LiSAが語る、世代を超越したパンクロックの力、「次の10年」を見据えて
LiSAが2023年第一弾となる新曲「REALiZE」を配信リリースした。この曲は本日公開された映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』日本語吹替版の主題歌として制作されたもので、作詞をLiSA、作曲・編曲を堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)が担当。さらに、ミックスエンジニアにblink-182やブリング・ミー・ザ・ホライズンなどを手がけるザック・セルヴィーニが参加しており、重厚感を備えながらも疾走感の強い、モダンなロックチューンに仕上がっている。
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昨年11月発売のアルバム『LANDER』を経て、新章に突入したLiSA。映画『スパイダーマン』シリーズのファンでもある彼女が、この曲を通じて描きたかったものとは。その制作過程を含め、現在のモードをじっくり語ってくれた。
ー『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』日本語吹替版の主題歌をオファーされたとき、率直にどう受け止めましたか?
LiSA:私、前作の『スパイダーマン:スパイダーバース』をいちファンとして映画館に観に行っていましたし、めちゃくちゃ面白かった作品の続編に対してもすごくワクワクしていたところに、私が日本語吹替版主題歌で関わらせてもらえるっていうのはすごく幸せだなと思いました。そこから「どんな楽曲ができるだろう」って、自分自身のやれることに対してもすごくワクワクしました。
ー楽曲については、細かなオーダーはあったんでしょうか?
LiSA:「ロックで疾走感のある楽曲」……スパイダーマンたちがたくさん飛び交う映像に似合う楽曲、というオーダーはいただいていました。
ースピード感や絵力の強い作品ですから、そこに負けないだけのパワーも求められますよね。
LiSA:そうですね。実はパワーとスピード感って、意外とマッチさせるのが難しくて。今回は晶太くんと、「スピード感とはなんぞや?」みたいな要素から一緒に作っていきました。
ーリズムの重さを強調するとなると、BPMも落とさざるを得ないですし。
LiSA:なので、疾走感とバトルの重たさみたいなものが共存できるテンポ感やサウンド感をすごく意識しています。
ー実際に完成した新曲「REALiZE」を聴いてみると、王道のLiSA節を感じさせつつも新たな要素も散りばめられており、10周年を経て次へ進む上での重要な曲になりそうな印象を受けました。
LiSA:まさにそのとおりで、次の10年はどんな音楽をやっていくかっていうことを、それこそ晶太くんとたくさんお話させていただく機会があって。それこそ昨年リリースしたアルバム『LANDER』の中に入っている、晶太くんと作っている楽曲とかで一緒に試行錯誤を繰り返していたんですが、今回『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』という大きなきっかけをいただけたことで、これまで私が聴いてきた洋楽のパンクロックやヘヴィなサウンドの音楽をちょっとだけ意識して、新しい自分になっていくような感覚で制作を進めていきました。
ーJ-POPはメロディをまず重視すると思うんですけど、一方で洋楽ロックはリズムで聴き手を巻き込んでいくような感覚が強い。「REALiZE」の場合、その両方の要素を兼ね備えつつもリズムがより強化されている印象を受けました。
LiSA:ありがとうございます。まさに今回は、リズムトラックから作っていきました。
ーなるほど。そのリズムに合わせて鳴り響くギターリフも、今までとは少々違ったテイストが感じられます。
LiSA:特に私が好きだった洋楽テイスト、J-POPほどコードが複雑に動かない音楽と、晶太くんがもともと持っているハードコアな側面やテクニカルな側面を混ぜ込んだ、それぞれの要素がとても活きる楽曲になったなと思います。
ーで、先にも触れたように、この曲はメロディもしっかりキャッチーさが備わっていて、J-POPとしてもしっかり機能しています。
LiSA:サウンドやアレンジ同様、そこもすごく意識して制作しました。日本語吹替版の主題歌ということもあって、J-POPのフィールドで活動している私だからこその、日本の人たちに愛してもらえるメロディを通して、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を楽しんでもらいたかった。だから、特にサビは歌詞も含めてわかりやすさを重視しました。
ーサビはもちろんですが、今回の歌詞って英詞のフレーズや英単語が極端に少ないですよね。そこも意識的だったんですか?
