品川方にある引き上げ線から見た京急川崎駅。画面右端の一帯で再開発の計画がある(記者撮影)

京浜急行電鉄の京急本線は、東京都港区の泉岳寺駅と神奈川県横須賀市の浦賀駅を結ぶ56.7kmの路線だ。横浜・三浦半島方面に向かう快特列車は都心のターミナル、品川を出ると羽田空港方面への空港線を分ける京急蒲田駅を経て六郷川橋梁を渡り、神奈川県に入る。川を渡ってすぐの位置にあるのが京急川崎駅。電車接近時には川崎市出身の坂本九の名曲「上を向いて歩こう」のメロディーがホームに流れる。

2021年度の駅別1日平均乗降人員でみると、京急川崎は10万3024人で、横浜、品川、上大岡に次いで京急全線(泉岳寺を除く)で4位。地理的にも品川と横浜の間に位置する要衝の駅といえる。

ホームが1階と2階にある

京急川崎駅の本線のホームは高架となっていて、横浜・三浦海岸方面(下り)の電車は4・5番線、羽田空港・品川方面(上り)の電車は6・7番線に発着する。快特や特急、エアポート急行、普通などが停車する乗換駅でもある。京急で7番線まである駅は川崎だけだ。では1〜3番線はどこにあるかというと、1階にある大師線に割り当てられている。

大師線は京急川崎を起点に東へ、小島新田まで延びる4.5kmの路線。4両編成の電車が往復する。京急のルーツである大師電気鉄道が1899年1月21日、川崎―大師間(当時)を開業させた京急創業の地といえる。日本初の線路幅1435mmの標準軌、関東初の電車という日本鉄道史の上で重要な一面も持っている。

その名称の通り、川崎大師平間寺への参拝客輸送を目的として開業しており、正月には多くの初詣客でにぎわう。1番線は普段はあまり使われておらず、スペースが広いためイベント時に活用される。2019年1月に京急が開業120周年の記念式典を開いたのも大師線ホーム。線路脇に「0kmポスト」の記念碑を見ることができる。


京急川崎駅は2階に本線、1階に大師線のホームがある(記者撮影)

大師線はかつて沿線に建ち並ぶ工場で働く人を運んでいた。近年はその跡地などを活用して開発されたマンションの住民たちの通勤通学や外出の足として利用されている。短い区間を健気に往復する電車、と日中はのんびりした雰囲気に違いないが、朝夕のラッシュ時間帯は1時間あたり12往復が走る実力派路線でもある。


3番線から出発した大師線の電車。左奥に高架の本線に上がる連絡線が見える(記者撮影)

地上の大師線と高架の本線は連絡線で繋がっていて、1日に数回、回送列車が行き来している。高架上の上下線の間には引き上げ線がある。2010年にエアポート急行が登場する前は、この引き上げ線で羽田空港発の特急(通称「D特」)を退避させ、京急川崎駅5番線であとから来る列車の後ろに連結する作業をしていた。

品川・羽田・横浜に近い

現在、京急川崎駅は、品川から日中に快特を利用した場合の所要時間はわずか10分。羽田空港第1・第2ターミナルとの間はエアポート急行を利用すると17分しかかからない。この好立地を生かして京急では駅北側の本線沿いに地上14階建て、199戸のマンション「プライム川崎」を建設中だ。近くの大師線沿いにはすでに「プライムスタイル川崎」がある。

生活事業創造本部すまい事業部の担当者、山本宗広さんは「川崎は京急が成長戦略で掲げる品川・羽田・横浜の『成長トライアングルゾーン』の中心地。シングルや共働き向けの1LDK・2LDKが主軸で売れ行きはかなり好調だ」と明かす。村山太一さんは「どこへ行くにしても便利な立地でありながら、駅周辺に商業施設がコンパクトにまとまっていて生活しやすいのが川崎の魅力」と説明する。

京急川崎駅は、東海道本線・京浜東北線・南武線が発着するJR川崎駅の東に位置する。両駅の間には、地上に川崎駅東口バスターミナル、地下にショッピングセンター「川崎アゼリア」がある。アゼリアはレストランやカフェ、ファッションの店舗が軒を連ね、雨の日も濡れずに移動ができる。商業施設「川崎モアーズ」の地下2階との間には、わずか5段、ギネスに登録された「世界一短いエスカレーター」があることで有名だ。


京急川崎駅を出発し横浜方面(画面奥)へ向かう電車。周辺には商業施設が集積している(記者撮影)

旧東海道が走る京急本線の東側には縦横ににぎやかな商店街が広がっているほか、JR・京急の川崎駅周辺はシネコンが入る大型商業施設が集積する。クラシックコンサートを開催する「ミューザ川崎シンフォニーホール」もあり、一大エンターテインメント拠点となっている。

近い将来、この街のエンタメ色をさらに強めるスポットが誕生しそうだ。ディー・エヌ・エーと京急が共同で、京急本線と東海道線に挟まれた敷地で再開発プロジェクトを予定する。発表資料によると「新アリーナおよび宿泊施設、飲食施設、公園機能などを備える商業施設を含む複合エンターテインメント施設の建設・開業を目指す」という。


鉄道施設から見たアリーナの建設予定地(記者撮影)

アリーナはプロバスケットボール「B.LEAGUE」試合開催時に約1万人を収容できる規模になる。2025年に着工し、開業目標は2028年10月。建設予定地は自動車学校の「KANTOモータースクール川崎校」がある敷地で、同校は2024年3月末で閉校する。

24階建てビルの計画も

また、隣接するエリアには京急が指定開発行為者を務める再開発事業の計画がある。地上24階建て、高さ約119mの商業・オフィスビルを建設する。対象エリアにある「ヨドバシアウトレット京急川崎」は1971年にオープンしたボウリング場の「川崎京急ボウル」だった建物だ。京急川崎駅の井上一駅長は「社内のボウリング大会をやった思い出がある」と振り返る。


京急川崎駅の井上一駅長(記者撮影)

井上駅長は横須賀市の出身。運転士や三浦海岸駅の駅長などを経験し、2021年9月から京急川崎駅長を務める。「昔は工場地帯とギャンブルのイメージだったが、最近は家族連れやカップルが多い街になってきた。栄えている街なので駅の業務はいろいろ大変なこともあるが、京急全線で4番目に乗降の多い駅の駅長を任されるのは誇りに思う」と話す。

東海道の川崎宿は2023年が「起立400年」の記念の年。五十三次で2番目に位置するが、実はもっとも新しい。1601年に江戸幕府が定めた駅制で、両隣の品川、神奈川両宿の間に距離があったため、宿場を追加したという。現代ではどちらも大ターミナルに成長した品川と横浜を結ぶ川崎。駅周辺の再開発を機に神奈川の玄関口としての存在感が増しそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)