コンピューターが算出した「運命の人」を選ぶ方法とは?(写真:kazpon/PIXTA)

恋愛や結婚を左右する愛とは一体何か。それは科学的に定義できるものなのか。

神経科学の学位をもち、科学雑誌『ニュー・サイエンティスト』で長年コンサルタントを務めてきたジャーナリストのヘレン・トムソン氏。彼女が科学的エビデンスを調べ尽くしてたどり着いた、賢く、幸せに、ストレスの少ない人生を送るための包括的なガイドである著書『人生修復大全』の第5章「愛を見つけるためには」から一部抜粋、再構成してお届けします。

愛の正体

私はこれまで何度も失恋し、デート相手の名前を思い出すために運転免許証を盗み見し、人とデートを重ね、ようやく運命の人に出会った。いや、相手のことを「運命の人」と呼ぶのも軽く鳥肌が立つ。私はひと目惚れを信じていないし、誰にでも決まった相手がいるなどと考えていないし、一夫一婦制が万人にとって最善の選択だとも思わない。従来の恋愛の指南書とは相容れない。

だが、すでにお気づきかと思うが、私は科学を信じている。科学は愛のいちばんの相棒ではないかもしれないが、脳と行動についての記事を執筆してきたこの15年間で、偶然にも私は、永続的な愛情関係を見つける方法(そして維持する方法)に詳しくなった。もっと早く気がついていれば、と思う。

愛とは何か? いい質問だ。シェイクスピアいわく、「それは変わることのない標識/嵐を見守り、けっして揺らぐことはない」ものである。ただし、神経科学者にとってはこれほど詩的なものではない。

彼らは愛を3つ(欲望、魅力、愛着)に区分できる、神経生物学的現象として語る。これらはすべて繁殖や育児の成功率を上げるために進化してきた。強烈な魅力と、それにともなう多幸感、渇望、撤退、再燃といった、恋愛初期によく起こる経験は、ほかの症状――依存――にも似ている。恋をしている人の脳をスキャンすると、脳の報酬中枢で薬物依存に似た活動が多く見られる。

一方、長期的な恋人たちは、オピオイドやセロトニンを多く含む脳領域の活動が盛んで、これは恋愛初期の恋人たちには見られない。この領域には不安や痛みを調整する作用があり、不安障害、OCD(強迫性障害)、うつ病の治療でターゲットとなる脳領域だ。ここから、愛する人との関係が深まるにつれ、脳が穏やかさと幸福感をもたらすことが示唆される。結婚や人生の伴侶との出会いが寿命に大きな影響を与えるのは、これが理由のひとつかもしれない。

複数の研究によると、結婚やパートナーの存在によって最大7年寿命が延びるという。幸福感の高まりに加え、生涯の伴侶がいるとストレスが軽減し、うつ病、社会的孤立、心疾患のリスクが減り、がんの予防にもなる。また、病気は防げないが、予後には影響する。未婚者は既婚者に比べて、診断時に病気が進行していることが多いのだ。つまり、安定した愛情関係は私たちのためになる。では、どうしたら一生のパートナーを見つけることができるのだろうか。

パートナー選びの正しい方向

パートナー選びは人生における一大決心であり、私たちはそこに膨大な時間とエネルギーを費やす。私たちの恋愛への欲求が、結婚紹介所やオンラインデートサービスといった業界を活気づけている。それでも、満足しないことが多い。多くの人が出会い系サイトで相手を見つけることに成功しているにもかかわらず、45%のアメリカ人は希望より不満が残ったと報告している。

私たちは、自分にふさわしい相手についてよくわかっていないらしいが、これは驚くことではない。私たちがパートナーを選ぶ方法は、科学者にとっても大きな謎なのだ。科学者が言うところの「配偶者選択」は、極めて複雑なプロセスだ。私たちが意識しているのはほんの一部で、残りの部分は意識の外で動いているか、あるいは本質的に予測できないものである。愛が「不可解な化学反応」と言われるのも無理はない。

とはいえ、いくつかのことを押さえておけば、正しい方向に進めるかもしれない。一般的に、私たちが感じる魅力にはいくつかの基準がある。異性愛者の男性は、腰やお尻、ふっくらした唇、優しげな顔立ちを重視し、若さと豊満さを感じさせる女性を好む傾向がある。

