企画書作成のコツ、思考を深める方法をご紹介(写真:アン・デオール/PIXTA)

26歳でコンサルティングファームに転職し、「いかに自分が考えられていないのかを思い知った」という田中耕比古氏。その後、さまざまなコンサルティングプロジェクトに従事し、本や先輩たちから学ぶなかで体系化してきた「考える技術」をまとめた著書が『思考の手順』だ。そのなかから、思考を深める方法の1つを紹介する。

アウトプットを客観的に眺める

言語化、あるいは、図示を行うことは、「自分自身の中にあるものを外部に書き記す」という行為です。この活動を行うことの最大の便益は、ぼんやりと思っていたものが、具体的になり詳細化されていくことです。

この過程において重要なのは、書き記されたものを見ながら、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を繰り返していくところです。これは、さしずめ、ジグソーパズルを組み上げるようなものです。似た色のもの同士を集めて、形がうまくはまりそうなものを組み合わせる。形がうまくフィットしなければ、また別のピースを持ってきて試してみる。そういう繰り返しによって、思考が組み上がっていきます。

お気づきの通り、言語化、図示を行う中で、頭の中に思い浮かんでいるあれこれがジグソーパズルのピースとして、紙の上に書き出されていくことが大きなポイントです。テキストであれ図であれ、ひとたびアウトプットとして、自分の外に具現化されたものは、自分自身と切り離した存在として、客観的に捉えていくことができます。

もちろん、精魂込めて作った資料や、練りに練った企画書には、思いが込もっていますから、誰かに否定されると「何でそんなことを言うんだ」と思ってしまうこともあります。アウトプットを自分の分身のように感じてしまうわけです。

しかし、思考を深め、発想を広げていく過程においては、そうした思い入れは逆効果です。積極的に、自分自身と切り離して、客観視していくことを心がけましょう。

コツとしては「他人が作った資料だと思う」ことです。

もともと自分が思っていたことですし、自分が紙に書いたものなのですが、その意識を一度捨てて、「これは、どういう意味だろうか」「これは、正しいだろうか」という観点で眺めてみるのです。

批判されているのは自分ではない

余談になりますが、私が駆け出しコンサルタントの頃、上司や先輩から非常に厳しいレビューを受けていました。完膚なきまでに叩きのめされるという表現が適するくらいの厳しさで、作った資料の原型をとどめないのが当たり前という状況でした。

この状況は非常にツラいもので、精神的にも苦しいものでしたが、その一方で「新しい視点」を与えてくれる貴重な機会でもありました。

コンサルタントという仕事は、誰よりも深く考えることが求められます。そのため私は、この学びの機会を最大限に活用することが、コンサルタントとしての成長の鍵だと捉えました。

そのため、こういう状況において、「手直しされているのは僕ではなく、この紙である」と考えることにしました。そうすることで、否定されているのは私自身ではなく、アウトプットとして私から切り離されたものであると捉えられ、レビュー内容を素直に受け止められるようになるわけです。

ちなみに、同じようなツラい経験をすると、誰しも同じようなことを考えるようなのですが、ある先輩は「上司と一緒になって、自分の紙をレビューする」という風に考えていたそうです。彼は自分のアウトプットに対して「確かに、これ、ぜんぜんイケてないですね。いったい誰が作ったんですかね」と言えるくらいまで客観視していたそうです。

いずれにしても、書き出されたものを自分と切り離して、そのアウトプットがより良いものになるように改善ポイントを見つけ出すことは、思考を深めるための重要なテクニックです。加えて、誰かに指摘されたことを「指摘された具体的な内容」だけではなく、「その指摘に至った理由」、すなわち「その人の発想や着眼点」まで踏み込んで理解しておくことができると、自分の中に優秀なレビュアー人格を持つことができます。

客観的に物事を見ると言ったところで、普段の自分と同じ態度だけで取り組んでいては、物事の切り口が単調になってしまいます。「あの人ならこういうことを言いそうだ」「あの人ならこういう整理をするだろう」といった視点を提供してくれる人格を持つことは、思考を深めていくための有用なコツの1つです。

自分のメモを音読する

さて、客観視することの有用性はご理解いただけたことかと思うのですが、とはいえ、最初のうちはどう取り組んだら良いか悩ましいことかと思います。では、具体的にどういう工夫をすれば、自分のメモを客観的に眺めることができるのでしょうか。

私がおすすめしたいのは「音読」です。声に出して読む。これです。

多くの人は「黙読」で済ませます。文章や単語を目で追って、しっかり問題なく読めていると感じ、そして、論理的矛盾はないという結論に至ります。しかし、実際には思考をうまく表現できていない、論理的に整理できていない、という状況に陥ってしまいがちです。

それが発覚するのは、実際に、ほかの誰かに考えを説明しようとしたときです。それでは遅いのです。その手前の段階で、自力で考えの穴を潰し込んでおくべきです。

そこで「音読」です。

文章の場合は、最初から最後まで通して読んでみましょう。意味の通った文章は、ストレスなく読めます。「何かつっかえるな」「わかりにくいな」と感じたら、そこには何かおかしな表現が紛れ込んでいます。目で見た文章を、脳を通して口から出す。そして、その音を耳から聞いて、再度、脳に戻して理解する。このサイクルです。

音読しようとすると、目の前の文章の一言一句を理解しようと努めます。そして、それが耳から聞こえてくると、完全に自分とは切り離された客観的な情報として、その内容を捉えるようになります。

英語学習の練習法として「シャドーイング(shadowing)」というものがあります。英語を聞きながら、聞こえたままを発音してみる、という手法です。うまく聞き取れていないと同じことは言えませんから、自分がどの程度聞き取れているかを自覚することができます。また、同時に期待される効果として「聞き取ることに注力する」という意識が磨かれます。

音読で目指すところもそれと非常に近く、「読むことに注力する」「読めているかどうかを自覚する」ということがゴールです。

読んでいる文章が正しくない可能性に目を向ける

ただ、シャドーイングの場合は、聞いている英語は常に正しいという前提で取り組みますが、音読の場合は、読んでいる文章が正しくない可能性に目を向けましょう。読んでいる文章の意味が通らない場合は、それをどう直していくかを考えていくわけです。


図の場合は、単語を音読するのみならず、その構造について声に出して説明してみましょう。そのアウトプットを、初めて会う誰かに説明しようとしたときに、あなたはどのような表現で、どの順番で説明するのでしょう。

必ずしも、「完成したものを説明する」と捉えなくてもかまいません。誰かに相談する、誰かと議論するという前提で、「自分は、このように考えている」「このあたりに悩んでいる」「ここについてはどう思うか」などを誰かに話す“つもり”で説明を試みましょう。

そういう相談をするためには、「自分がどの程度の深さで考えたのか」「そのときに置いている前提は何か」「どういう論理構造でここにたどり着いたのか」を言語化しておく必要があります。

ここが、まさに「思考の深さ」の現れるところです。

(田中 耕比古 : ギックス取締役、共同創業者)