記者会見した「日本香港民主連盟」(JHKDA)メンバー。左から国際協力NGOセンター(JANIC) 理事の若林秀樹氏、元香港区議会議員の葉錦龍(サム・イップ氏、一橋大学大学院国際・公共政策大学院教授の市原麻衣子氏

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香港で国家安全維持法(国安法)が施行されて3年が経過し、表現の自由の後退が指摘される中、「日本香港民主連盟」(JHKDA)が2023年7月20日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見した。スポークスパーソンの葉錦龍(サム・イップ)氏は、国安法が施行されてからの3年で、言論の自由が失われたり中国本土からの移民が押し寄せたりして「香港の所有権はすでに中国本土に移った」と話し、1997年から50年間続くはずだった「1国2制度」が形骸化したことを強調した。

この日は、カンフー映画の世界的スター、ブルース・リー(李小龍)が32歳の若さで死去してから丸50年になる。葉氏はブルース・リーの名言「To hell with circumstances; I create opportunities.」(自らの境遇に嘆くな、自分でチャンスを創り出すんだ)を紹介しながら、今の境遇に負けることなく「共に、私たちは変化を起こすことができる」などと訴えた。

区議会議員の経歴持ち、香港から逃れて日本に移住

JHKDAは「香港とアジア全体をまたいで民主主義、自由、人権を守る決意を持って活動する団体」をうたっており、23年1月に活動を開始。同3月に法人格(一般社団法人)を取得した。

主に発言した葉氏は香港で民主派の区議会議員を務めていた経歴を持つ。19年に初当選したが、21年に政府への忠誠を拒んで辞職。22年10月に言論統制が強まる香港から逃れる形で日本に移住し、23年4月から東大大学院の修士課程で研究生活を送っている。

国安法が施行された3年で起きた香港の変化について問われた葉氏が最初に挙げたのが、メディアの変化だ。反政府色が強かった蘋果日報(アップルデイリー)が21年に廃刊を余儀なくされたほか、生き残った独立系メディアも自己検閲が進んだことで「中立的な情報源に欠けている」状態になった。その一例が「本当はみんながナンセンスだと分かっている」のに、習近平主席が香港を訪問して「重要な言葉」を述べた、などと報じる「政府寄りのプロパガンダ」が多くなったことだ。

それでも、「私たちは沈黙を守らざるを得ない」。レストランで政府を批判する発言をして、仮に隣の人に通報されれば「政府に監視されたり、反政府的、扇動的な言論表現を公共の場で行ったとして逮捕されたりするかもしれない」ためだ。インターネット上の発言が原因で逮捕される人も「私たちはたくさん見てきた」とした。

「香港人の生活水準全体が、中国本土からの移民によって圧迫」

次に挙げたのが、香港の「中国化」だ。コロナ禍による移動制限が緩和されると同時に中国本土から人が押し寄せ、「香港人の生活水準全体が、中国本土からの移民によって圧迫されている」という。レストランや大学に中国本土からの移民が殺到し、「この状況が固定化されている」とも話した。

文化的側面にも言及した。香港では主に広東語と英語、中国本土では主に中国語(北京語=Mandarin Chinese)が使われるが、政府高官が中国語を使う機会が増えているとして、これが「香港政府が香港のアイデンティティを侵食していることのひとつ」だと指摘。中国本土からの移民が独自の生活習慣を持ち込んでいることにも言及した。

こういった事柄を念頭に、

「香港の所有権はすでに中国本土に移った。これがこの国安法の3年で感じていることだ」

と話した。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)