。

ただし、湖畔に建てることの多いコテージサウナや、都会のウォーターフロントにつくられる公衆サウナの楽しみ方はまた別だ。

サウナから出たら、まず眼の前の「天然の水風呂」に浸かってひと泳ぎする光景がよく見られる。

海や湖が凍ってしまう冬に至っては、氷に穴を開けてアイスホールスイミングを行う人もいるが、さすがにこれは、国民誰もが当たり前にやっているというわけではない。

むしろ近年は屋外設置型のジャグジー風呂が人気で、サウナの合間に35度前後の不感湯にのんびり浸かりながら、水分補給をしつつ額だけで氷点下の冷気を感じる「部分外気浴」なんてのも人気なのだ。


フィンランドでは、サウナのあと、眼の前の「天然の水風呂」に浸かってひと泳ぎする光景がよく見られる(写真提供:こばやし あやなさん)

一方、フィンランドと同様の「焼け石に水」の蒸気浴法(バーニャ)が根付く隣国ロシアでは、サウナの平均温度帯がフィンランドとは全然違い、端的に言ってメチャクチャ熱い

100度超えも当たり前の空間で、さらに執拗にロウリュを行う文化が根付いているのだ。

そんなロシアのバーニャでは、街なかの公衆浴場でも必ずといってよいほど、深めの水風呂が設置してあり、温冷交代浴を楽しみとする人も多い(ただし、少なくとも女性側では水風呂をスルーして、お茶休憩を始める人も少なくない印象だ)。


ロシアの水風呂(写真提供:こばやし あやなさん)

このように、サウナ浴の一連の所作に水風呂を取り入れるかどうか……は、風土や文化によりけりだ。

水風呂が苦手だからとサウナにも苦手意識を持ってしまっている人も、「サウナの楽しみ方は必ずしも水風呂ありきではない」と考えたら、気がラクになるかもしれない。

究極の冷水浴「冬のアイスホールスイミング」も人気

とはいえ、もし「水風呂」すなわち冷水浴を行うことで、何らかの健康効果が得られると知れば、苦手意識を持った人も、少しはチャレンジしてみようと思うのではないか。

じつはフィンランドでは、究極の冷水浴ともいえる「冬のアイスホールスイミング」自体が、サウナ浴のお供としてだけでなく、健康意識の高い人たちが嗜むレジャーとして、近年大いに注目を集めている。

今日では、総人口550万人の国で約10万人のフィンランド人が、定期的にアイスホールスイミングへ通っているとも言われる。

アイスホール内の水温は、当然ながらほぼゼロ度

放置しておけばすぐにその水面が凍って穴が塞がってしまうような究極の環境下で、初心者なら数秒から十数秒間、じっと身を屈めて耐えることから徐々に身体を慣らしてゆく。

熟練者になると、数十秒から2〜3分近く、遊泳する猛者もいるほどだ。


総人口550万人の国で約10万人のフィンランド人が、定期的にアイスホールスイミングへ通っているとも言われる(写真提供:こばやし あやなさん)

強冷水の刺激がもたらす健康効果についてはさまざまな説やデータがあるが、フィンランドで最もよく取り上げられるのが、筋肉疲労の緩和作用だ。

冷水にさらされた皮膚下では、冷えた器官に血液をたくさん送り込むため、いっきに血流が上がる

血液循環が良好になると、筋肉や組織に溜まった老廃物の排出スピードが上がり、細胞がより多くの酸素を獲得できるため、筋肉疲労からの回復スピードが高まるのだ。

このメソッドは、近年とりわけアスリートたちの間で「コールドセラピー」として普及しており、自宅やジムへの設置用に、水道水を4度まで冷却できる装置を搭載した単身用浴槽を開発した企業もある。

この「フィンランド版水風呂」は、東京五輪の選手村にも持ち込まれ、フィンランド人選手団のためにフル稼働していたそうだ。


東京五輪の選手村にも持ち込まれ、フィンランド人選手団のためにフル稼働した「フィンランド版水風呂」(写真提供:こばやし あやなさん)

冷刺激は「自己肯定感」も高める?