LiSA:書いていく中で、できるだけ日本語を使っていこうと思ったんです。でも、「スパイラル」とか「dead」とか言葉として使いたくなってしまうときは、響きなど必要な要素として使う程度にとどめました。
これまでとは異なる「攻めの姿勢」
ー歌詞のテーマにおいても映画のストーリーを踏まえつつ、LiSAさん自身の今の想いもリンクされているのかなと思います。
LiSA:私はこれまでのスパイダーマンの映画は全部観ていますが、スパイダーマンはヒーローなんだけど、ヒーローとしての運命としては結構過酷で、自分の大切な人を皆さん亡くしてしまう。どの世界線のスパイダーマンも家族を亡くしたり恋人を亡くしたり、いろんな大切なものを犠牲にしてでも世界を守って、犠牲を払った上でのヒーローというのがスパイダーマンなんだとすると、私もデビューから10年以上活動してきて、スパイダーマンほど何かを犠牲にしているわけではないですけど、自分が歌手である、プロであるということを意識したときに……やっぱり我慢しなくちゃいけないとかいいことばかりじゃないっていうのは、ヒーローと同じなのかなと。側から見るとヒーローってカッコいいものではあるんだけど、覚悟を持った上でその肩書きを背負っていくこと、自分の使命とか運命とか役割を理解する、自覚することで強くなっていくのかなと思うんです。
ーヒーローはもちろん、LiSAさんのように人前に立つ職業の方々もその立場に対する責任っていうのも求められることも多いと思います。その責任や使命みたいなものを、特に意識するようになったタイミングってありましたか?
LiSA:やっぱりデビューしたときに、私は一番強く感じました。というのも、それまでは自分が好きな音楽をただ好きなようにやっていたんですけど、応援してくれる人が増えたり、活動に携わる方が増えたりすることで……自分の楽曲やライブ、アーティストとしての活動にお金を出してくれる人が増えて、自分ひとりでやっているのではないという事実に気づかされるじゃないですか。そういう現実に対して、自分の使命だったり責任だったりを意識できるようになってきたような気がします。でも、責任という点においてはお母さんだってそうだし、働いている方々もそうだし、それこそ生徒会長でもいいんですけど、何か役割を持った人たちはその使命を自覚することでどんどん強くなっていくのかなと。そういう意味でも、この曲がいろんな人たちのもとに届くことを願っています。
ー先ほど「次の10年はどんな音楽をやっていくか」という話題も出ましたが、今回の「REALiZE」ではその意識はどのように反映されていますか?
LiSA:今までの10年ですごく大切な曲がたくさんできたので、ならば今は”役者”が揃っている状態なわけで。今までは目の前のことに必死で、夢中になって進む方法しか知らなかったような気がするんですけど、ここからは自分自身がもうちょっと遊べるというか、自由に飛び回れるようになりたくて。余裕を持った状態で1曲1曲と向き合っていけるような10年になるといいなと思って、今回はこの攻めの札を出しました。
ーこの攻め方も、例えば20代前半での攻めとまた違ったものですよね。
LiSA:たぶん20代前半の攻めの姿勢って、やっぱり「Rising Hope」みたいに身を削って、ちょっと危なっかしい”なりたてのヒーロー”というか。自分の術を全部使って一生懸命投げて、「どれか当たれ!」みたいな感じだったと思うんですけど、今はちょっと倒し方がわかってきた先輩ヒーローのような感覚ですかね。
ーいくつかある攻略法のうち、「今回はこれだ」みたいな。あと、経験という点で言うと、ファンの方やスタッフさん、いろんな仲間たちとの出会いや、人生におけるさまざまな変化も音楽に対してより深みを与えているのかなと思います。
LiSA:私、昔は「仕事以外いらない、LiSAの以外の活動はいらない」って思っていたんですけど、最近はLiSAの活動の中での出会う人たちはもちろん、そうじゃないところで出会った人たちも含めて、歌詞に反映されたり自分の進むべき道の指針になったりしているので、そういう人との出会いや関係、会話など音楽以外の部分もすごく大切なんだなってことにやっと気づけたんです。それこそ以前はLiSAとしての活動を通してたくさん壁にぶつかったり、いろんな苦しいことがあったけど、LiSAの物語だけで音楽を作れるぐらいのハプニングやうれしいこともたくさんあったので、それ自体は全然苦じゃなかったんですけど、そうじゃない自分の人生枠というか、プライベートの部分も音楽の要素になっていたんだなということもわかってきたからこそ、そっちも大切にしながら音楽活動に活かしていけたらいいなと思ってます。
