中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力
※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
■香港株は2018年の高値から56%も下落
近年、中国の経済成長のほとんどは不動産投資、インフラ投資によるものであった。しかし昨今、投下された資本効率が低くなっていた。アウトプットを出すためには、さらにインプットをしなければ成長は望めない。それが叶わなくなっていた。
不動産バブルが崩壊し、中国の景気が悪くなるということは、世界のマーケット関係者には周知の事実である。だから、香港株は2018年の高値から56%も下落しているのだ。
金融危機の定義を数字で表すならば、指数が高値の半値になるレベルということができる。すでに香港株は半値以下になっているので、金融危機に突入していると言っても過言ではないのである。
■ライトの使用量と経済発展レベルに齟齬
もう一つ、経済の実態について紹介したい。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度に留まるということを、皆さんはご存じだろうか。
その見方を示したのは、シカゴ大学の研究だ。
最近IMF(国際通貨基金)や世界銀行も似たようなアプローチをとり始めているが、各国の経済成長を人工衛星から入手した夜のライト(明かり)量で比べて抽出したもので、過去の映像と当時の各国の経済力を比較した研究結果が2022年11月、『TIME』誌に掲載された。
中国のような独裁国家は、ライトの使用量のレベルと経済発展のレベルに大きな齟齬(そご)が見られることが判明した。
研究結果として得られた結論は、中国のGDPについては政府当局発表の6割でしかないとする衝撃的なものだった。
■独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離
この研究結果を見ると、きわめて興味深い事実が浮かび上がってくる。
欧米日などいわゆる先進国、あるいは自由主義国家の数字を見ると、「夜のライト量で割り出したGDP」と「当局から報告されたGDP」はほとんど乖離(かいり)していない。
これが、部分的にしか自由がない国々、民主主義を敷いてはいるがさまざまな問題を孕(はら)む国々になるとどうなるか。
レバノン、メキシコ、コロンビア、ナイジェリア、フィリピン等々は、「夜のライト量で割り出したGDP」よりも「当局から報告されたGDP」のほうが高い数値になっている。
さらに完璧なる独裁専制国家を見てみると、その乖離がひどくなっており、中国、エチオピアなどはその最たるものであることがわかった。
■「中国がGDPで米国を抜く」は空論
この事実を鑑(かんが)みると、中国がGDPで米国を抜く、凌駕(りょうが)するという説は空論であると考えるほかない。
中国経済はあと10年、15年後には弱体化することを、中国自身もわかっているのだろう。
バブル崩壊後の日本のように、活力を失い、国力も沈んでいくと意識しているのかもしれない。
次に社会問題である。深刻なのは食料に関わることである。
一般的な中国人の食生活に不可欠な食材は、大豆とトウモロコシと豚肉と言われている。
大豆とトウモロコシは豚の飼料になるので、大げさに言えば、中国人とは三位一体の関係を成す。
こうした食料はコモディティ相場と切っても切れないものなのだけれど、大変興味深い現象が見られる。トウモロコシ価格が上がった年には、肉の価格が下がることが多いのである。
特に牛肉の場合は顕著なのだ。
■2023年の牛肉価格は上昇
なぜか。本当は来年まで育てて大きくしてから売るつもりであった牛まで、と殺(さつ)して売ってしまう傾向が強くなるからである。
だから、トウモロコシ価格の高かった年には牛肉価格は下落し、その翌年は市場に出回る牛肉自体が減るため、価格は急騰することになる。
2022年夏のトウモロコシ価格はかなり高かったことから、おそらく2023年の牛肉価格は上昇するものと私は予測している。
牛肉市場をウォッチするには、米国シカゴ市場の素牛(フィーダーキャトル)先物市場が適していると思う。
■「もっと自由を!」「飯を食わせろ!」
これらは牛肉市場の話だが、流れ的には豚肉も大差がない。
こういうサイクルは、農作物についてもよくあることで、その年の価格が上がっていたら、翌年はまったく振るわない。
と思ったら、その翌年は急騰したりする。
要は、農業従事者が相場を見ながら“生産調整”するわけである。
その意味で、中国は豚肉、大豆、その他もろもろの作物が不作となり、食料危機に発展する火種を常時秘めている。
すでに一部の作物については価格が急騰しているので、その不満が各地で発生するデモの要因になっている可能性もある。
2022年12月に起きた「白紙デモ」のとき、掲げられたのは白紙だけではなかった。
白紙に紛れて「もっと自由を!」、そして「飯を食わせろ!」と書かれたものもあったのだ。
■中国・ロシア・イランを苦しめる食料インフレ
余談になるが、他国に目を転じると、ここのところスリランカ、イランなどでも大型デモが起きている。その要因は当然ながら、食料インフレがあまりにも厳しいからだろう。
権威主義陣営である中国、ロシア、イランなどでは早くも食料危機が訪れているのではないか。そんな印象を私は抱いている。
ここをどう乗り越えるのか。いまのところ、中国を初めとした権威主義国家は、国民の怒りをガス抜きする政策によって乗り越えようとしているように映る。
だが、これは本来の権威主義陣営の“流儀”ではない。逆だ。
イランなどは拒否しているけれど、権威主義陣営ではモラル警察を廃止することをチラつかせたりしており、行き詰まり感を垣間見せている。
それらの原因をつくったメインは、やはり食料インフレだと思う。
国民にとって、食えなくなること以上の苦しみはない。
他の自由や人権については我慢できるけれど、飢えだけはどうもならない。
今後、中国などでは社会不安が高まっていく可能性がある。
■中国は米国に弱みを握られている
そしてこの食料問題に関し、中国は米国に弱みを握られている。
中国は農産物を毎年、米国から相当量輸入している。
中国は経済安保上、相手陣営に強く依存したくないはずで、本音では米国からはあまり買いたくないだろう。しかし、背に腹は代えられない状況になっている。
■米中関税合戦は中国国民を苦しめる
米国は中国からアパレル、家電、雑貨、家具、アセンブリー部品などを輸入している。
その逆の、中国が米国から輸入する品目のほとんどは、食料(農作物、肉類、酒類)なのである。
そして、トランプ政権時代から米国は中国製品や品目に対して高関税をかけるようになった。そこで、中国も米国の高関税に対抗して、同程度の関税を輸入品にかけると宣言し、実行した。
しかし、両国の事情は大きく異なっていた。
先に述べたように、中国が米国から輸入する品目のほとんどは食料である。これに高関税をかけてしまい、最終的には消費者である中国国民を苦しめることになったのである。
ただ、米国民も高関税分のコストを引き受けなければならないので、お互い様と言えないこともない。
そこで米国は輸入物価を下げるため、意図的に“ドル高”に持っていった。中国が20%の追加関税分を20%のドル高で“相殺”したわけである。
だが、中国は米国と同様の手は使えない。
知ってのとおり、このところどんどん人民元レートが下落している。輸入はできるものの、輸入価格はドルベースで高くなったし、さらに米国への報復措置としてかけた追加関税分が上乗せされている。
中国国民からすれば、報復関税が痛みとなって刺さってきたのだ。
こうした措置を、バイデン政権が撤廃するかもしれないと、中国側は期待を抱いていた。だが、それは見事に裏切られ、今日に至っている。
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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)、『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)などがある。
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(エコノミスト エミン・ユルマズ)