大工からハリウッドスターへ驚きの転身!? 80歳のハリソン・フォードが辿った数奇なキャリアと、ヒーローを地でいく意外なプライベート

大ヒットシリーズ5作目『インディ・ジョーンズ運命のダイヤル』で15年ぶりにインディを演じたハリソン・フォード。35歳での遅咲きのブレイクから現在まで、知られざる過去を振り返る。(トップ画像:©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.)

大工で身を立てた不遇時代

『スター・ウォーズ』&『インディ・ジョーンズ』シリーズで世界的な支持を得て、ハリウッドを代表する俳優のひとりとなったハリソン・フォード。彼は従来のスターが通ってきたプロセスとは異なる形で成功をつかみ、また独自の経歴やエピソードを持つアクターとしても知られている。

1942年7月13日、イリノイ州シカゴに生まれたハリソンは、1960年に地元のメインイースト高校を卒業し、ウィスコンシン州のリポン大学に進学。4回生の最後の学期に演劇のクラスを受講して学生演劇へとのめり込み、職業俳優の道を志した。

1963年にはロサンゼルスへとわたり、ハリウッドでコロンビア映画と週150ドルのスタジオ俳優契約を結ぶ。そして1964年には『現金作戦』(1966)でベルボーイとして初めて役を演じ、夢への糸口をつかんだのである。

『現金作戦』(1966)ではクレジットなしのベルボーイ役に扮した
Moviestore Collection/AFLO

ところが、長い下積みを経ても一向に芽が出ないことを懸念したハリソンは、大工になって収入を得ようと決意。公立図書館で建築関係の本を読みあさり、なんと独学で技術を習得したのだ。しかもその腕前はハリウッドスターを顧客としてまたたくまに拡がり、収入はスタジオが彼に払う俳優のギャラの何倍にもなったという。

生活の支えとして始めた大工だったが、この仕事によって映画人としての創造性と自己鍛錬が得られ、また物事にあたる際の集中力と自信を得たのだと、後にハリソンは折に触れて述懐している。

『スター・ウォーズ』で遅咲きのブレイク

こうして大工仕事と俳優を掛け持ちしてきたハリソンだが、フランシス・フォード・コッポラ監督作である『カンバセーション…盗聴…』(1974)と『地獄の黙示録』(1979)に大工兼俳優として参加。またコッポラの弟分であるジョージ・ルーカスが監督した青春映画『アメリカン・グラフィティ』(1973)で重要なキャラクターを演じ、それらが役者としてのターニングポイントとなった。

『スター・ウォーズ』(1977)のハン・ソロ役でスターの仲間入りを果たしたハリソン(右)。ルーク・スカイウォーカーを演じたマーク・ハミル(左)、レイアを演じたキャリー・フィッシャー(中央)と共に
Capital Pictures/amanaimages

そして1977年に再びルーカスと組み、『スター・ウォーズ』(1977)でアウトローだが頼れる宇宙の運び屋ハン・ソロを演じ、映画は空前の大ヒット。彼の知名度は飛躍的に高まった。

このときハリソンは35歳。まさに遅咲きのブレイクである。

さらに同作は『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(1983)と2本の続編を展開させた。加えて前者のラフ編集版を見たスティーヴン・スピルバーグが、彼をアクション・アドベンチャー映画『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)で、冒険心の旺盛な考古学者インディ・ジョーンズ役に抜擢したのだ。本作もまた大成功を収め、ハリソンの人気は不動のものとなったのである。

前掲のアクション・キャラクターを演じて俳優としての成功を得た彼は、続いて『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)でピーター・ウィアーと、『フランティック』(1988)でロマン・ポランスキーと組むなど、作家性の強い監督の作品で演技派としてのキャパシティを大きく拡げていった。

『ブレードランナー』(1982)の来日会見

なかでも出色はリドリー・スコットが手がけた近未来SF『ブレードランナー』(1982)といえる。演じた特捜班のリック・デッカード役は、大衆性とは対照的なマニアックでカルトな支持をハリソンにもたらすことになる。

『逃亡者』(1993)でも来日を果たした

1990年代にはトム・クランシー原作の『パトリオット・ゲーム』(1992)『今そこにある危機』(1994)で、主人公であるCIAエージェントのジャック・ライアンを演じ、スクリーン映えのするアクションと確かな演技を併せ持つ「世界でもっとも商業的に成功した俳優」としての地位を盤石なものにしたのだ。

映画を地でいくヒーロー活動

自身が保有する飛行機に乗り込むハリソン
Splash/アフロ

そんなハリソン自身も、先述した映画ヒーローのような側面を持っている。彼は熟練した船乗りで、世界のさまざまな場所を航行するアクティブな行動力を持ち、また飛行家としてパイロットライセンスを取得。ヘリコプターやプライベートジェット、さらにはヴィンテージ機を含む多くの航空機のコレクションを所有している。

しかも、彼はその操縦能力を活かしていくつかの捜索救助活動に参加し、災害時の救援や行方不明者の捜索にあたったこともある。2000年には自らヘリコプターを操縦し、ワイオミング州のテーブルマウンテンの頂上で高山病に苦しむ2人の女性ハイカーを救出。その翌年にも、イエローストーン国立公園で、ボーイスカウト部隊から離脱し行方不明になった13歳の少年を救い出している。

また2017年の9月には、ニューヨーク市の路上で車両通行止めになった際、他のドライバーが回避できるよう現場で先導。同年11月にはカリフォルニア州サンパウロで、ハイウェイから転落した女性ドライバーを救っている。

