アップルがヘッドマウント型ウェアラブルデバイス「Apple Vision Pro」を、世界開発者会議「WWDC23」で発表しました。4K高画質の映像コンテンツを楽しんだり、“空間コンピュータ”として仕事にも広く活用できたりする新種のデバイスです。WWDCを現地で取材した筆者のファーストインプレッションを報告します。

↑アップルが発表した“空間コンピュータ”「Apple Vision Pro」を体験しました

 

今年はApple Vision Proが脚光を浴びた

WWDCは、アップルのハードウェアと関連するアプリを開発する世界中のデベロッパーが、毎年この時期にアップル本社のApple Parkに集まるビッグイベントです。

 

今年も秋に正式リリースを予定しているiOS 17など、各デバイスのOSの新機能が公開。またハードウェアとして15.3インチの新しい「MacBook Air」、最強のAppleシリコン「M2 Ultra」を搭載する据え置き型Macのフラグシップモデル「Mac Pro」、ハイエンドモデルの「Mac Studio」も発表されました。

 

そのなかで、初日の6月5日に開催された約2時間の基調講演において、約45分を割いてアップルの新製品であるApple Vision Pro(以下:Vision Pro)がベールを脱ぎ、その詳細が伝えられました。すでにアップルのWebサイトでも紹介されているとおり、ユーザーが頭に装着して使うヘッドマウント型のウェアラブルデバイスです。

↑大勢の来場者がVision Proの展示に押し寄せました

 

片目ずつで最大4Kの高画質映像を表示する、マイクロ有機ELディスプレイを搭載したウェアラブルデバイスを、アップルはAR/VRヘッドセットとは呼ばずに「空間コンピュータ」であるとアピールしています。

 

発表から大きな話題となったVision Pro。筆者はイベントの会場で試作機を体験しました。その様子をレポートしていきますが、デモンストレーション会場での写真撮影が禁止されていたため、テキストのみでの体験紹介になることをご了承ください。

 

ディスプレイとあらゆるチップが搭載、バッテリーは軽量化のために別

ヘッドセット部分には高精細なディスプレイのほかに、本体の頭脳であるApple M2チップ、さまざまな種類のセンサーから送られてくる情報を制御するApple R1チップ、Wi-FiとBluetoothの通信機能、高精細な写真やビデオを撮れるメインカメラが搭載されています。さらに、アップルが本機のため、新たに開発したvisionOSを基幹ソフトウェアとして取り入れ、さまざまなアプリを使えます。

 

本体はバッテリーを外部から給電する構造としたことで、軽量化されています。筆者が手に持った感覚ですが、アップルのAirPods Max(384.8g)よりも少し重いぐらいの手応えでした。ケーブルで接続する専用バッテリーパックによる連続駆動は最大2時間。AC電源アダプターを使えばさらに長時間の連続使用にも対応します。

↑本体にバッテリーを組み込まず、別筐体としたことで軽量化を図っています

 

快適なハンドジェスチャー操作。ディスプレイにノイズ感やドット感なし

Vision Proの操作はデバイスを装着したユーザーの視線トラッキングと、指先と頭のジェスチャー操作、Siriによる音声操作を基本としています。本機を使い始める前、初期設定の際に視線や指先の動きを調整すれば、Macなどのコンピューターと同じような感覚でvisionOSの画面を動かすことができます。

↑指先を動かすシンプルなハンドジェスチャー操作に対応しています

 

↑本体の底部、左右にハンドジェスチャーを認識するカメラが内蔵されています

 

視線の追跡や、指先でものをつまむような「タップ」、ひもを上下左右に引っ張るような「スクローリング」の操作は予想を超えて快適でした。

 

Vision Proのディスプレイは透過型ではないため、電源を投入せずに装着すると目の前は真っ暗です。電源を入れると、本体のフロント側に搭載するメインカメラが外部の映像をキャプチャーして、ディスプレイに表示します。