歌とトラックのバランス
ー最近の作品を聴いていると、確かにそういう変化もいろんなところから感じられます。また、ボーカルに関しても年齢や経験を重ねたことでの変化も勿論あると思うんですが、今回の曲みたいに疾走感とヘヴィさを兼ね備えた楽曲を表現する際に、安定感と攻めの姿勢がいい具合にミックスされた歌い方というのも新鮮だなと思ったんですよ。
LiSA:ありがとうございます。晶太くんとサウンド作りから一緒にやらせてもらっているってこともあって、音楽の中で意思疎通ができていたので、自分の中でも歌の道筋が立てやすかったです。それは言葉を乗せるときもそうなんですけど、晶太くんと最初から一緒に作っていったからこそどこで何をするべきかを、ちゃんと理解できていたんだと思います。
ーあと、以前と違って力でねじ伏せるだけじゃなくて、緩急に富んだ流れの中で説得力のある歌を届けるような気持ちよさも、この曲にはあるのかなと。
LiSA:それはやっぱり、梶浦(由記)さんとの出会いがとても大きかったように感じます。それまでは私のゴリ押しの攻めのスタイルを活かしてくれる楽曲に、自分自身が頼っていたところがあったんですけど、梶浦さんの楽曲には力でねじ伏せるみたいなやり方が通用しなかった。曲の中ですべての辻褄を合わせるための歌が必要だったんです。梶浦さんの書く曲にはそういう説得力のある表現がすごく必要なので、その現実と向き合わざるを得なかったというか。その経験が今になってすごく活かせているような気がします。
ーそういうお話を聞くと、今回の「REALiZE」はこれまで経験してきたことを総動員することで、ここまでのバランスを保てているのかなと思いました。そしてその楽曲のミックスをblink-182やブリング・ミー・ザ・ホライズンなどを手がけてきたエンジニア、ザック・セルヴィーニが担当。彼にお願いしたのは、どういう理由からですか?
LiSA:自分の趣味で聴いている音楽に、ザックさんが携わっていることが多くて。特に今回は『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』という大きな理由をもらえたので、このタイミングに自分が好きなことを混ぜてみようじゃないですけど、「この人にお願いしたら自分の声はどうなるんだろう?」とワクワクしたかったんです。実際、できあがったものを聴いて、カッコよすぎて笑っちゃいましたね(笑)。
ーその笑っちゃう感じ、わかります。彼が手がけてきた作品の多くは、ドラムのミキシングが特徴的だという印象があるんですが、そういう点でも相性抜群でしたものね。
LiSA:私も最初にドラムがバーンって鳴った瞬間に爆笑しちゃいました。ザックさんと特に言葉を交わしたわけではないんですけど、私の声に関してもこのバンドサウンドにマッチしたミックスを施してくれて。私は自分の声が特徴的だからこそ、コンプレックスを感じることもあったんですけど、このミックスを聴いたら「このままでいいんだ!」と自信につながりました。
ー確かに、歌とトラックのバランスが絶妙ですよね。
LiSA:はい。私の声が出過ぎるからバンドの音を上げればいい、みたいな話じゃないなかったんだなと。こんなにカッコいいサウンドの中に、ちゃんとボーカルとして存在させてもらえるという、その立ち位置も含めてすごく感動しました。
大きな希望が見えた
ーちょっと余談ですが、Rolling Stone JAPANでは過去にblink-182やブリング・ミー・ザ・ホライズンについてLiSAさんにお話を伺っています。その2バンドもここ最近新たな動きがあったので、改めてお話を聞かせてください。blink-182は昨年トム・デロングがバンドに復帰し、新曲「Edging」のリリースやコーチェラ・フェスティバルへの出演で注目を集めたばかり。彼らの近況はLiSAさんにどう映りますか?
