2022年の出生数は、初めて80万人を割り込んだ(写真:B-finity / PIXTA)

「わが国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」

岸田文雄首相は2023年1月に行われた施政方針演説で、急激に進む少子化に対して強い危機感を示した。


実際、日本の人口はかつてなく減少している。2月28日に厚生労働省が発表した2022年の自然増減数(速報値)は78万人のマイナスと過去最大の減少で、前年と比べたら17万人も多く減った。佐賀県や山梨県の人口が80万人弱だから、これと同規模の人口が1年で消失したことになる。

予想より10年早く訪れた「出生数80万人割れ」


背景にあるのは少子化だ。前出の厚労省の発表によれば、2022年の出生数(速報値)は79.9万人と7年連続で過去最少を記録。速報値には日本における外国人、外国における日本人などを含むため、日本における日本人だけを数えた確定数は77万人ほどになるとみられる。

政府はここに来て「異次元の少子化対策」を打ち出し、子ども関連の予算を「倍増」するという。ただ少子化問題は30年前から本格化しており、抜本的な対策が打たれないまま出産適齢期に入った少子化世代は経済格差にさいなまれ、結婚・出産を「リスク」として避けている。

急速な少子高齢化のひずみは年金・医療制度を揺るがし、地方経済を衰退させるなど多方面に波及している。

日本の少子高齢化の現実は、データを見れば一目瞭然だ。


2022年の日本の出生数は約79万人(速報値)となったが、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計(2017年)では出生数が80万人を割るのは2033年の見通しだった。それが10年以上早まってしまった形だ。


夫婦の最終的な平均出生子ども数で見ると、2010年調査以降、2人を下回っているものの、その減少ペースは緩やかだ。


一方、男性の生涯未婚率が30年間で5倍に急上昇するなど未婚化が進んでいる。

「超高齢社会」がやってくる

2025年には、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる「超高齢社会」がやってくる。さらに20年後、2045年の日本は多くの都道府県で高齢者人口比率が4割を超える。



少子化の進行はとくに東アジアで顕著だが、欧米の主要国でも合計特殊出生率が2を下回る。少子化は世界的なトレンドとなっている。

対策は待ったなし

家族関係支出は出生率と相関する傾向にある。日本はヨーロッパの主要国と比べると子育て支援に投じる予算は少ない。対策は待ったなしだ。


【キーワード解説】

合計特殊出生率:15〜49歳の女性の、年齢別出生率を合計したもの。1人の女性が一生の間に産む子ども数に相当。人口維持には2.07が必要とされる。

完結出生児数:夫婦の最終的な出生数(結婚してからの経過期間が15〜19年の夫婦の、平均子ども数)のこと。2010年調査以降、2人を下回る。

ひのえうま(丙午):干支の1つ。江戸時代からの迷信により1966年の出生率は1.58に。それを初めて下回った1990年以降、少子化対策が本格化した。

産み控え:コロナ禍による収入減や感染不安、里帰り出産の制限は、2022年の出生数に影響を与えたとみられる。

2025年問題:団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる「超高齢社会」を迎える年。社会保障費の増大や医療・介護の逼迫などが懸念される。

こども家庭庁:少子化や貧困、虐待など子どもに関する課題に総合的に対応する司令塔となる組織。縦割り行政の弊害打破へ、2023年4月に発足する。

(秦 卓弥 : 東洋経済 記者)
(印南 志帆 : 東洋経済 記者)