Z世代の消費志向の変化により、再考を迫られている従来のマーケティング。「Z世代に響く新しいマーケティング法」とは(写真:kou/PIXTA)

・みんなが「いい」と言っているものが「いいもの」
・気まずくなりたくないから「推し」については自分からは話さない
・「好み」は本気で共有できる人とだけ共有したい──

Z世代の消費志向の変化により、従来のマーケティングも再考を迫られている。

2023年5月1日に本屋B&Bで開催されたトークイベント「長田麻衣×金間大介『Z世代の頭の中〜仕事・恋愛・SNS』」。片やSHIBUYA109 lab.所長として、片や金沢大学教授として「若者研究」の最先端を行く両者が考える「Z世代に響く新しいマーケティング法」とは?

「ググるよりSNS」Z世代のリアル

金間大介(以下、金間):長田さんはSHIBUYA109 lab.所長として、1日に約100人もの「消費者としてのZ世代」と接していますよね。そこでお聞きしたいのが、Z世代は「欲しいもの」の情報をどう入手し、購入を判断しているのか、についてです。


長田麻衣(以下、長田):まさに、私が日々研究していることです。

金間: Z世代は「ものを調べない」「検索しない」と言われていて、買い物の情報源を尋ねるアンケートを見ても、Z世代に当たる20代は、他世代に比べて「SNS」という返答がダントツに高くなっています。

一方、Z世代に特徴的な心理として「失敗したくない」というのもある。失敗したくないのなら、買い物においても徹底的に検索しそうなものなのに、検索エンジンよりSNSに頼るというのは矛盾していませんか?

長田:実際のところは、やっぱり失敗したくないので、すごく調べていますよ。「調べない」というのは、「能動的な検索をすることが減っている」ために、「調べていないように見えている」だけですね。

金間:どういうことでしょう?

長田:一言で言えば、能動的に検索しなくても、自分にとって有用な情報が向こうから入ってくるような状態をつくっているということなんですけど……「アルゴリズム矯正」っていう言葉は、聞いたことはありますか?

金間:初めて聞きました。

長田:たとえばInstagramの「発見タブ」には、過去の閲覧記録から、アルゴリズムが「あなたは、こういう情報を求めているんですね」と勝手に判断して、それに類する投稿をおすすめしてくれますよね。Z世代の子たちは、この機能をうまく使っています。

金間:それがアルゴリズム矯正?

長田:はい。ファッション用アカウント、グルメ用アカウント、美容用アカウントという具合に、自分の興味を分割して複数のアカウントをつくり、それぞれで気に入った投稿に積極的に「いいね」したり、アカウントをフォローしたりする。

するとアルゴリズムが組まれ、ファッション用アカウントだったら「自分に最適化されたファッションの投稿やアカウント」がおすすめに表示されるようになる。つまり、検索しなくても「自分が好きそうなもの」が勝手に集まるように、アルゴリズムを矯正しているわけです。

金間:なるほど。「調べなくてもいい環境」を事前に構築しているのか。


(写真提供:本屋B&B)

長田:それがZ世代のリアルですね。おすすめを見て「いいな」と思ったら、検索エンジンで能動的に調べてみるという流れになっているので、「最初の最初の情報」を調べる行動がない。だから、たしかに検索自体は減ってはいるけれども「検索していない」わけではないんです。

金間:何となく、SNSで流れてきたものを見たままポチってしまっているようなイメージだったのですが、本当は、そこに至る情報収集の文脈があるわけですね。

みんなの「いいね」に共感したい

金間:Z世代って、ニュースサイトでもSNSでも、コメント欄まで目を通すっていいますよね。

長田:しかも、どのコメントに一番「いいね」がついているのかも見ていますね。要は「みんなが共感している意見」まで確認しないと完結しない。

金間:そうなると気になるのが、自分の「好き嫌い」はどこに行っちゃったの? ということなのですが、どう思われますか?


長田:「みんなが『好き』って言ってるもの」が好き。「みんなが『いい』って言ってるもの」がいい。それがすごく強いです。

金間:そこがかなり個人的には腑に落ちなくて。「自分の好き嫌い、絶対にあるでしょ?」って言いたくなってしまいます。

長田:「好き嫌い」よりも「共感したい」のほうが強い気がします。すごく好きな「推し」がいるとか、自分の主観がしっかり作用している部分もあるんだけど、そうではない部分のほうが多い。自分の主観が強烈に働かないところに関しては、みんなが「いい」って言っているものに「わかる、わかる」と共感したい。そういう感じじゃないでしょうか。

なぜ若者の「好き」は見えづらいのか?