LiSA:ブリンクもそうなんですけど、パンクっていうものが少しずつ新しくなって復活している感覚はありますね。それこそ、アヴリル・ラヴィーンもトラヴィス・バーカーのレーベル(DTA Records)に入って、トラヴィスやマシン・ガン・ケリーが参加したアルバムで復活したじゃないですか。今ではラッパーの人たちがパンクロックに振り切っていたりしますし、自分が音楽を始めた頃、それこそブリンクに出会った頃のシーンが復活しているような感覚があって。それに付随して昔のヒーローって言ったら失礼ですけど、自分がかつて憧れていたヒーローたちがまた息を吹き返して、「よし、頑張るぞ!」みたいな気持ちになっていることもとてもうれしいですね。
ー単に当時聴いていた世代だけでなく、マシン・ガン・ケリーを通して今の若い世代にもアヴリルが届いている感覚もありますものね。
LiSA:サウンドこそ新しくなっているけど、自分が好きだった根底の部分っていうのは何も変わってないなといううれしさもやっぱりありますね。
ーさらに、ブリング・ミー・ザ・ホライズンまでもがポップパンクに影響を受けた楽曲をリリース。
LiSA:「LosT」ですよね。めちゃめちゃカッコよかったです。ブリング・ミーってどちらかというとヘヴィロックのイメージだったんですけど、サウンドはそのままで彼らがパンクロックをやるとこうなるんだなっていう新鮮な驚きがありました。
ーこういう音が旬になっている流れを感じますよね。
LiSA:そうですね……そうだ! 私、ザックさんが手がけたペール・ウェーヴスの新作(『Unwanted』)をずっと聴いていて。それで今回、ザックさんにお願いしたいなと思ったんです。ちょうど自分が新しいことにトライしたいなと考えていたときに、ペール・ウェーヴスみたいな最近の若い世代のパンクバンドの子たち……パンクバンドと言っていいかわからないですけど、そういった子たちがすごく元気で。しかも、ブリンクとかブリング・ミーを手がけてきたザックさんが関わっている。「ああ、私が求めているのはここだな」と思ったんです。で、若い世代とレジェンドたちがつながるポイントが見えたときに、私にとって大きな希望が見えた気がしました。
ー欧米ではよく”ロック低迷”と言われていますが、作品自体は常に進化し続けていますからね。
LiSA:昔もきっと、パンクロックってダサいものだと捉えられていたけど、それこそグリーン・デイが『American Idiot』を世の中に知らしめてくれてからパンクロックがみんなに認められて、カッコいいと言われるものになったような感覚があるので、そんな日がまた近づいているような気がします。
ー最後に。9月からは全国ツアーも始まるなど、再び活動が活発化していきそうですが、ここからの未来にどんなイメージを持っていますか?
