マクドナルドの期間限定新商品「アジアのジューシー」CMに賛否両論の声が。どう読み解くべきでしょうか?(写真:編集部撮影)

90年代に一世を風靡したPUFFYの「アジアの純真」。このパロディ版が、2月1日から発売されたマクドナルドの新商品「アジアのジューシー」のCMで使用され、それについてネット上で賛否両論の声が上がっている。

「女性自身」の記事では、タイトルに「『PUFFYオマージュ』に違和感続出『最悪のパターン』『中途半端』」とあるとおり、批判的なトーンでまとめられている。続いた「J-CASTニュース」の記事「マックの『PUFFY風』CMはなぜ叩かれたのか」においては、「元ネタへのリスペクト不足」が不評の理由と紹介されていた。

確かに、「ぎりぎりPUFFY世代」と言えなくもない40代の著者自身、最初にこのCMを見たときは、ちょっとした違和感を覚えた。だから、反発する意見が出ていることに不思議はない。

一方で、Yahoo!のコメント欄では、CMよりも記事の批判的な論調に対して「違和感」を示す意見のほうが目立っている。

SNS上の声を調べ直してみても、CMに違和感を示す声は一定数見られるものの、明確な批判意見はさほど多くはないし、「かわいい」、「懐かしい」といったポジティブな意見も多数出ており、賛否意見が混在しているのが実態だ。

さらに調べていくと、マック新CMに対するネット上の反応のズレは、現代という時代に対する人々の認識のズレによるものであることがわかってくる。

「PUFFY世代」とはまったく異なる「Z世代」の意見

まず、話題になっているCMの概要を振り返っておこう。

日本マクドナルドは、2月1日にアジアンフェア“アジアのジューシー”として、3種類のアジアンバーガーズを期間限定販売。それに伴い、西野七瀬&飯豊まりえを起用し、1990年代にヒットしたPUFFYの楽曲「アジアの純真」のパロディ「アジアのジューシー」のミュージックビデオ(MV)を1月26日に公開、新TVCMが1月31日より放映されている。

このMVとCMに関して、「(PUFFYのオマージュが)浅すぎる」「(PUFFYに対して)リスペクトが足りない」、「安っぽい」といった「違和感」が示されているのだ。


CMには若者世代に人気の西野七瀬さん&飯豊まりえさんが起用されている。Tシャツにジーンズのファッションは、まさに当時のPUFFY風(画像:マクドナルドの公式YouTubeより)

批判的な意見を示しているのは、90年代のPUFFYをリアルタイムで体験している世代のようだ。しかしながら、本CMに起用されているタレント2人を見ると、広告のメインターゲットは、Z世代であることは自明である。

したがって、公正に評価するうえでは、「PUFFY世代」だけでなく、Z世代がこのCMをどう受容しているかを知っておく必要がある。

筆者が、都心の大学2、3年生16名(筆者の授業の教え子たち)に感想を聞いてみたところ、興味深い意見が得られた。意見はさまざまだったが、大まかな傾向としては、下記のようなところだ。

1. 多くの大学生は、PUFFYも、原曲(「アジアの純真」)も知っている

2. ただし、PUFFYも90年代カルチャーも詳しく知っているわけではなく、上の世代が抱いているような「違和感」はほとんどない

3. 「安っぽい」、「お金がかかっていなさそう」という印象は多くの学生が持っているが、この点ついて、ポジティブ、ネガティブの両方の評価がある

4. キャスティングに違和感を示す声はなかった(ネット上では、「PUFFY自身を起用すべき」、「若手を起用するならもっとメジャーなタレントを起用すべき」という意見が出ていた)

5. 広告としての評価は、「食べたくなった」「おいしそう」という感想がある一方で、「(楽曲が長いので)スキップしたくなった」という声もあり、賛否両論が見られた

要するに、ネット上に出ているような「違和感」はZ世代にはほとんどなく、独立した広告、あるいはコンテンツとして素直にCM受容している――ということになる。

「中途半端なPUFFYオマージュ」なのか?

