空前のゴルフブームが到来している今、ゴルフは男女の出会いの場としても有効だ。

30歳を目前に、いい出会いがなく焦りを感じていた森脇那月(29)も、ゴルフを始めたが…。

東京のゴルフコミュニティーに、ヒエラルキーが存在することを知る。

同じ思惑を抱く女性たちが集うこのコミュニティーで、那月は最後まで勝ち抜き、理想の男性を捕まえることはできるのか―。

◆これまでのあらすじ

那月(29)は、進展がなく少し距離を置いていた大輝と思い切って会うことを決断。そして、予期せぬ形で家に来ないかと誘われ…。

▶前回:「このあと家来る?」付き合う前に彼の家に誘われ、ついていったら…




Vol.7 答えの出ないふたりの関係


『大輝:気をつけて帰ってね。家に着いたら連絡して』

大輝さんの家に泊まった翌朝。

彼の家を出た私は、麻布十番駅のホームで彼からのメッセージを受け取った。

昨晩の出来事を思い出しながら、どこかすっきりしない自分の気持ちと向き合う。

― これは、進展したのかな…?

昨日は、恵比寿のバーで大輝さんと合流し、そのあと初めて大輝さんの家に誘われた。

ふたりでタクシーに乗り込み、到着したのは麻布十番にあるおしゃれなマンションだ。

高そうな木製家具でまとめたられた2LDKのマンションは、余計な物がなく、整理整頓されている。

ワインセラーからワインを選び、ふたりで乾杯して、連絡を取っていない間に起こった出来事を語り明かした。

些細な出来事も、彼が話せば、どれも興味深く感じた。

大輝さんのことをさらに知ることができた気がする。

キスもしたし、同じベッドで眠った。

ずっと求めていた、ふたりだけの時間だった。

だというのに、“私は彼に相応しいのだろうか?”そう思っていた不安は、思いのほか解消されていない。

― 大輝さんとの今の関係性に名前を付けるとしたら、なんなのかな…。

付き合おうだとか、好きだとか、その答えがわかるような彼からの言葉はなかった。

思い描いてた関係性に、一歩近づいたような気がするのに、不思議と私の心は晴れていない。




家に戻ったあと、午後から気分転換がてら『ヴィクトリアゴルフ 青山店』に出かけた。




奮発して少しお高いゴルフボールでも買おうかと吟味していると、エリナからの連絡だ。

『エリナ:知り合いからオファーあって、那月ちゃん条件揃っていたのでお誘いです。興味あるかな?』

添付されたファイルを開くと、BSで放送されているゴルフ番組『ゴルフ女子 シンデレラファイト』の出演オファーだった。

タレントやモデルに加え、インスタグラマーたちが参加し、ペア戦でゴルフ勝負をするという番組だ。

出演にあたり、年齢やインスタのフォロワー数、ゴルフのベストスコアなどが条件として提示されているらしい。

番組を見たことはないが、フォローしているゴルフ女子のインスタで、出演報告をしている投稿は何度か目にしたことがある。

出演者のゴルフ女子の質が高い印象があり、かつエリナの紹介ということで、安心して参加できる嬉しいオファーだ。

興味がある旨を、すぐにエリナに返信。手に取って購入するか悩んだゴルフボールを、思い切って購入することにした。



エリナから連絡をもらった1週間後、いよいよ収録の日だ。

もやもやとした感情を押さえつけようと、今日に向けて、仕事後に練習に打ち込んできた。

今日の舞台は茨城県『那珂カントリー俱楽部』。

ゴルフ場に到着し受付を済ませると、スタッフらしき人に声を掛けられる。

今日の流れを簡単に説明され、ペア戦で組むメンバー表が配られた。

― 聡子さん…知ってる…!

今日ペアを組むことになった聡子さんは、実はインスタもフォローしている。

比較的派手な印象のエリナとは対照的に、落ち着いた美人、という感じだ。

浮かれた気持ちのままスタッフにアテンドされ、手配されたヘアメイクさんにメイクと髪を簡単に整えてもらう。

準備を済ませ、打ち合わせ会場となるコンペルームに向かうと、番組スタッフと出演者たちが一堂に会しており、和やかな雰囲気だ。

指定された席に座り、ディレクターの男性の進行説明を聞きつつ、今日参加するメンバーを見渡す。

― こんなテレビ映えしそうな美人たちの中に入るの、ちょっと緊張するな…。

「聡子ちゃん、ベテランとしてフォローよろしく!」

段取りの説明が終わると、最後にディレクターが聡子さんに声を掛ける。

― ディレクターの人と知り合いなのかな?