LiSA:「REALiZE」を完成させたことでまたひとつ手札が増えたと実感しているので、ここからの10年に向けてすごくいいスタートを切れたんじゃないかな。なので、今後もいろいろ巻き込みながら攻めていける楽曲を増やしていきたいです。ツアーについても、最近は情勢がいろいろ緩和されたことで、いろんなことが制限されていた中でリリースされた楽曲たちが本領発揮できるものになるんじゃないかと思っていて。それこそ、ライブにおいてはまだ未完成の楽曲もたくさんあるので、このツアーでどこまで進化していくのか、すごく楽しみにしています。
【関連記事】LiSAが語るブリング・ミー・ザ・ホライズン「音楽への尊敬とパンク精神」
【関連記事】LiSAが語るblink-182「昔も好きだったし、今も好きだと言えるバランスの大事さ」
<INFORMATION>
「REALiZE」
LiSA
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配信リンク:
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昨年11月発売のアルバム『LANDER』を経て、新章に突入したLiSA。映画『スパイダーマン』シリーズのファンでもある彼女が、この曲を通じて描きたかったものとは。その制作過程を含め、現在のモードをじっくり語ってくれた。
ー『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』日本語吹替版の主題歌をオファーされたとき、率直にどう受け止めましたか?
LiSA:私、前作の『スパイダーマン:スパイダーバース』をいちファンとして映画館に観に行っていましたし、めちゃくちゃ面白かった作品の続編に対してもすごくワクワクしていたところに、私が日本語吹替版主題歌で関わらせてもらえるっていうのはすごく幸せだなと思いました。そこから「どんな楽曲ができるだろう」って、自分自身のやれることに対してもすごくワクワクしました。
ー楽曲については、細かなオーダーはあったんでしょうか?
LiSA:「ロックで疾走感のある楽曲」……スパイダーマンたちがたくさん飛び交う映像に似合う楽曲、というオーダーはいただいていました。
ースピード感や絵力の強い作品ですから、そこに負けないだけのパワーも求められますよね。
LiSA:そうですね。実はパワーとスピード感って、意外とマッチさせるのが難しくて。今回は晶太くんと、「スピード感とはなんぞや?」みたいな要素から一緒に作っていきました。
ーリズムの重さを強調するとなると、BPMも落とさざるを得ないですし。
LiSA:なので、疾走感とバトルの重たさみたいなものが共存できるテンポ感やサウンド感をすごく意識しています。
ー実際に完成した新曲「REALiZE」を聴いてみると、王道のLiSA節を感じさせつつも新たな要素も散りばめられており、10周年を経て次へ進む上での重要な曲になりそうな印象を受けました。
LiSA:まさにそのとおりで、次の10年はどんな音楽をやっていくかっていうことを、それこそ晶太くんとたくさんお話させていただく機会があって。それこそ昨年リリースしたアルバム『LANDER』の中に入っている、晶太くんと作っている楽曲とかで一緒に試行錯誤を繰り返していたんですが、今回『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』という大きなきっかけをいただけたことで、これまで私が聴いてきた洋楽のパンクロックやヘヴィなサウンドの音楽をちょっとだけ意識して、新しい自分になっていくような感覚で制作を進めていきました。
ーJ-POPはメロディをまず重視すると思うんですけど、一方で洋楽ロックはリズムで聴き手を巻き込んでいくような感覚が強い。「REALiZE」の場合、その両方の要素を兼ね備えつつもリズムがより強化されている印象を受けました。
LiSA:ありがとうございます。まさに今回は、リズムトラックから作っていきました。
ーなるほど。そのリズムに合わせて鳴り響くギターリフも、今までとは少々違ったテイストが感じられます。
LiSA:特に私が好きだった洋楽テイスト、J-POPほどコードが複雑に動かない音楽と、晶太くんがもともと持っているハードコアな側面やテクニカルな側面を混ぜ込んだ、それぞれの要素がとても活きる楽曲になったなと思います。
ーで、先にも触れたように、この曲はメロディもしっかりキャッチーさが備わっていて、J-POPとしてもしっかり機能しています。
LiSA:サウンドやアレンジ同様、そこもすごく意識して制作しました。日本語吹替版の主題歌ということもあって、J-POPのフィールドで活動している私だからこその、日本の人たちに愛してもらえるメロディを通して、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を楽しんでもらいたかった。だから、特にサビは歌詞も含めてわかりやすさを重視しました。
ーサビはもちろんですが、今回の歌詞って英詞のフレーズや英単語が極端に少ないですよね。そこも意識的だったんですか?