パッと見て、「アジアの純真」→「アジアのジューシー」のダジャレに、中途半端なPUFFYオマージュを乗っけただけと思う人もいたようだが、大学生の感想から見直すと、このCMは「Z世代」をターゲットとするマーケティング戦略に基づいて、制作・配信されていることが理解できる。

上に挙げた、5つの項目と対照させながら見ていこう。

まずは1(PUFFYの知名度)、2(90年代カルチャーへの認知)についてだが、実は今の若者層と90年代カルチャーとの親和性は高い。Z総研2022年上半期トレンドランキングでは、流行った言葉2位に「ぎゃる」、流行ったコト・モノ2位に「平成ギャル」、3位「ルーズソックス」がランクインしている。

90年代の音楽が好きな大学生も一定数いる。大学生と日常的に接している身の肌感覚としては、「平成ギャル文化」を取り入れている学生、90年代の音楽を好んでいる学生は、全体の1割程度といったところだが、「コア層」の周辺には、親しみを感じている人たちは一定数いるはずだ。


(画像:マクドナルドの公式YouTubeより)

上の世代のマーケターが、過去の流行を「レトロ」として仕立て直して提供することによって、捉えどころのないZ世代を攻略する方法は、手を付けやすくもあるし、一定の効果を期待することもできる、合理的なやり方だ。

若者が日頃TikTokで見ているのは「原典」ではない

90年代カルチャーが人気化する背景には、親世代の影響があると考えられるが、今回の学生へのヒアリングでは、TikTokの影響も感じられた。

現在、TikTok上では新旧の曲を聴くことができる環境が整っており、若者はそこで過去の楽曲に多数触れ、受容しているのだ。ここで注意すべきは、TikTokから流れてくる映像は、当時のものではなく、当時の楽曲を使った、「踊ってみた」等の現代の映像だ。

若者の多くは、PUFFYやその楽曲は知っていても、当時の彼女たちのファッションやパフォーマンスを知っているわけでもなければ、「原典」を忠実にコピーすることの意義も感じていないのだ(もちろん「完コピ」を志向する層が一定数存在するのも事実だが)。

なお、これが「パロディ」であることを認識しておらず、楽曲を使用しているだけだと理解している学生も数名いた。


「アジアのジューシー」で発売された3つのハンバーガー(写真:編集部撮影)

3つ目の「安っぽさ」についても、このCMが「TikTokから流れてくる動画」を意識して作られていると想定すると、「あえてこういう作りにしている」と理解できる。「お金がかかってなくて、ちょっとダサい感じがかえって新鮮」と言っていた学生もいた。

そもそも、マーケティングの最先端を行く超大手企業マクドナルドの主力商品において、PUFFYの曲をただ安直にパロディ化した、低予算CMを制作することは考えづらい。

4つ目のキャスティングの是非については、学生たちによると「SNSでよく見かける若者層の間で有名なタレント」とのことだった。「PUFFY世代」からしてみると、「マクドナルド(のような大手企業)が、なぜこのキャスティングをする?」と思うかもしれない。実際、巨大電子掲示板「5ちゃんねる」には、「マクドル『アジアのジューシー』CMのPUFFY役、適当な無名タレントではなかった」というスレッドが立っており、無名タレントだと思う人に対して訂正するような内容となっている。

5つ目の広告自体への評価だが、PUFFYの原曲を詳しく知らないだけに、パロディ、オマージュの部分はさほど若者層に違和感あるものとして引っ掛かってはおらず、だからこそ「広告」として素直に受容されたようだ。「(冒頭の)イラストがかわいい」という意見もあったが、このイラストは商品のラッピングにも使われている。

「(音楽部分が長すぎて)スキップしたくなった」「もっと商品を先に見せたほうが広告として効果が高くなると思う」という意見もあったが、このような感想になったのは、ネットで動画を再生してもらったことによるバイアスもあると思われる。

