沈んだままの造船立国ニッポン 苦境の国内2位JMU 最大手と提携で浮上できるか
日本2位の造船企業JMUが、これまで造船に関わったことがない新社長へ交代します。重工系3社による統合企業として誕生するも、経営は厳しく、さらなる事業再編と他社との提携を模索。日本の造船業界は再び岐路に立っているようです。
日本2位の造船所JMU とりまく波は高く
商船や艦艇・官公庁船などを手掛ける造船会社ジャパンマリンユナイテッド(JMU)に新しい社長が就任します。新社長は親会社の1つであるJFEホールディングスで専務執行役員などを務めた経験がある灘 信之氏(スチールプランテック社長)。これまで造船業に関わったことがない人材の抜擢に、灘氏も「晴天の霹靂」と驚くほどです。
日本の造船を代表する「総合重工系の見本」としての役割が期待されていたJMU。中国や韓国との受注競争や鋼材価格の高騰など、厳しい経営環境にさらされる中、新体制が2023年4月1日からスタートしようとしています。
JMU横浜事業所磯子工場で竣工したイージス・システム搭載護衛艦「はぐろ」。2021年(深水千翔撮影)。
「資源がない国は産業立国でやっていくしかない。その中で一翼を担っているのが造船業。JMUだけでなく日本の造船業が今後、どのように復活していくのかを考えるのが使命だ」。灘氏は2023年1月26日に開かれた記者会見でそう口にしました。
JMUは2013年1月に、日本鋼管(現JFEホールディングス)と日立造船の造船事業を統合したユニバーサル造船、IHIグループのアイ・エイチ・アイマリンユナイテッド(IHIMU)が統合して誕生しました。IHIMUのルーツには住友重機械工業の艦艇事業も含まれています。竣工量は2021年実績で192万総トンと日本2位、世界7位の規模です。
「総合重工系の見本という気構えでスタートした」(千葉光太郎社長)と話すように、かつて造船大手と呼ばれたIHI、日本鋼管、日立造船それぞれの流れを汲む造船所を拠点にJMUは事業を展開しています。新造ヤードは横浜事業所磯子工場・鶴見工場(横浜市)、津事業所(津市)、呉事業所(広島県呉市)、有明事業所(熊本県長洲町)の4つ。舞鶴事業所(京都府舞鶴市)や因島事業所(広島県尾道市)などが修繕専門のヤードです。
建造船種はタンカー、バルカー、コンテナ船といった大型の貨物船から、海上自衛隊の護衛艦や掃海艦、海上保安庁の巡視船、さらにはクレーン船のような特殊船まで幅広い船種をカバーしています。ステルス戦闘機F-35Bの運用能力を持たせることが決まった海自最大の艦艇である「いずも」型護衛艦(基準排水量1万9500トン)も、JMUが建造を担った製品の一つです。
経営は安定せず ニーズあるLNG船からは手を引く
しかし、千葉社長が「想定を超える外部環境の変化により、在任中の収益は厳しいものになった」と振り返るように、同社の経営は厳しい環境に置かれ続けています。特に鋼材や資機材価格の上昇による受注船舶の採算悪化が響いており、2022年4〜12月期の連結決算では最終損益が、前年同期の8億円の黒字から、131億円の赤字に転落しました。
「中韓との熾烈な戦いがあり、需給のバランスが非常に悪い。2018年、2019年と思ったような船価で受注ができない状況があった。コロナ禍を経て2021年にコンテナ船を中心に市況が上向き、船価も上がったと思ったら資機材価格の高騰に直面。タンカーの市況は伸びてきているが、厳しい状況に変わりはない」(千葉社長)。
実際、2021年の竣工量世界1位は中国国有造船の中国船舶集団(CSSC)で1077万総トン。2位から4位までは現代重工業(985万総トン)、大宇造船海洋(464総トン)、サムスン重工業(439総トン)の順で韓国企業が並びます。そして、5位に国内建造首位の今治造船グループ(361万総トン)が入っています。
JMUの灘新社長(左)と千葉社長(深水千翔撮影)。
また、JMUは建造したフェリーでのエンジントラブルやLNG(液化天然ガス)船の引き渡し遅延、有明事業所などにおける建造工程の混乱が発生していました。特に国産技術であるSPB(自立角型)タンクを採用した大型LNG船4隻の建造では、LNGの気化を防ぐ防熱工事などで苦戦。これが影響し、2018年3月期の連結業績では純損失694億円を計上しています。
そのため、世界的に需要が高まっている大型LNG船や、国内で定期的な発注が行われているフェリーの建造からは事実上、手を引いている状態です。運用している船社からの評判は良くても、利益が出なければ事業として継続できません。
「オーナー系造船所」と手を組み危機打開なるか
こうした中、JMUは舞鶴事業所での新造船建造撤退と、オーナー企業である今治造船との資本業務提携に踏み切ります。
2021年1月にはJMUと今治造船による商船営業・設計の合弁会社「日本シップヤード(NSY)」が設立。JMUは商船事業においては、純粋に船体の建造に集中できるようになりました。併せて各事業所へ効率的に新造船を振り分けて、どこでも同じ品質で建造できるよう、標準・基準類の統一を進めています。
千葉社長は「(2018年に比べて)造船業界の状況が大きく変わってきた。その中で今治造船と資本業務提携するのがベストな形という決断に至った。日本の造船業を発展させていくため、総合重工系の造船所とオーナー系の造船所がどのように手を組んで協力していくのかが重要な点なのでは」と話しました。
艦船事業では予定していた3900トン型護衛艦(FFM)の受注を逃し、磯子工場での建造期間が開いてしまったものの、「なんとか耐え忍んで、哨戒艦の主契約者に指名してもらうことが出来た」と述べています。
新社長となる灘氏は、「覇権主義国家による安全保障問題、エネルギー不安や物価高、資源の確保といった大きな問題が急速に起きてきた時代は少ない。これから起きる変化に対応し、付加価値の高い船舶、対応商品を安定して供給していくことが存在意義だと思っている」と意気込んでいました。
ただ、世界的にも、造船業の先行きは厳しいものがあります。例えばLNG船を安定的に受注している韓国の大宇造船海洋も自力での経営が立ち行かなくなり、現代重工業との合併を目指したものの計画がとん挫。韓国財閥のハンファグループに買収されることになりました。日本でも、「水上艦の建造は1社に絞るべき」との考えが造船関係者のあいだに存在し、さらなる再編・集約が進む可能性があります。