6月29日にカフェメニューの全国展開を発表。説明会には人気女優の広瀬すずさん(中央)が登場。その右となりが日本マクドナルドのナショナルマーケティング部・亀井理華部長(記者撮影)

マクドナルドの「カフェ戦略」が、全国の店舗で加速する。

運営会社の日本マクドナルドホールディングス(HD)は6月29日、「McCafé by Barista(マックカフェ バイ バリスタ)」を併設する店舗のみで販売しているメニューを、全国のマクドナルド店舗(全体の約7割の店舗)で7月5日から開始すると発表した。

専門のバリスタが本格的なコーヒーを提供するコーナーであるマックカフェ バイ バリスタを併設する店舗は2012年、東京・原宿表参道に1号店がオープン。現在は、258店舗で導入されている(7月5日時点)。

今回、全国展開する商品はフラッペにクッキーなどをトッピングした「オレオ クッキー チョコフラッペ」、フルーティーな「マンゴースムージー」、そしてバニラクリームをサンドした「マカロン」の3つ。これにより、マックカフェ バイ バリスタのメニューが全国2000店以上のマクドナルド店舗で提供されることになる。

「マクドナルドは『食事をする場所』とのイメージがあるが、コーヒーやマカロンなどのスイーツで『くつろげる場所』としての使い方を多くのお客様に知ってほしい」と、日本マクドナルドのナショナルマーケティング部・亀井理華部長は語る。

既存店好調の中で浮かび上がる課題

コロナ禍の行動制限を受けて売り上げ確保に苦しんだ外食チェーンが多い中で、マクドナルドはテイクアウト需要を取り込むことなどで順調に成長してきた。全店売上高(直営とフランチャイズの店舗売上高を合計したもの)は、2020年5800億円、2021年6500億円、2022年7100億円と、右肩上がりに伸びている。

足元の数字を見ても、好調を継続。同社の6月の既存店売上高は前年同月比5.7%増と、36カ月連続で前年実績を超過した。


今回、全国展開される3商品「マンゴースムージー」「オレオ クッキー チョコフラッペ」「マカロン」(写真:日本マクドナルド)

ただ、その要因をつぶさに見ると、違った側面が浮かび上がる。6月の客単価は11.6%増と2桁の伸びを見せた一方で、同客数については5.3%減少と5カ月連続の前年割れだった。売上高の伸びを支えるのは昨年から実施してきた3度の値上げで、集客には苦戦しているのだ。

マクドナルドの年間来客数は14億人を超える。幅広い層から支持を受け、ピークタイムの昼の時間には店頭に多くの人が並ぶ。ドライブスルー対応の店舗では、ドライブスルーレーンだけで車が収まらず、前面の道路で渋滞が起きることも珍しくない。

ピークタイムの効率化に向け、モバイルオーダーなどのデジタル化や席数の増加などキャパシティの向上に力を入れるも、混雑が完全に解消されているわけではない。


「McCafé by Barista(マックカフェ バイ バリスタ)」を併設する店舗(記者撮影)

マクドナルドの「本気カフェ宣言」

客を受け入れるキャパシティに限界が見えるものの、一段成長のためには客数の増加が不可欠だ。そこで狙うのが、昼と夜の間の時間であるカフェタイムの売り上げ増加である。

ハンバーガーチェーンにとって、カフェタイムは客数の少ないアイドルタイム(ピークタイム以外の閑散時間帯)だ。この時間帯の需要を取り込もうと、マクドナルドはカフェタイムを意識した商品の開発を積極化してきた。

マクドナルドは2023年に入り、「本気カフェ宣言」を掲げた。第1弾として1月に「プレミアムローストコーヒー」を、続く第2弾として2月にカフェラテなどのメニューをそれぞれリニューアル。そして、今回のカフェメニューの全国展開が第3弾となる。

カフェメニューの販売を通常の店舗まで拡大したいという考えは以前からあった。しかし、フラッペやスムージーをつくる機械を導入するための十分なスペースがある店舗は限られていた。そこで従来よりも小型の機械を開発。その小型機械を2021年ごろから順次導入し、7割ほどの店舗に導入が完了したことで今回の全国展開の発表に至った。

今後についても、「バイ バリスタで提供する期間限定の商品を通常の店舗でも販売していきたい」と、亀井部長は意気込む。

強化するのはドリンクメニューにとどまらない。「レストランだけでなくカフェとしても利用できるように、コーヒーや(フードなどの)カフェメニューを強化する」。2023年2月に行われた2022年度決算説明会で、日本マクドナルドHDの日色保社長はそう述べた。

マクドナルドは5月に、レトロ感をコンセプトに、昔ながらの本格的な喫茶店の味わいを再現した企画「喫茶マック」を展開。関連商品として投入した「喫茶店のコーヒーゼリーパフェ」は売れ行き好調で、当初5月末に販売が終了する予定だったが、5月の半ばには品切れする店舗が続出した。今後もスイーツの投入を継続する方針だ。

カフェメニューを含むサイドメニューの拡充は、店舗のピークタイムを分散化する効果が期待できるだけでなく、利益の押し上げに寄与する可能性もある。

ある外食業界関係者は、「カフェメニューの拡充は商品戦略として理にかなっている。ハンバーガーのセットメニューに、もう一品加える客も出てくるだろう。そうなると、客単価の上昇につながる」と話す。

また、ハンバーガーに比べて、カフェメニューなどのサイドメニューは原価率が低いとされる。牛肉やポテトなどの輸入食材の価格が高騰する中で、「カフェメニューがたくさん売れれば、利益的にもプラスだ」と、マクドナルドのある幹部は明かす。

競合のモスバーガーもカフェを強化

カフェタイムの集客強化は、ハンバーガーチェーン各社の課題でもある。

競合のモスバーガーを運営するモスフードサービスも、昼の時間以外の需要を創出しようと「売り上げ平準化」を経営戦略として掲げる。そこで、カフェタイムを意識して、カフェメニューを提供する「モスバーガー&カフェ」を2019年から展開している。


モスフードサービスが展開する「モスバーガー&カフェ」。通常店舗にはないパンケーキなどを提供する(記者撮影)

モスバーガー&カフェは通常のモスバーガーのメニューに加え、パンケーキなどのメニューを販売。カフェラテやココアなどモスバーガー&カフェ限定のドリンクメニューも提供している。

通常の店舗よりも大きめのテーブルを設置し、「食事をするだけではなく、会話も楽しめるような空間」(モスフードサービス広報)を目指す。

「モスバーガー&カフェ」は6月末時点で63店舗と、全体の5%ほど。今2023年3月期も対応店舗の増加を計画する。

マクドナルドやモスバーガーはカフェメニューの展開に邁進するが、外食関係者の見方は冷ややかだ。「ハンバーガーは昼に食べるものというイメージが強い」(複数の外食業界関係者)。大手カフェチェーンのある担当者は、「(マクドナルドと当チェーンでは)店舗の使われ方が違うので、直接的な競合にはならないだろう。カフェメニューを目的にマクドナルドを選ぶ消費者は、それほどいないのではないか」と指摘する。

こういった業界関係者の見方を覆し、カフェとしての利用を広げることができるのか。消費者から支持の得られるカフェやスイーツのメニューを投入し続けることができるかが、成否のカギを握りそうだ。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)