「客に禁止行為をさせろ」メンズエステ店の秘密のルール 逮捕された女性スタッフの後悔
違法な性的サービスを提供する「メンズエステ」の摘発が全国で相次いでいる。2022年8月には、「女性スタッフにわいせつな行為を行った」と因縁をつけ、金銭を脅し取ろうとした恐喝、恐喝未遂の疑いで大阪府のメンズエステ店の経営者や女性従業員などが逮捕された。
驚くことにこの店舗は、いわゆるこの「美人局」行為を行うために設立されており、開店からわずか2カ月での摘発となった。
この事件では2023年4月時点で、5名の男女が同罪で起訴されている。このうち、3月に大阪地裁で行われた女性スタッフの裁判を追った。(裁判ライター:普通)
●「禁止行為をさせて示談金を請求する店」
20代の被告人は目鼻立ちがはっきりした女性で、勾留が解けた2回目の公判からは、露出度の高い服装で出廷した。見た目からは派手な印象も受けるのだが、法廷での被告人からは不安そうな様子が時折感じられた。これまで前科前歴はない。
被告人はオーナーであるZから誘われて入店した。これまでもZの紹介で、複数のメンズエステ店で勤務をしていた。Zからは「あえて密着して、客に興奮をさせて触らせろ」と指示を受けており、「店として客に提示している禁止行為をさせて示談金を請求する店」とも説明を受けていた。
この店では、店長、従業員、Zなどが監視カメラで施術室内の様子を常に見ていた。禁止行為が発生し、被告人がタオルを倒して合図を出すと、客がシャワーを浴びている間などに男性陣が部屋に侵入し、恐喝行為に至る。直接的な恐喝現場に被告人は立ち会っていないが、客から違法に巻き上げた金銭のうち30%を報酬としていた。
被告人は、禁止行為をしてきた客の内、「合計で10人くらいから、あわせて約50万円の示談金を得ていたと思う」と供述した。今回、起訴された事件の被害者は2名だが、それ以外にも被害者がいたことを自ら認めたことになる。
●被害者が語る当時の犯行状況
被害者たちが法廷で明かした被害の状況は、同情を禁じ得ないものだった。
被害者である客Aは、男性従業員から「どうしてくれてんねん、女の子泣いとるやろが」「警察行こうか」などと凄まれ、「婚約者にバレるのが恐い」との思いから恐喝に応じてしまったという。
「本当は200万だけど、150万でもえぇで」という男性従業員にAは「10万円なら」と答えたが、「話にならん、30万円なら女の子に話つけたるわ」と返されててしまう。友人に相談してなんとかお金を工面していた。
被害者Bはマッサージを受ける中で、被告人の陰部を触ったことを認めた。施術が終わり、シャワーを浴び終わったらそこには店長などが立っており「本当なら200万だけど、50万円でえぇわ。払わないと警察沙汰になるけどどうする?」「刑務所行くことになるよ」などと凄まれた。
Bはその場で警察を呼んだが、駆け付けた警察官に「最終的には関与できないから、当事者間で解決するように」と言われ、その場で10万円を払い、残りは分割で支払うという示談書を作成させられた。
●被害者にも落ち度はあったのか
被告人としては、当初は男性従業員らが恐喝行為をしているとは思わなかったと語った。ただ、従業員との会話で「今回は強く言ったんです」などの言葉が聞こえるようになり、方針が変わったのかなと思っていたという。そもそも、客も「女性に触ったら200万円を支払う」という同意書にサインをしているため、示談金が支払われることにも特に疑問を抱かなかったという。
検察官から、「示談金を請求する店、と説明を受けてどう思ったか」という犯行の悪質性の認識を確かめる質問では、「触ってくる人にちゃんと対処してくれる店なのだと思った」と答えた。
弁護人としても、今回の犯行の違法性は争っていないが、禁止行為に同意しながら強引に行為に及ぶ被害者にも一定の落ち度はあると主張するやり取りがあった。
弁護人「メンズエステ店というのはエステ店なのですか?」
被告人「普通のマッサージを目的とする人は少ないです」
その他にも、
弁護人「調書には、『被害者Bは大胆に触ってきた』とあるけど」
被告人「『やめて』と強く言っても、陰部から指を抜いてくれませんでした」
弁護人「そのほかに覚えていることは?」
被告人「それ以上の禁止行為を迫ってきて、『それしたら私がクビだから』と言うと、『お姉さんがクビになったら、50万でも、100万でも生活費払うから』と全然話を聞いてくれませんでした」
などと語った。また、無理やりに触ってこようとしない客から示談金を得ることに「罪悪感があった」などとも語り、この裁判の前にはAとは10万円で示談が成立している。
●保護観察に付せられた被告人の出所後の生活の不安
検察官からは、被告人の認識の甘さが追及された。事前に示談金名目で客を誘惑するよう仕向けられていた点、あらかじめ示談書に被告人の氏名や住所を書かされていた点を問われると、被告人は「オーナーや店長に言われるがまま深く考えていなかった」などと供述。ときおり検察官の質問の意図が汲めず、ちぐはぐなやり取りとなる場面も見受けられた。
判決は懲役2年(求刑同じ)、執行猶予4年、執行猶予の期間中は保護監察所から指導を受けるよう宣告された。
なお、オーナーとされているZの逮捕などの情報はまだ明らかにされていない。
【筆者プロフィール】裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。