埼玉を走る単線のローカル線、秩父鉄道が“脱皮”を始めています。大幅な増発や運転区間延長、終電の繰り下げなど、矢継ぎ早に施策を打ち出しています。 アウトレットモールをはじめとする沿線の大規模な開発は、複数の鉄道に影響を及ぼしています。

増発や急行列車のテコ入れ、終電繰り下げも

 SL列車「パレオエクスプレス」やセメント輸送の貨物列車が走り、長瀞や秩父といった埼玉の観光地を結ぶ単線のローカル線――そんな秩父鉄道が大きく変貌しつつあります。2022年3月、ついに全線でICカード乗車券「PASMO」を導入するといった近代化が話題になりましたが、それ以降、大幅な増発、終電の繰り下げなど、「攻め」のダイヤ改正が続いているのです。


秩父鉄道(画像:写真AC)。

 秩父鉄道の沿線は近年、大きな変化が起きています。2017年、持田〜熊谷間へ「ソシオ流通センター駅」、2018年には永田〜小前田間へ「ふかや花園駅」と、立て続けに新駅を開設。2022年10月にはふかや花園駅直結の大規模商業施設「ふかや花園プレミアム・アウトレット」が開業しました。
 
 プレミアム・アウトレットの開業に合わせ、秩父鉄道線では2022年10月1日に熊谷〜寄居間で30本以上の大増発を実施し、「ふかや花園駅」へSL列車が停車するようになりました。秩父鉄道によると「平日・休日ともにプレミアム・アウトレットに向かう一定の利用者が定着し、効果を実感している」(運輸部運輸課)とのこと。

地元の深谷市は以前、アウトレットを含む一帯の集客を年間650万人と試算していました。それだけでなく、アウトレットの従業員数だけでも2000人を数えます。アウトレットの開業前から、秩父鉄道を利用して通勤する人の姿がありました。

 2023年3月18日に行われるダイヤ改正では、羽生・行田市方面から長瀞方面の利便性向上を図るため、寄居行きの一部列車を長瀞行きに延長するほか、土休日には羽生駅発着の急行「秩父路」号が2往復設定され、急行における羽生〜三峰口間の通し運行が復活するなどします。大増発による“アウトレットの足”の確保から、さらに沿線観光などの利便性向上へつなげる流れといえそうです。

東上線の変化が秩父鉄道にも波及?

 さらに今回、熊谷〜寄居間で下り列車の終電も繰り下げられます。これは秩父鉄道によると、「東武東上線の終電繰り下げに合わせたことが、主な要因」(運輸部運輸課)だそう。

東武東上線では同日のダイヤ改正で、寄居から川越市への平日上り終電が約1時間も繰り下がります。東上線沿線では2020年にホンダ埼玉製作所寄居完成車工場の隣接地に新駅「みなみ寄居駅(ホンダ寄居前)」が開業していますが、今回のダイヤ改正後で終電が繰り下がると、たとえば、これまで電車で帰れなかった工場の終業者が、川越市駅行きの終電に間に合うようになります。

 寄居発の東上線の終電が繰り下がることで、秩父鉄道もそれに接続する熊谷から寄居の下り終電を繰り下げることが可能になりました。これにより、沿線の利便性向上が見込まれます。

 アウトレットができた秩父鉄道沿線、ホンダ工場ができた東上線沿線と、路線は異なるものの、地域の開発が双方の路線へ好影響を及ぼしていることがうかがえます。逆にいえば、これこそが地域にとって“鉄道がある”ことの強味といえるかもしれません。