好業績にもかかわらず、なぜ投資家は「ノー」を突きつけたのか(編集部撮影)

地方銀行大手、京都銀行の株主総会結果に注目が集まっている。7月3日に公表された臨時報告書によれば、6月まで頭取を務めていた土井伸宏・代表取締役会長の人事案への賛成率が62%にとどまったためだ。

京都銀の業績は堅調だ。2023年3月期決算の純利益は272億円と、過去最高益に肉薄する水準。好業績かつ株主還元にも積極的な同行が異例の反対票を集めた背景には、地銀のガバナンスをめぐる問題が複雑にからんでいる。

政策保有株がアダに

「政策保有株の多さが原因ではないか」

京都銀行の広報担当者は、土井氏の賛成率が低迷した原因をこう分析する。同行は京都企業を中心に多額の株式を保有しており、政策保有株の残高は3月末時点で9300億円。純資産対比で9割超にのぼる過剰な政策保有株の保有が、経営トップに反対票を投じられた原因と見る。

一方で、政策保有株の残高以外にも要因はありそうだ。機関投資家ごとの賛否はまだ公表されていないが、過去の議決権行使結果を振り返ると、さまざまな理由で京都銀に反対票を突きつけたことが分かる。賛成率の低迷は、ガバナンスをめぐる複合的な要因が重なった結果だ。


最も反対票を集めた原因は、ROE(自己資本利益率)の低さだ。上表の反対理由「業績基準」には、ROEの低さも含まれる。京都銀のROEは2023年3月期実績で2.7%。それ以前も1〜2%台で推移している。2020年から一貫して反対票を投じている東京海上アセットマネジメントは、「過去3期のROE水準が低位」に沈む企業には、3期以上在任する候補者に反対票を投じる方針を掲げている。

ROEの低さには、京都銀固有の事情もある。前述の政策保有株が生み出す評価益だ。2023年3月末時点で、同社の貸借対照表にはその他有価証券評価差額金が5000億円計上されている。

皮肉にも、潤沢な評価益こそが京都銀のROEを押し下げている主因だ。ROEの分母には、株主資本と評価差額金を合算した数値が採用されるためだ。京都銀は評価差額金を控除した「株主資本ROE」を経営指標として重視しており、その場合の数値は5.6%にまで高まる。ROEの解釈をめぐる会社と投資家の溝が埋まらなければ、トップ人事に反対票が集まり続ける。

社外取締役「独立性」の微妙なライン

さらに、反対理由として目立つのは、2021年の総会後に社外取締役に就任した植木英次氏の独立性だ。植木氏はNTTデータの副社長を経て、現在は子会社の社長を務めている。NTTデータは京都銀の株式を保有するほか、京都銀の基幹システムもNTTデータ製だ。

植木氏はNTTデータ自体の役職からはすでに離れており、京都銀は2023年の招集通知において、NTTデータとの取引額は「直近事業年度の連結業務粗利益の1%未満」にとどまるとアピールしている。利害関係者にあたるかは微妙なラインで、植木氏の独立性の判断は機関投資家の間でも分かれている。

植木氏への反対票は、めぐりめぐってトップ人事への反対票へと繋がる。京都銀は取締役9人のうち、社外取締役が3人を占める。国内の機関投資家は取締役総数の3分の1以上を社外取締役を選任することを求めており、それを下回ればトップ人事に反対票を投じる。植木氏の独立性を否定すれば、独立社外取締役が3分の1を下回ることになり、土井氏にも反対票が投じられてしまうのだ。

土井氏の賛成率低下は、今年に始まったことではない。2020年の株主総会では91%の賛成率を集めたが、以来毎年10%のペースで下がっている。回復基調にある業績とは対照的だ。


賛成率が下げ止まらない背景には、2つの要因が考えられる。1つは、機関投資家が求めるガバナンス水準が高まっていることだ。

日興アセットマネジメントは、2022年2月に議決権行使のガイドラインを改定した。同社の独立性基準を満たす社外取締役が取締役総数の3分の1以上選任されない場合、経営トップの人事に反対票を投じる規定を新たに設けた。

2021年は社外取締役の植木氏に反対票を投じる一方、土井氏には賛成していた。ところが、2022年はガイドラインの改定によって、社外取締役の充足率が下回ったこと理由に、土井氏にも反対票を投じるようになった。

もう1つは、地銀に対する「温情」が廃止されつつあることだ。

三井住友DSアセットマネジメントは、2020年および2021年の総会では「業界動向を考慮」し、京都銀の会社提案にすべて賛成している。ところが、2022年にはROEの低迷を理由に株主総会で土井氏に反対票を投じた。京都銀のROEは、2021年と2022年で大きく変わっていない。

同社の広報担当者は「地銀に対しては低金利環境を考慮し、2020〜2021年はROEの水準が抵触していても賛成票を投じた」と説明する。2022年からは、京都銀など一部の地銀に対して特殊事情を廃止し、ガイドライン通りに賛否を下した。

議決権行使は過渡期にある

「取締役の過半数は独立していなければならない」。2022年まではすべての会社提案に賛成していたノルウェー政府年金基金は、2023年は土井氏にのみ反対した。国内の機関投資家の中でも、社外取締役の充足率を現在の3分の1から過半数へと引き上げを検討する動きがみられる。

2022年の総会において、京都銀の人事に反対票を投じた機関投資家の関係者は「議決権行使の方針は過渡期にある。今後も厳格化していくだろう」と指摘する。京都銀の賛成率をめぐる騒動は、機関投資家が求めるガバナンスの要求水準が、年々高まっている光景を象徴している。

(一井 純 : 東洋経済 記者)