天竜二俣駅の駅名標が「だいさんむら」に(筆者撮影)

アニメと地域との関わりは深い。身近な公共交通機関である鉄道をテーマにしたものや、ストーリーの伏線にしたアニメ作品も、たくさん存在する。

最近のヒット作品でも多くの鉄道が登場しているが、ここ数年では「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が記憶に残る。この映画は、2021年3月8日に公開された作品で、庵野秀明氏が総監督を務める。

庵野氏は、建築物や機械などの人工物の描写に定評があり、電柱や電線など、細部までリアルな表現が多く、また鉄道自体への愛着も深い。

鉄道に関しての思い入れを特に感じる「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズでは、箱根登山鉄道のモハ2形が爆風で飛ばされるシーンや、DD51形ディーゼル機関車が牽くシキ880形大型貨車に、大型電源装置を搭載するシーンなども登場しており、完結編の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」では、そんな鉄道へのこだわりがあふれ出たように思える。

天竜浜名湖鉄道がモデルに

ストーリー序盤から登場したのは、静岡県にある天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅をモデルの一つとした「第3村」だ。懐かしさ漂うレトロなホーム、転車台や扇形車庫のある車両基地、そこに疎開させられているクモハ123形、105系の姿が描かれていた。ほかにも、共同浴場に改造されたトラ55000形や、簡易図書館として登場したクモハ40形なども描かれていた。いずれもその描写は細かく、とてもリアルに描かれている。

エンディングでも、JR宇部線の宇部新川駅をモデルにしたようなシーンがあり、それがストーリーと見事にシンクロしており、涙を流す人が多かったはずだ。

「幼き日とその過程で大人になっていく」主人公の少年の心の中を、鉄道という1つの媒体で、表現していたように思えた。

また、庵野氏は「シン・ゴジラ」でも総監督を務めており、終盤で大どんでん返しを仕掛けるJRの車両たちが話題になった。シン・ゴジラとシン・エヴァは、「鉄道が登場する特撮やアニメーションを次の時代に導いた」と言っても過言ではないだろう。

また、これらアニメーション作品に便乗して、鉄道とアニメ、そして地域とのコラボと称し、オリジナルグッズの販売展開やイベントを開催する鉄道事業者も多い。

では、ロケ地やテーマとなる鉄道事業者は、どのように感じているのだろうか。そこで、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」に登場し、「第3村」のモデルの1つとなった天竜浜名湖鉄道の営業課に取材した。

庵野氏が何度も視察に

担当者によると、「庵野秀明さんの作品には鉄道が描かれていることが多く、その中の候補の1つとして弊社が上がり、非公式ですが、10年以上前から複数回視察に来ております」ということだ。

庵野氏の作品中で、舞台となる鉄道の候補はいくつか存在し、その中で、最終的に天竜二俣駅の車両基地に決定したという。さらに10年以上前から、かなり念入りなロケハンが行われていたようだ。

「最終的にはシン・エヴァンゲリオン劇場版にて、弊社がモデル地の1つになりましたが、弊社からの営業はなかった」。正式に舞台に決まったという連絡が来たのは、公開1カ月前とのことで、公開翌日からは、多くの観光客が天竜二俣駅を訪れ、特に映画の序盤に多く登場し、「第3村」のモデルの1つになっている車両基地、扇形機関庫の見学会などは、参加者で大変な賑わいを見せたという。「その後も、エヴァンゲリオンのラッピング車両も運行開始しましたので、効果としては確実にあります」。

歓迎ムード一色ながら、輸送人員などの効果を数字で算出することは難しいそうだ。しかし、以前の天竜浜名湖鉄道の認知度と比べて、大きく変化したという。やはりアニメは、地域鉄道を活性化に導く力がありそうだ。

また、担当者によると「今後もエヴァンゲリオンとのコラボ企画を計画している」とのことだ。加えて西鹿島駅では、新浜松駅方面へ遠州鉄道が運行しているが、「シン・エヴァ」にかけて「シン・ハママツ」などと、駅名表示キーホルダーの販売を行い、遠州鉄道でも、コラボグッズを展開している。

今後は2023年8月ごろに、天竜浜名湖鉄道と遠州鉄道が、エヴァンゲリオンとコラボしたイベントなども「何かできないか検討中です」。

ちなみに、天竜浜名湖鉄道では車両の貸し切りができる。そのなかで、アニメラッピング車両の貸し切りも、「2023年4月1日から解禁しております」と話す。

条件が整えば、貸し切りでエヴァンゲリオンラッピング車両を運行してもらえる。ファンにとっては、大変貴重な思い出になるだろう。


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同社は、エヴァンゲリオンはもちろん、アニメ「ゆるキャン△」、NHK大河ドラマ「どうする家康」などのラッピング車両が多く運行している。「この機会に沿線の施設や企業と、地域発展のツールとして鉄道をご活用いただけるよう協力して取り組んでおります」と話していた。

また沿線の利用者からは、「いろいろなラッピング車両があり、いつも違うデザインを見ることができて、次に何が来るか楽しみ」との声が、多いそうだ。

「聖地巡礼」が旅行の行程に

アニメと鉄道は深いつながりがあり、鉄道事業者の社員の間でも、自身の勤める鉄道が舞台になったことがきっかけで、そのアニメのファンになったということも少なくない。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の興行収入は100億円を突破し、その影響も相まって、鉄道とのコラボイベントは大成功をおさめ、以降もたびたび開催されている。さらにはオリジナルコラボグッズなども登場し、継続的な収益となっている。このように、鉄道ファンとアニメファンを取り込むことによって、鉄道事業の増収や観光への勧誘を促すことができる。

また、日本のアニメは世界中から認知されている、ある意味1つの象徴ともいえ、訪日外国人も、アニメの舞台となった場所をめぐる「聖地巡礼」を、旅行行程に組み込むこともある。今後のアニメ作品でも、どこの地域、どこの鉄道が登場するのか、今から楽しみである。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)