Z世代の広告に対する受容度は、上の世代とは大きく異なっている。NetflixやAmazon Primeなどで映像コンテンツを見慣れている若者にとって、地上波テレビ放送で流れるCMは「鬱陶しい」と思われたりする。

一方で、ネット上で流れる広告に関しては、多少押しつけがましいものであっても(無料でコンテンツを見るためには仕方ないものなどとして)受け入れているし、YouTuberの企業タイアップ動画などは、自分から進んで再生したりもしている。

現代の若者は同じ時代に住んでいても、40代、50代(あるいはそれ以上)の世代とはこれまで接触してきた、あるいは現在接しているメディアや情報が大きく異なっており、それに伴って広告の受容性も大きく異なっている。

要するに、「PUFFY世代」がこのCMに対して違和感を覚える部分は、むしろ若者世代向けにしっかりチューニングされている部分である――と言えるだろう。

「全世代にウケる広告」が難しくなった時代

筆者が大学教員になった当初は、「いまの大学生は、自分とは異なる種類の生き物」と思ったが、よく話してみると、意外に彼らは過去のトレンドも知っていて、共通の話題もあり、十分に会話が成立する余地もあることに気付かされた。ところが、そこから踏み込んでいくと、共通の話題でも、理解や認識が異なっていて、改めて世代ギャップに気付かされることになる。

それは、世代(あるいは個人)によって、

1.接触している「メディア」が異なる

2.異なった文化的、社会的背景を背負って生きてきた

ということに起因している。

こうした中、マクドナルドのような、全世代の消費者を顧客とする企業が、効果的なマーケティング戦略、特に広告・プロモーション戦略を立案することは、難しくなってきている。

過去のマクドナルドの広告展開を見ると、試行錯誤の様子がうかがえる。

2021年には、チキンタツタ30周年でアニメ『タッチ』とコラボレーションを行い、「タッチ世代」を中心に好評を博している(参考記事:アニメ「タッチ」のCM起用が効果抜群だったワケ)。

ただし、若者に取ってみれば、『タッチ』は少し縁遠いコンテンツだったのではないかと思える。

2022年には、同じチキンタツタが『シン・ウルトラマン』公開に合わせて、「ウルトラマン」とコラボしている。大ヒットした映画ではあるが、同じ庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』、『シン・エヴァンゲリオン』と比べると興行収入は伸び悩んでおり、広い世代、特に若者層への広がりという点においても、課題が残されたのではないかと思われる。


女優の宮崎美子さんを起用したCM(画像:マクドナルドの公式YouTubeより)

チキンタツタ以外では、銀座の1号店オープンから50周年を記念した2021年のTVCM「僕がここにいる理由」は、女優の宮崎美子さんが少女時代と現在の2役を演じて話題になったが、ここでは祖母と孫をテーマにしている。また、2023年1月24日から放映されている朝マックのCM「旅の前の朝マック」は親子をテーマにしている。

実際、広い世代を狙う場合、「親子」をターゲットとして設定するのは、手堅いやり方であり、他社の広告にもこのような事例は多数見られる。

こうした経緯から推測するに、今回のCMは、Z世代をメインターゲットに、その親世代をサブターゲットにしつつ、親子はテーマとしては前面に打ち出さず、両者に親和性の高い90年代の音楽をオマージュして制作されたものだと思われる。

「アジアのジューシー」のCMがはたして成功だったのか否かは、現状では何とも言えないが、SNS上では、実際に食べた人たちからの「おいしかった」という感想が多数投稿されはじめているのを見ると、少なくともマーケティング戦略は失敗とは言えないように思える。

商品力は高いようだから、広告の役割として、人々の注意を引きつけ、一度食べてみてもらうことの後押しとなっていれば十分ではないだろうか。

いずれにしても、「アジアのジューシー」CMのネット上のざわつきを見ていると、全世代にウケる広告、全世代から共感される広告をつくることが難しくなっていることを、改めて認識させられる。

(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)