一方異性愛者の女性は、引き締まった身体つき、広い肩幅、きれいな肌、くっきりした目鼻立ちの男性を好むが、これらの特徴は、生殖能力と優秀な遺伝子を表していると考えられる。異性愛者の女性は、裕福な男性や、経済力のある男性に惹かれることも知られており、また男女ともに相手の知性を重視することもわかっている。

いずれも表面的なことのように思えるが、これらの資質――美しさ、頭脳、リソース――に対する好みは万国共通だ。ジョージ・クルーニーやアンジェリーナ・ジョリーがセックスシンボルになるのは、生物学的必然なのだ。

もちろん、誰もがこうした人物と恋に落ちるわけではない。恋愛が進化した理由のひとつは、協力して子育てをするための絆をつくることだと思われるが、その際、人は手の届かない相手に無駄な時間やエネルギーを費やさないよう制御されている。私たちは手の届かない人より、魅力や知性や地位などが、自分と似たような「ランク」の人を好きになる傾向がある。

魅力の正体

あまり知られていない魅力の法則もある。遺伝学者によると、私たちは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子の特定の型をもつ人に惹かれるといい、この遺伝子は病原体と戦う能力において重要な役割を果たしている。

MHCが異なる相手なら、より健康で免疫力の高い子孫をつくることができる。その証拠として、適当にペアを組まされた場合、MHCが似ていない同士のほうがカップルになりやすいことがわかっている。何十年にも及ぶ研究にもかかわらず、自分と異なるMHCをどのように識別するのかは明らかになっていない。

一説には匂いだと言われており、人は自分と異なるMHCをもつ相手のTシャツの匂いを魅力的と感じる傾向にある。あるいはこれが、私たちのよく口にする性的な「化学反応」なのかもしれない。どうやらここからわかるのは、「自分の直感を信じろ」ということのようだ。

ただし、注意すべき例外がひとつある。経口避妊薬を服用している女性は、MHCが似ている男性を好む傾向があるのだ。つまり経口避妊薬を飲んでいる女性は、遺伝的に適していないパートナーを選ぶ危険性がある。

女性が経口避妊薬をやめたあとに、カップルが別れる可能性が増幅するか否かを調べた研究は、私が知っているかぎり行われていないものの、私はいまの夫と同棲中、このアドバイスを心に留めていた。それまでMHCについて何度も記事にしてきたので、ぜひとも確認する必要があったのだ。

私の夫であるアレックスにプロポーズされたあと、私は経口避妊薬の服用をやめ、自分の気持ちが化学物質で曇っていないかどうかを確認した。月経周期によっても魅力は変化する。男性は、排卵日が近い女性の香りに惹きつけられ、排卵日が近づくと、パートナーに対してお互いがいつもより愛情を抱くようになる。

女性もまた、月経周期を通じて男性の香りや顔立ちの好みが変化する。排卵日が近づくと男性的な特徴を好むようになるが、その他の時期はセクシーさより安定を好む。セックスをすることで相手に対する認識が複雑になることもある。

行為後は脳からオキシトシンが分泌され、温かく、親しみのある愛情と、協力的な育児を促進する社会的絆がもたらされる。これは、特定の状況下では素晴らしいことだ。ただし遊びのセックスの場合でも、自分にはふさわしくない相手に対して、一時的に親愛の情を抱く可能性がある。

「運命の人」を特定する

つまり、私たちにはまだ大きな問題が残される。恋愛がこれほど多様なら、特定のパートナーはどのように決めたらいいのだろう。その答えを、数学に任せてみよう。ニューメキシコ大学の研究者たちが、コンピューターシミュレーションを使って、多くのパートナー候補から最適な人を選び出す方法を調べた。


シミュレーションではまず、自分の惹かれる条件を決めて理想の人と出会う前に、最適な選択肢の数を検討した。その結果、自分の希望を決めて相手を選ぶ前に調査すべき最適な割合は、わずか9%。つまり、パーティーに100人の候補者がいたら、最初にランダムに出会った9人を吟味してから選ぶのがベストだと判明した。検討する数が少なければ情報不足でいい選択ができないし、逆に検討しすぎると最適な相手を見落としてしまう可能性がある。

もちろん、これらのモデルは実際の相手選びの複雑さを小さく見積もっているが、おそらくここからわかる教訓は、長期間探しすぎないこと、そして、もう少し注意を向ければ完璧な相手だったかもしれない人を見逃さないことだ。

(ヘレン・トムソン : フリーランスライター)