いっぽうで、2015年3月には自身が飛行機事故を起こし話題となった。航空機でカリフォルニアのサンタモニカを離陸した直後、エンジントラブルに見舞われ、ベニスのゴルフコースに不時着せざるを得なくなったのだ。その際に体の数箇所を骨折しており、それらのエピソードは良くも悪くも、彼が演じてきたヒーロー像を地でいくものといえるだろう。

SFやアクションに冷たかった理由

ただ、そのような映画キャラクターと本人との同一視をハリソン自身は嫌っており、特に彼を象徴するハン・ソロやインディ・ジョーンズに関しては距離を置き、マスコミやファンに対してそっけない対応をしてきた時期がある。理由は以下に顕著で、これは1983年、フランスの第8回ドービル・アメリカ映画祭でマスコミ向けに語った言葉だ。

「僕はスター俳優ではなくてアルチザン(職人)俳優だ。でも世間からはイメージが固定され、ソロやインディでしか僕を語ろうとしない。僕は決して漫画の主人公ではないんだよ」

もっとも、そこには彼なりの戦略があり、キャリアの初期にはジャンルを固定させず、さまざまな役を演じることができる役者だと思われるようマーケティングを考慮してきた。それはブレイクが遅かった俳優の慎重さのあらわれでもあったが、結果として窮屈さを招くことにもなったのだろう。

あのニヒルな笑顔が象徴するもの

風向きが変わったのは2000年代。作品のアニバーサリーに応じて製作された『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー』などのメイキング・ドキュメンタリーへの出演だ。それらの作品の中で、過去のキャラクターへの言及が徐々に見られるようになったのだ。

さらにスーパーヒーロー映画を筆頭とするフランチャイズの活性化など、ハリウッドの潮目の変化が、再びハリソンを名物キャラクターに戻らせる機会を与えている。

2008年には『インディ・ジョーンズとクリスタル・スカルの王国』(2008)で19年ぶりにインディ・ジョーンズに扮し、そして2015年に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)でハン・ソロを演じるなど、往年のファンを歓喜させた。さらに2年後の『ブレードランナー 2049』(2017)で再びデッカードを演じ、そのレジェンダリーな存在を若い世代にも知らしめることとなったのである。

最新作『インディ・ジョーンズ運命のダイヤル』
©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

そして2023年、ハリソンはインディ・ジョーンズを15年ぶりに演じる機会を得て、アクションの世界に戻ってきた。時間に干渉することのできるアルキメデスの秘宝「運命のダイアル」をめぐって、インディは再びナチスと死闘を繰り広げる。

知性を放棄したような騒々しいアクション映画が量産される今、本作は王道の冒険アドベンチャーの価値を高らかに主張している。また彼のようなヒーローを必要としなくなった時代に、インディ・ジョーンズというキャラクターを再考する深遠なテーマが込められている。

監督を担当したジェームズ・マンゴールドは、長年ビッグスクリーンの映画に適応してきたハリソン・フォードという役者の本質をこう語っている。

「撮影を終えてから6か月後の編集作業中、ハリソンのクローズアップを見てハッとさせられた。表情からインディが何を考えているのかが伝わるんだ。本当に優れた役者は目で感情を表現する。ハリソンはそれをやるうえに、横長のカメラフレームの中に自分がどう存在しているのかも理解している。アクションシーンもレンズに合わせて意識しながら演技をするんだ。それは本当にすごいと思ったね」

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から、すでに42年。長きシリーズの末尾を飾るとも噂される『運命のダイヤル』だが、同作は老境に達した役者のシニア・コンテンツではない。むしろ王者の風格と呼ぶにふさわしい、偉大な俳優ハリソン・フォードならではの“到達点”なのだ。

文/尾崎一男

ハリソン・フォード

1942年7月13日、アメリカ・イリノイ州シカゴ出身。1966年に『現金作戦』で映画デビュー。1977年に『スター・ウォーズ』にハン・ソロ役で出演し一躍人気スターに。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)でインディ・ジョーンズを演じ、人気を不動のものにした。代表作は『ブレードランナー』(1982)『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)『パトリオット・ゲーム』(1992)『逃亡者』(1993)『今そこにある危機』(1994)『サブリナ』(1995)『K-19』(2002)『ブレードランナー2049』(2017)など。『Captain America: Brave New World』(2024)『Thunderbolts』(2024)が待機中。

『インディ・ジョーンズと運命の炎』(2023)Indiana Jones and the Dial of Destiny 上映時間:2時間34分/アメリカ

“人類の歴史を変える力”を持つ究極の秘宝《運命のダイヤル》を巡り、考古学者にして冒険家のインディ(ハリソン・フォード)が、因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)と全世界を股にかけて陸・海・空と全方位で争奪戦を繰り広げる! 巨匠ジョン・ウィリアムズのおなじみのテーマ曲に乗せて、インディ・ジョーンズと共に映画館で壮大な冒険を体験する究極のアクション・アドベンチャーの幕が上がる―─。

監督 :ジェームズ・マンゴールド

製作総指揮 :スティーブン・スピルバーグ, ジョージ・ルーカス

音楽 :ジョン・ウィリアムズ

キャスト:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、アントニオ・バンデラス、ジョン・リス=デイヴィス、マッツ・ミケルセン

2023年6月30日(金)より全国劇場にて公開

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/indianajones-dial

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