恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶【Q】はこちら:「他の女性の存在を完璧に無くした部屋なのに…」5回目のデートの後、女が何もせずに帰ったワケ




Episode06【A】:高橋 彩、29歳。
元彼が植え付けた、男性に対するトラウマ。


― はぁ〜。疲れた。

打ち合わせ後の会議室。

私は、ひとりになりたくて後輩のADに声をかける。

「いいよ。私、片付けしとく」
「すみません!ありがとうございます」

東京のテレビ局に入社して5年。昨年からディレクターに昇進したのはいいが、出会いは増えない。

そんなとき、仕事仲間と同じタイミングで始めたマッチングアプリ。

『TK:たくさんメッセージもらっていると思いますが、ATさんが可愛すぎて、連絡せずにはいられませんでした!金融関係で働いていて、中央区に住んでいます。ぜひぜひ、一度お食事を!!』

― ぜひぜひって(笑)。

昨日丸一日編集作業に追われ、疲れていたこともあり、私はふっと笑ってしまった。

元彼と嫌な別れ方をしたため、なかなか次の恋に踏み出せないでいたが、このままでは、女性として干からびてしまう。

そんな焦りのせいもあるのだろう、気づいたらTKこと拓也に返信していた。




『拓也:今日も雨だね〜』

『彩:ね。髪が死んでる』

『拓也:笑。明日会えるから仕事頑張れるわ』

『彩:(照れるスタンプ)』

拓也とは、何気ない会話をする仲になっていた。

― これで会ってみて、合わなかったらきついな…。

そう思いつつも毎日連絡をくれる拓也に、悪い気はしなかった。

彼のプロフィールはだいぶさっぱりしていた。

『メガバンクで、金融商品開発の仕事をしています。真剣に将来を見据えてお付き合いできる方と出会いたくて始めました。よろしくお願いします』

でも自分の長所や求める女性像をダラダラと書く人が苦手な私にはちょうどよく、すぐに会いたいと思った。




そして、初デートの日。

拓也は、都立大学にある『トラットリア ラ バラッカ』を予約してくれた。

私の家の近くにしてくれたことが、とてもうれしかった。

男性は、自分の家の近くや会社の近くの店を提案しがちだからだ。

誰にでもできそうでそうじゃないことを、サラっとやってくれる人が私は好きだ。

「わぁ!ピザ、美味しそうじゃない?」

昔からある店なので存在は知っていたが、来たことはなかったから、なおさらありがたい。

「ここに来たら釜焼きピザを食べないとね。あ、ピザじゃない。ピッツァ」

「ピッツァをね。私、無難にマルゲリータがいいんだけど、他に気になるのある?」

拓也は優しい。

初対面で緊張せざるを得ない空気を、なんとか和ませようとしている。

「僕も絶対それがいい!」
「じゃあ、マルゲリータに決まりね。あとは…」

彼のおかげで、フランクに話せる。きっと、拓也はすごくモテると思う。

「アプリはどのくらい使ってるの?何人くらい会った?」

食事から30分くらい経った頃、私は拓也に聞いてみた。


「先月始めたばかりだよ。会ったのは…彩ちゃんが2人目かな」

予想外の返答に、私は驚いた。女性慣れしているので、もっと女性と会って遊んでいると思ったから。

「そうなんだ。意外!私は今月始めたばかりなの。初心者同士だね」

「そうだね。でも、彩ちゃんと出会えたから、もうやめてもいいかも」

― えっ…そうなの?

私も、拓也のことが気になり始めていたので、アプリをやめてもいいと言ってくれたことに感動した。

「彩ちゃん、まだ飲める?次のお店行かない?」

「まだ飲めるし行きたいんだけど、明日の朝早くて…また飲み行こ!」

私は、大量に残っている編集作業のことを考えて、その日は食事だけで解散した。




拓也は、その後もマメに連絡をくれ、何回か会った。

そして、5回目のデートの帰り。銀座のイタリアンで食事をしたあとのことだった。

「ねぇ、拓也くん。私、明日午後出勤なの」

私は、2軒目の店を探している彼の顔をのぞきながら言ってみた。

「そうなんだ?めっちゃいいじゃん」
「どうする…?」

そして、拓也の家に招待されたのだ。

いい大人なのだから、順序が逆になっても構わないと私は思っていた。

それで、ふたりの関係が変わるのならば。

「彩ちゃん、まだ飲むよね?マッカランあるけど、ソーダで割る?」

「うん。ソーダ多めで」
「了解〜!」

酔いすぎないように、そう拓也にリクエストする。

彼の部屋は思っていたよりも綺麗で、家具もモノトーンに統一されていてオシャレだった。

それが妙に私をドキドキさせる。

その時、ローテーブルの上に置いてある拓也のスマホが鳴った。




― ……ん?

通知が丸見えだったので、私は画面を見てしまった。

見覚えのあるマッチングアプリのアイコン。他のアプリからの通知もあった。

『〇〇さんからいいねがきました』
『△△さんからメッセージが届きました』
『××さんからメッセージが届きました』

― そっか。やっぱりやめてないのね。

拓也とはまだ付き合ってはいないし、彼が何をやろうと自由だ。

でも、やっぱり気持ちがいいものではない。

― あれは、ただのリップサービスだったのね…。

私は急に冷めた。

「拓也くん、スマホ。なんだかたくさん通知きてるよ」

そう言って、自分のスマホとソファに置いたカーディガンをバッグに押し込む。

「ごめん、やっぱり帰ろうかな。明日も仕事だし」

「えっ!?」

拓也は、グラスを持ったまま固まっている。




私が元彼と別れた原因は、彼が私に内緒でマッチングアプリを使っていたからだ。

そこで知り合った女の子と、実際に飲みに行っていた。

大人の関係があったのかは知らないが、他の女性を求めていること自体が気持ち悪くて別れた。

それから、軽く男性不信になっている。

どんな小さな芽であっても、見えてしまったら私には無理なのだ。それを摘み取ってもキリがない。

「彩ちゃんに出会えたから、もう他の子はいらない」

それを心から思って実行してくれる人じゃなければ、私は付き合えないだろう。

裏を返せば、そのくらい魅力がある女性にならなければならないのだが。

拓也は私に本気ではないし、他と比べたいのだと思う。

じゃなければ、曖昧な関係のまま、5回もデートしないだろう。

恋愛は、仕事より難しい。

だから私は、仕事に逃げてしまうのかもしれない。

「拓也くん、さよなら」

彼のマンションを出たあと、小さくつぶやいた。


マッチングアプリ攻略の道?
相手への本気度は行動に表れる。真剣交際を望むならとことん誠実に。



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