LiSA:書いていく中で、できるだけ日本語を使っていこうと思ったんです。でも、「スパイラル」とか「dead」とか言葉として使いたくなってしまうときは、響きなど必要な要素として使う程度にとどめました。
これまでとは異なる「攻めの姿勢」
ー歌詞のテーマにおいても映画のストーリーを踏まえつつ、LiSAさん自身の今の想いもリンクされているのかなと思います。
LiSA:私はこれまでのスパイダーマンの映画は全部観ていますが、スパイダーマンはヒーローなんだけど、ヒーローとしての運命としては結構過酷で、自分の大切な人を皆さん亡くしてしまう。どの世界線のスパイダーマンも家族を亡くしたり恋人を亡くしたり、いろんな大切なものを犠牲にしてでも世界を守って、犠牲を払った上でのヒーローというのがスパイダーマンなんだとすると、私もデビューから10年以上活動してきて、スパイダーマンほど何かを犠牲にしているわけではないですけど、自分が歌手である、プロであるということを意識したときに……やっぱり我慢しなくちゃいけないとかいいことばかりじゃないっていうのは、ヒーローと同じなのかなと。側から見るとヒーローってカッコいいものではあるんだけど、覚悟を持った上でその肩書きを背負っていくこと、自分の使命とか運命とか役割を理解する、自覚することで強くなっていくのかなと思うんです。
ーヒーローはもちろん、LiSAさんのように人前に立つ職業の方々もその立場に対する責任っていうのも求められることも多いと思います。その責任や使命みたいなものを、特に意識するようになったタイミングってありましたか?
LiSA:やっぱりデビューしたときに、私は一番強く感じました。というのも、それまでは自分が好きな音楽をただ好きなようにやっていたんですけど、応援してくれる人が増えたり、活動に携わる方が増えたりすることで……自分の楽曲やライブ、アーティストとしての活動にお金を出してくれる人が増えて、自分ひとりでやっているのではないという事実に気づかされるじゃないですか。そういう現実に対して、自分の使命だったり責任だったりを意識できるようになってきたような気がします。でも、責任という点においてはお母さんだってそうだし、働いている方々もそうだし、それこそ生徒会長でもいいんですけど、何か役割を持った人たちはその使命を自覚することでどんどん強くなっていくのかなと。そういう意味でも、この曲がいろんな人たちのもとに届くことを願っています。
ー先ほど「次の10年はどんな音楽をやっていくか」という話題も出ましたが、今回の「REALiZE」ではその意識はどのように反映されていますか?
LiSA:今までの10年ですごく大切な曲がたくさんできたので、ならば今は”役者”が揃っている状態なわけで。今までは目の前のことに必死で、夢中になって進む方法しか知らなかったような気がするんですけど、ここからは自分自身がもうちょっと遊べるというか、自由に飛び回れるようになりたくて。余裕を持った状態で1曲1曲と向き合っていけるような10年になるといいなと思って、今回はこの攻めの札を出しました。
ーこの攻め方も、例えば20代前半での攻めとまた違ったものですよね。
LiSA:たぶん20代前半の攻めの姿勢って、やっぱり「Rising Hope」みたいに身を削って、ちょっと危なっかしい”なりたてのヒーロー”というか。自分の術を全部使って一生懸命投げて、「どれか当たれ!」みたいな感じだったと思うんですけど、今はちょっと倒し方がわかってきた先輩ヒーローのような感覚ですかね。
ーいくつかある攻略法のうち、「今回はこれだ」みたいな。あと、経験という点で言うと、ファンの方やスタッフさん、いろんな仲間たちとの出会いや、人生におけるさまざまな変化も音楽に対してより深みを与えているのかなと思います。
LiSA:私、昔は「仕事以外いらない、LiSAの以外の活動はいらない」って思っていたんですけど、最近はLiSAの活動の中での出会う人たちはもちろん、そうじゃないところで出会った人たちも含めて、歌詞に反映されたり自分の進むべき道の指針になったりしているので、そういう人との出会いや関係、会話など音楽以外の部分もすごく大切なんだなってことにやっと気づけたんです。それこそ以前はLiSAとしての活動を通してたくさん壁にぶつかったり、いろんな苦しいことがあったけど、LiSAの物語だけで音楽を作れるぐらいのハプニングやうれしいこともたくさんあったので、それ自体は全然苦じゃなかったんですけど、そうじゃない自分の人生枠というか、プライベートの部分も音楽の要素になっていたんだなということもわかってきたからこそ、そっちも大切にしながら音楽活動に活かしていけたらいいなと思ってます。