 

カメラの映像は高精細なだけではありません。Vision Proを装着してカメラの前にiPhone 14 Proをかざすと実物と同じ大きさで表示されます。また、席を立って部屋の中を歩き回ってみても、ユーザーの動きに対して映像が遅延なく表示。映像のドット感が目立つことはなく、オブジェクトの歪みやギザギザに表示されるノイズ感もありません。

↑本体に内蔵するカメラが周囲の高精細な映像をキャプチャー。アプリの画面を見ながら部屋の中を安全に移動できます

 

映画以上の没入感、イマーシブビデオの体験も圧巻

デモンストレーションでは、iPhoneやMacでおなじみの「フォト」アプリを起動して写真や動画を見たほか、Apple TVアプリで3D/2Dの映画を視聴。一体感あふれるシームレスな映像に引き込まれます。画面上に100フィート(約33メートル)の、4K/HDR対応の高画質なスクリーンを展開できるうえ、サウンドは内蔵スピーカーによる空間オーディオ対応なので「映画館以上」の没入感を味わえます。

 

本体に搭載するメインカメラで、左右の視差を活かした「空間再現ビデオ/写真」を撮影して、Vision Proのディスプレイで楽しむこともできます。たとえばキャンプ場で“たき火”を囲む動画は、炎が目の前まで迫ってくるような迫力がありました。

 

iPhoneで撮影した自然の風景のパノラマ写真、ユーザーの周囲をぐるりと映像に入り込むような「イマーシブビデオ」の体験も圧巻でした。

↑iPhoneで撮影したパノラマ写真を表示。目の前に巨大なスクリーンが現れます

 

空間コンピュータは仕事にも実力をフルに発揮してくれそう

見どころが多いなかで、筆者がVision Proの魅力を最も強く感じたポイントは、本機を「ウェアラブルなMacBook」のように使えたことです。バーチャル空間の中にいくつものアプリウィンドウを開き、高精細な文字を読みながら“ふつうに”オフィス仕事がこなせそうと感じました。文字をすべてSiriによる音声入力に頼ることは難しそうですが、Bluetoothキーボードやトラックパッドが併用できるので安心です。

↑MacやiPad、iPhoneを操作するような感覚でさまざまなvisionOSに対応するアプリのサービスを使えます

 

Vision Proは、装着感の調整を含めてユーザーが使うスタイルに最適化されています。MacやiPhoneを他人とシェアして使うケースがあまりないように、Vision Proにもユーザーのプライバシーとセキュリティを守るための新しい技術「Optic ID」が搭載。Optic IDはユーザーの瞳の虹彩パターンを解析して、本体のロックとして使う技術です。こうしたところも仕事目線で見ると、プラスの要素になります。

 

空間コンピュータとしての広がりを感じた

そしてVision Proは筆者のようなメガネユーザーも、裸眼のまま装着して快適に楽しむことができます。本体内側のレンズの上に、マグネットで着脱できる「光学インサート」を装着して視度を調節。コンタクトレンズを装着して使う場合、光学インサートは不要です。視線トラッキングのために使う不可視光が、コンタクトレンズを介して目に悪影響を及ぼすこともありません。心置きなく長時間使い込めます。

↑裸眼のまま装着して使えるように、カール・ツァイスを共同開発した光学インサートを装着します

 

Vision Proは高精細な4K対応の没入型映像コンテンツを楽しむためのエンターテインメントデバイスとしても魅力的ですが、それよりも空間コンピュータとして今後も広がり続ける可能性にとても強く惹かれました。

 

来年初旬に、アメリカでは3499ドル(約49万円)で発売されることも明らかになりました。そのほかの国と地域では来年の後半に販売が開始されます。その前に日本国内でも体験できる機会があれば最高ですが、世界初の“空間コンピュータ”に興味を持った方は、今から早めに購入予算の確保に動くべきかもしれません。

 

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