また、フィンランド・オウル大学の温度生物学者の研究によれば、冬季の約3カ月間週4〜7回アイスホールスイミングを行った被験者の風邪の疾患率は、対照群の疾患率に比べて20%も低下していた。

この根拠として、定期的かつ継続的な冷刺激が体組成の免疫システムを強化し、抵抗力を高める可能性が指摘されている。ともあれ、冷水浴には風邪を引きにくくする効果も見込めるというわけだ。

さらに冷水浴のユニークな副次効果として、「冷水の恐怖の克服」という体験が、私たちの「レジリエンス」を高め、自信や自己肯定感を上げてくれる点を挙げる研究者もいる。

レジリエンスとは、ストレスなどの外的圧力から回復し、外的環境に順応する精神力のことだ。

確かに、初めて冷水浴を行うときは、誰でも不安や恐怖を感じる。

だがその際に、パニックにならず心を落ち着かせてそれに挑み、徐々に成功体験を重ねることで、ストレスに打ち勝ち、過酷な外的環境にも冷静に対処できる自信も養えるのだ。

このように、サウナ後の快感を助長するだけでなく、聞けばいいこと尽くめな「冷水浴」だが、実践にはリスクを踏まえたうえで注意すべき点もいくつかある。

まず、サウナ浴と冷水浴それぞれにメリットがあるとはいえ、それらを組み合わせて、間髪を入れずに「極端な温冷交代浴」を行うことが、必ずしも身体に良いとは言い切れない点だ。

『「最新医学エビデンス」と「最高の入浴法」がいっきにわかる!究極の「サウナフルネス」世界最高の教科書』で医学監修を務めた東フィンランド大学のヤリ・ラウッカネン教授も、短時間で極端な温度変化を身体にさらすことの健康効果とリスクは解明不十分なので、心血管系に持病がある人はもちろんのこと、健常な人でも十分に注意を払い、快楽を求めるあまり無理をしないことが肝要だと指摘する。

アイスホールスイミングを趣味とするフィンランド人の中には、そもそも先にサウナに入らず冷水に直行する人もいる。慣れていれば、必ずしも最初に身体を十分に温める必要はないということだ。


水風呂の慣れは人それぞれ。くれぐれも「快楽を求めるあまり無理をしない」ことが大切(写真提供:こばやし あやなさん)

とはいえ、やはりある程度身体が温まってからのほうが冷水にも入りやすいのは確か。身体への負担を考慮するなら、サウナを出たあと、いったんシャワーを浴びて身体や心を落ち着かせてから入水するのもいいだろう。

冷水浴は、なにもサウナで我慢の限界になるまで身体を温めてからでなくとも、十分に爽快さを楽しめるのだから。

「手のひら」「足の裏」「耳たぶ」「頭部」を保護する

それから、疲労回復や健康増進の目的で長時間冷水に入るときには、手のひら足の裏耳たぶおよび頭部を保護することが、フィンランドでは推奨されている。

これらの部位は、とりわけ冷刺激に敏感で真っ先に痺れやすいので、手袋や防水ソックス、ニット帽などで予めカバーしておけば、誰でも水中で滞在できる時間がぐっと延びるのだ。

少なくとも、水中に身を沈めるときに、頭と両手首を水上に出しておくだけでも、随分冷静にいられる。

最後に、冷たい水中で興奮やパニックを起こさないよう、とにかく心を落ち着けてゆっくり入水し、水中でも過剰に身体を動かさず、息を整えようと努めることが最も大事だ。

サウナを出た直後は、つい気がはやって勢いよく水中に駆け込んだり、手足をバタつかせてはしゃいだりしがちだが、それによって発作やパニックが引き起こされては元も子もない。

冷水浴は、多大なメリットとリスクの紙一重の行為だからこそ、冷静さを失わずに恩恵を享受する姿勢を、忘れないでおこう。

(こばやし あやな : サウナ文化研究家、フィンランド在住コーディネーター、翻訳家)