歌とトラックのバランス
ー最近の作品を聴いていると、確かにそういう変化もいろんなところから感じられます。また、ボーカルに関しても年齢や経験を重ねたことでの変化も勿論あると思うんですが、今回の曲みたいに疾走感とヘヴィさを兼ね備えた楽曲を表現する際に、安定感と攻めの姿勢がいい具合にミックスされた歌い方というのも新鮮だなと思ったんですよ。
LiSA:ありがとうございます。晶太くんとサウンド作りから一緒にやらせてもらっているってこともあって、音楽の中で意思疎通ができていたので、自分の中でも歌の道筋が立てやすかったです。それは言葉を乗せるときもそうなんですけど、晶太くんと最初から一緒に作っていったからこそどこで何をするべきかを、ちゃんと理解できていたんだと思います。
ーあと、以前と違って力でねじ伏せるだけじゃなくて、緩急に富んだ流れの中で説得力のある歌を届けるような気持ちよさも、この曲にはあるのかなと。
LiSA:それはやっぱり、梶浦(由記)さんとの出会いがとても大きかったように感じます。それまでは私のゴリ押しの攻めのスタイルを活かしてくれる楽曲に、自分自身が頼っていたところがあったんですけど、梶浦さんの楽曲には力でねじ伏せるみたいなやり方が通用しなかった。曲の中ですべての辻褄を合わせるための歌が必要だったんです。梶浦さんの書く曲にはそういう説得力のある表現がすごく必要なので、その現実と向き合わざるを得なかったというか。その経験が今になってすごく活かせているような気がします。
ーそういうお話を聞くと、今回の「REALiZE」はこれまで経験してきたことを総動員することで、ここまでのバランスを保てているのかなと思いました。そしてその楽曲のミックスをblink-182やブリング・ミー・ザ・ホライズンなどを手がけてきたエンジニア、ザック・セルヴィーニが担当。彼にお願いしたのは、どういう理由からですか?
LiSA:自分の趣味で聴いている音楽に、ザックさんが携わっていることが多くて。特に今回は『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』という大きな理由をもらえたので、このタイミングに自分が好きなことを混ぜてみようじゃないですけど、「この人にお願いしたら自分の声はどうなるんだろう?」とワクワクしたかったんです。実際、できあがったものを聴いて、カッコよすぎて笑っちゃいましたね(笑)。
ーその笑っちゃう感じ、わかります。彼が手がけてきた作品の多くは、ドラムのミキシングが特徴的だという印象があるんですが、そういう点でも相性抜群でしたものね。
LiSA:私も最初にドラムがバーンって鳴った瞬間に爆笑しちゃいました。ザックさんと特に言葉を交わしたわけではないんですけど、私の声に関してもこのバンドサウンドにマッチしたミックスを施してくれて。私は自分の声が特徴的だからこそ、コンプレックスを感じることもあったんですけど、このミックスを聴いたら「このままでいいんだ!」と自信につながりました。
ー確かに、歌とトラックのバランスが絶妙ですよね。
LiSA:はい。私の声が出過ぎるからバンドの音を上げればいい、みたいな話じゃないなかったんだなと。こんなにカッコいいサウンドの中に、ちゃんとボーカルとして存在させてもらえるという、その立ち位置も含めてすごく感動しました。
大きな希望が見えた
ーちょっと余談ですが、Rolling Stone JAPANでは過去にblink-182やブリング・ミー・ザ・ホライズンについてLiSAさんにお話を伺っています。その2バンドもここ最近新たな動きがあったので、改めてお話を聞かせてください。blink-182は昨年トム・デロングがバンドに復帰し、新曲「Edging」のリリースやコーチェラ・フェスティバルへの出演で注目を集めたばかり。彼らの近況はLiSAさんにどう映りますか?