金間:従来のマーケティングとは「憧れてもらって、買ってもらう」ものであり、そのために企業は「今の若者は何が好きなのか」を調べてきました。

ところがZ世代には、そんなに好きなものがないとなると、今まで有効だった手法が根底から覆されてしまう。新しい価値を生み出してきた側にとっては受難の時代が訪れています。

長田:たぶん本当は好きなものはあるはずなんですよね。いきなり面と向かって聞かれたら「ないです」と答えるんだけど、SNSの裏アカウントなど話が通じるところでは話しているのではないかと思います。

金間:たしかに。

長田:「あなた方に話しても、わからないでしょ?」って思われているのかもしれません。SHIBUYA109で話を聞いていても、みんな「はやっているもの」はよく答えてくれるのですが、「あなたは何が好き?」って聞いても「別に……」みたいになることが多いです。それは好きなものがないのではなく、伝わらずに気まずくなるのが嫌だからでしょう。

金間:たしかにZ世代、よく「気まずい」って言いますよね。

長田:それでも「自分がすごくお金を使ってるものは何?」などと聞くと、「推し」の話が出てきたりする。私たちは「界隈」って呼んでいるのですが、今の子たちの「好き」って、マスではなくミクロなカルチャーが同時多発的に生まれていて、それぞれにコミュニティーがあるんです。

そういう「界隈」の話が出たら、「じゃあ、その推しの何が好き?」と深掘りしていき、自分たちの商品はどう合致するのかを考える、ということをやっています。

金間:とても興味深い話です。さっきの「好き嫌い」が希薄になっているということと、本当は「好きなもの」があっても表出しないという二段構えで、Z世代の趣味嗜好が見えづらくなっているのではないでしょうか。

最近、僕は若者の「拒否回避欲求」にすごく注目してるんですけど、それは後者と関連していると思います。要は「好き」を表出したときの周囲のリアクションが怖い。拒否されたくない。だから表出させない。そう考えると、SNSの裏アカウントの存在意義もありますね。

長田:学校の友だちに「え、何それ?」って言われるのが怖いから、SNSで「好き」が共通する友だちをつくる。「同じ温度感で話せる」っていう安心感の中でだけ、推しの話がしたい。どこで自分のどの部分を出すのかを「整理」しているんです。

Z世代を取り込む「共感」マーケティング

金間:そうすると新しいモノやサービスを出していく側は、どんな心構えや戦略をもったらいいでしょう?

長田:Z世代って、トレンドを追いかけることはすごく大事にしているんですよね。本当はSNSに少し疲れているんだけど、少しでも抜けたら、みんなが追いかけているトレンドに追いつけなくなってしまう。

金間:だから「見ないこと」ができない。

長田:そうなんです。SNSでトレンドを追いかけていて、あんまり豊かではないけど好きなものにはお金をかける。そういう人たちが今後、消費の中心になっていくわけですよね。企業側から見ると「一緒に商品を盛り上げていくパートナー」になっていくと思うので、やはり、ちゃんと動向を見ていかないといけない対象です。

金間: 今日、すごくいいヒントをいただいたなと思うのは、「好き嫌い」より「共感」なんだ、という点です。「いかにZ世代の『好き』を捉えて、それに応える商品を提供するか」ではなく、「いかに『共感』の空気を生むか」が、Z世代の消費意欲を最もくすぐるポイントになってくるのかな。

長田:はい、はい。

金間:だとすると、その「共感」の起点はどこにあるのでしょう?

「小さな神」が乱立する「界隈」

長田:それが、さっき言った「界隈」なのだと思います。一昔前は「浜崎あゆみ」「安室奈美恵」といった「圧倒的な神」がいて、その存在にどう近づくかというところでトレンドが生まれていましたよね。

金間:“アムラー”たちの「ルーズソックス」とか「極細眉」とかですね、懐かしい。

長田:今はそうではなくて、小さな「界隈」それぞれに「小さな神たち」がいる。たとえば歌手の「あのちゃん」に近い感じで、ちょっととがっていることをしている人たちです。

金間:おもしろいですね。

長田:そういうサブカルっぽい世界観でとがったことをしている子たちをまねしたいという子がだんだん増えて、勝手にトレンドになっていく。でも本人たちにはトレンドを生んでいるという意識はなくて、ただ好きなものを一緒に盛り上げたい……、かなりわかりづらいかもしれないですけど。

金間:「小さな神たちがたくさんいる」っていうのはおもしろい概念ですね。そういう「界隈」がたくさんあるんだという認識をもって、いかに「共感」を軸にしたマーケティングをしていくかが、今後、大きなポイントになっていくということでしょう。

(金間 大介 : 金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)
(長田 麻衣 : SHIBUYA109 lab.所長)