「那月です。不慣れなので緊張してますが…今日はよろしくお願いします」

「よろしくね!わからないことがあったら気軽に声掛けてくださいね」

聡子さんは既にこの番組に何度も出演しているらしい。ディレクターが親しげに話しかけていたのも頷ける。

そして番組出演に慣れていない私とペアを組ませたのも、フォローの意図だろう。




聡子さんはテレビ局に勤めていると聞いた。撮影が始まってからも、慣れた様子でスタッフとにこやかに話しながら、全体の進行を回していく。さすがだ。

― キレイで愛想がよくて、こういう人が現場で好かれるんだろうな。

私にはないものを彼女は持っている。素直にそう思えて、思わず見惚れてしまっていた。


聡子さんともっと話をしてみたくて、収録の合間のチャンスを見つけて声を掛ける。




「聡子さんは何度もこの番組に出演されているんですよね?すごいです」

「出演しているうちにスタッフさんたちとも仲良くなって、やりやすいっていうだけよ?」

「私がスタッフだったら、聡子さんを何度も呼びたいって思います!」

「…それは嬉しい言葉だけど、どうしてそう思うの?」

「美人でゴルフもうまくて、なにより現場の空気を聡子さんがよくしてくれるって思うんです。私も、聡子さんとペアになれて、安心して収録できていますし」

嘘偽りなく褒めたつもりだったのだが、聡子さんは少し困ったような表情だった。

「私、そんなによくできた人間じゃないのよ。そう言ってくれるのは嬉しいけどね」

こんなに完璧な女性だったら、もっと自信を持ってもいいと思うのに、彼女は過剰に謙遜をするので、少しの違和感を覚えた。

収録は順調に進み、聡子さんの82という上出来のスコアに頼る形で、私たちのチームが見事優勝を果たした。

楽しかった今日のことを伝えたくて、大輝さんに食事のお誘いの連絡を入れた。



収録から1週間後。

大輝さんとふたりで、15時の開店前に集合して並び、無事一回転目で入店した代々木公園の『アヒルストア』にいた。

「那月ちゃん、この間『シンデレラファイト』収録してきたんだってね?」

乾杯を終えたところで、大輝さんに問われる。

「あれ、私その話してた?」

「あの番組、僕の会社も協賛してるんだよ」

「えっそうなの!?」

大輝さんが会社を経営していることは知っていたし、趣味が高じてゴルフ関係の仕事にも携わっているとは聞いていた。

が、まさかあの番組に協賛していたとは全く知らなかった。

このあと番組を彼に見られるかと思うと、少し照れくささを感じたが、出演したことを知ってくれていたという事実は素直に嬉しかった。

「出演してる女性陣もみんなステキで、仲良くなったよ」

「あの番組、時々タレントも出たりするし、BSのわりに結構人気なんだよ。出演者もちゃんと紹介とかで選んでるみたいだしね」

出演者は、私を含め6人。それぞれ平日は会社員として働き、週末にゴルフをしているバリキャリ女子たちだ。

収録後に連絡先を交換して、早速ゴルフ情報をシェアしたり、交流を始めた。近々食事に行こうなんて話も挙がっている。




「オンエアされたら、チェックするよ」

「なんだか恥ずかしいけど…感想教えてね」

なにを頼もうかとメニューをのぞき込んでいる大輝さんを横目に見る。

― 私たちって付き合ってるってことでいいのかな?…なんて、聞いていいのかな…。

大輝さんの家にお泊まりしてから、私は前よりも不安が渦巻いている。

「大輝さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

そう切り出そうとしたところで、テーブルの上に伏せてあったスマホが鳴る。

「那月ちゃんのスマホ鳴ってるよ。確認したら?」

「…あ、うん」

大輝さんにはぐらかされた気もしたが、言われるがまま通知を確認する。

『聡子:恋愛相談あり!都合が合えば、週末みんなでアフタヌーンティーでもどう?』

先日の出演者メンバーのグループLINEに、聡子さんからの連絡が届く。

― あんな完璧女子の聡子さんって、いったいどんな人とお付き合いしてるんだろう…。

言葉を遮られたことで、なんとなく先ほどの話題を大輝さんに振りずらい空気になってしまった。

もう一度、問いかけようとしたが、私は言葉を飲みこんだ。

▶前回:「このあと家来る?」付き合う前に彼の家に誘われ、ついていったら…

▶1話目はこちら:「イイ男がいない」と嘆く29歳女が見つけた、最高の出会いの場とは

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全く気づけなかった衝撃的な事実が判明。そして、那月が思わず電話をかけたのは…?