LiSA:ブリンクもそうなんですけど、パンクっていうものが少しずつ新しくなって復活している感覚はありますね。それこそ、アヴリル・ラヴィーンもトラヴィス・バーカーのレーベル(DTA Records)に入って、トラヴィスやマシン・ガン・ケリーが参加したアルバムで復活したじゃないですか。今ではラッパーの人たちがパンクロックに振り切っていたりしますし、自分が音楽を始めた頃、それこそブリンクに出会った頃のシーンが復活しているような感覚があって。それに付随して昔のヒーローって言ったら失礼ですけど、自分がかつて憧れていたヒーローたちがまた息を吹き返して、「よし、頑張るぞ!」みたいな気持ちになっていることもとてもうれしいですね。
ー単に当時聴いていた世代だけでなく、マシン・ガン・ケリーを通して今の若い世代にもアヴリルが届いている感覚もありますものね。
LiSA:サウンドこそ新しくなっているけど、自分が好きだった根底の部分っていうのは何も変わってないなといううれしさもやっぱりありますね。
ーさらに、ブリング・ミー・ザ・ホライズンまでもがポップパンクに影響を受けた楽曲をリリース。
LiSA:「LosT」ですよね。めちゃめちゃカッコよかったです。ブリング・ミーってどちらかというとヘヴィロックのイメージだったんですけど、サウンドはそのままで彼らがパンクロックをやるとこうなるんだなっていう新鮮な驚きがありました。
ーこういう音が旬になっている流れを感じますよね。
LiSA:そうですね……そうだ! 私、ザックさんが手がけたペール・ウェーヴスの新作(『Unwanted』)をずっと聴いていて。それで今回、ザックさんにお願いしたいなと思ったんです。ちょうど自分が新しいことにトライしたいなと考えていたときに、ペール・ウェーヴスみたいな最近の若い世代のパンクバンドの子たち……パンクバンドと言っていいかわからないですけど、そういった子たちがすごく元気で。しかも、ブリンクとかブリング・ミーを手がけてきたザックさんが関わっている。「ああ、私が求めているのはここだな」と思ったんです。で、若い世代とレジェンドたちがつながるポイントが見えたときに、私にとって大きな希望が見えた気がしました。
ー欧米ではよく”ロック低迷”と言われていますが、作品自体は常に進化し続けていますからね。
LiSA:昔もきっと、パンクロックってダサいものだと捉えられていたけど、それこそグリーン・デイが『American Idiot』を世の中に知らしめてくれてからパンクロックがみんなに認められて、カッコいいと言われるものになったような感覚があるので、そんな日がまた近づいているような気がします。
ー最後に。9月からは全国ツアーも始まるなど、再び活動が活発化していきそうですが、ここからの未来にどんなイメージを持っていますか?
LiSA:「REALiZE」を完成させたことでまたひとつ手札が増えたと実感しているので、ここからの10年に向けてすごくいいスタートを切れたんじゃないかな。なので、今後もいろいろ巻き込みながら攻めていける楽曲を増やしていきたいです。ツアーについても、最近は情勢がいろいろ緩和されたことで、いろんなことが制限されていた中でリリースされた楽曲たちが本領発揮できるものになるんじゃないかと思っていて。それこそ、ライブにおいてはまだ未完成の楽曲もたくさんあるので、このツアーでどこまで進化していくのか、すごく楽しみにしています。
【関連記事】LiSAが語るブリング・ミー・ザ・ホライズン「音楽への尊敬とパンク精神」
【関連記事】LiSAが語るblink-182「昔も好きだったし、今も好きだと言えるバランスの大事さ」
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「REALiZE」
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