インフレは収まり、景気後退は回避できるのか?【2023年のマーケット展望 前編】(児山将)

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世界的な高インフレにともない、世界各国ではインフレ退治の金融引き締めがおこなわれた2022年。年が明けて、2023年の株式市場の動向はどうなっていくのか?

メディアディレクター、フリーランス投資家として活躍する児山将さんが、2023年のマーケット展望を解説。今回の寄稿記事【前編】では、世界のインフレ動向と商品市場動向、米国製造業・住宅市況をテーマに取り上げる。

周回遅れでインフレの波が押し寄せる日本、さらなるインフレに苦しむ?

2022年は、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱と世界的な金融緩和、そして、ロシアによるウクライナ侵攻がインフレ率を押し上げる結果となりました。2022年後半からは、各国中央銀行による金融引き締め策の影響もあってか、徐々に落ち着きを見せています。このままインフレが低下していけば、株式市場には大きなプラスになりそうです。

米連邦準備制度理事会(FRB)による、2023年の個人支出見通しは5.5〜5.8%となっており、現在の6%台からやや低下予想となっています。米消費者物価指数の前月比では、0.0〜0.3%程度の伸びとなってきており、このまま推移すれば年間2〜3%の正常値に落ち着きそうです。

米国の物価の大部分を占める商品価格と住宅価格も落ち着いています。

原油価格は7月に100ドルを付けて以降、低下し続けており、80ドル割れを見る日も多くなってきました。OPECプラスの減産報道でも大きく値を上げなかったことは、市場参加者に安心をもたらしたことでしょう。

米住宅価格は、夏以降、低下の一途です。主要都市の住宅価格指数であるS&Pケース・シラーでは、10月の数値は前年比で8.6%上昇。ただし、前月比ではマイナス0.5%となっており、4カ月連続の低下となっています。住宅ローン金利の高止まりから購買意欲が落ちており、今後も低調な推移が予想されます。

値が高かった食料品価格も、前月比で10月に0.5%から11月は0.3%と伸びが鈍化しており、24カ月連続のプラスながらも、十分に低下しています。

一方で、日本は、物価上昇がいよいよ鮮明になってきています。11月の消費者物価指数は、前年同月比で3.7%上昇。これは、第2次オイルショックが起きた1981年12月の4.0%以来となる40年11カ月ぶりの伸び率です。

米国は2021年に3%に乗ってから、翌月に4%に。その後は、5カ月連続5%台で推移した後に、半年間で8%台まで駆け上がりました。単純に物価の上昇率の推移を見ると、日本も米国と同じインフレの道をたどる可能性がないともいえません。事実、これまで物価が上がらなかった日本では信じられないほど、日用品をはじめとして、ありとあらゆるものが上昇していることが分かります。

2023年は、世界に周回遅れでインフレの波が押し寄せてきている日本は、さらなるインフレに苦しむ可能性がありそうです。

世界的景気減速の可能性高まる 米国経済の展望、住宅市場&自動車需要に注目すると...

物価を抑えるために、急激に金融引き締めを行ってきた影響として現れているのが、景気減速(リセッション)です。英国中央銀行は、2022年前半からすでに2023年の景気減速を予想しています。また、米FRBによる2023年の経済見通しも、9月に1.2%だったものが、12月には0.5%に低下させました。

たとえば、米大手企業のナイキなどのeコマースの売り上げを見ると、好調なところも多いものの、物流大手企業の北米市場の減少幅は拡大しており、全体的には2023年前半も需要の減速が続く可能性がありそうです。

ここからは、米景気を下支えとなり、GDPの多くを占める住宅市場を見ていきましょう。

米住宅指標で最大の中古住宅販売件数は409万件となっており、新型コロナが猛威を振るった2020年の最悪期と面合わせしています。

また、住宅着工、許可件数は前月から低下し続けており、全米の戸建て新築住宅販売のセンチメント(景況感)を示す住宅市場指数は12月で12カ月連続の低下。2020年4月以来の水準に悪化しています。

少しだけ明るい兆しとしては、先行性があるとされる米新築住宅販売は8月に底を打っています。足元の住宅ローン金利は、徐々に低下していることから、春ごろには米景気は上向いていくかもしれません。

それと、住宅に次いで大きな個人消費の自動車需要を見てみると、テスラが値引きしても売れないなど、新車の需要の落ち込みが鮮明です。大手企業の9-11月の販売台数は、前年比で20%以上低下しており、こちらも目先の状況としては厳しそうです。

アメリカ頼みの日本経済も厳しく、株価も軟調に推移か

グローバルに広げると、IMFによる2023年の世界経済の成長率予想(※)は、2022年の3.2%から2.7%に引き下げられており、世界GDPの3分の1以上を占める国々で、今年から来年にかけて経済の縮小が見込まれています。

さらに、12月9日にIMFゲオルギエワ専務理事は「世界成長率の見通しを一段と下方修正する可能性が高いことが指標に示されている」と発言しており、見通しは明るくなさそうです。

総じてアメリカ頼みの日本経済も厳しく、株価も軟調に推移しそうです。

ひとつ明るい部分は、OECD(経済協力開発機構)の経済見通しでは、日本は1.8%の成長率と米国よりも高い見通しとなっています。また、世界経済の大きなエンジンである中国はコロナ規制を緩和したことにより、先行き見通しが明るくなるかもしれません。

そして、厳しい米国も、大統領選挙の前年の株価は、4年サイクルでは最高のパフォーマンスであることが分かっています。

【後編】では、米国大統領選挙の前年の米国株動向と、突如として金融政策を変更した日銀に関して見通していきます。(児山将)

(※)世界経済見通し (WEO) 2022年10月 https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2022/10/11/world-economic-outlook-october-2022

<米国大統領選挙前年は株高のアノマリーは、2023年も当てはまるのか?【2023年のマーケット展望 後編】(児山将)>に続きます。

【プロフィール】児山 将(こやま・しょう)2009年の大学4年時にFXをはじめ、一度は飲食店の店長として働くも相場に関りたく金融メディア大手に就職。記事執筆とサイトのディレクションを行う。FX以外にも、株、指数、オプション、商品、仮想通貨など多岐に渡る商品を取引。現在はフリーランスとしてサイト制作やコンテンツ制作を行いながら個人投資家として活動する。・Twitter:児山 将 @goahead5055・初心者でもできる、ビットコイン・イーサリアム投資情報サイト:https://btc-eth.jp/