19歳上で娘もいるけど、貢いでくれる開業医の彼を手放したくない…！そのとき女がとった強硬手段とは
「結婚しない男女が増えている」と言われる昨今。しかし東京の婚姻率は人口1,000人当たり5.5%で、なんと全国1位を誇っている。（※『令和2年 東京都人口動態統計年報』）
特に「東京都区部」と呼ばれる東京23区は、その中枢を担っているのだ。
ただ、結婚すればそれだけで幸せなのだろうか？
東京23区内は、エリアによって生活している人たちの特徴が全く異なり、価値観や悩みも違う。
それぞれの区に生息する夫婦が抱える、苦悩や問題とは…？
乾いた関係の新宿区夫婦／あゆみ（28）の孤独
東京の夜は、暗くならない。いつもどこかでネオンが光っている。
21階の部屋から見える新宿の夜景を、ワイングラス片手にぼんやり眺める。すると次第に雲がかかってきた。
「はぁ。お風呂でも入ろうかな」
まだ21時だというのに特にやることもなく暇を持て余している私は、長めのお風呂タイムに入る。
夫の純太さんはまだ帰ってこない。明日は休診日なので、今日の帰宅は深夜になるだろう。
もうすぐ結婚して2年。新宿区にある、このタワーマンションに引っ越してきたあの日。部屋から見えた、ビル群を真っ赤に染める夕焼けを忘れはしないと思う。
でも最近は、そんな景色も見飽きてしまった。
「あ〜あ。子どもでも、できないかな…」
そうつぶやきながら、私は湯船に深く沈み込んだ。
夫と出会ったのは、マッチングアプリだった。
当時26歳だった私は、45歳独身で開業医という彼の肩書に惹かれたのは間違いない。でも実際に会ってみると物静かで大人な雰囲気が素敵で、5回ほどデートをして付き合うことになった。
「あゆみちゃん、干支が一回り以上違うけどいいの？」
「もちろん。そんなの関係ないですから」
そう言ったのは、私だった。
純太さんといると、同世代の男性と一緒にいても見られない景色をたくさん見ることができた。予約の取れない『紀茂登』や『SECRET』にも行ける。
誕生日には、ずっと欲しかったシャネルのバッグも貰った。
私はこの魅力的な状況が、若いときに享受できる一瞬の甘い蜜ではなく、ずっと続いてほしいと願った。それならば結婚するしかないと思ったのだ。
それに美容クリニックで受付をしていた私には将来の保証もなく、とにかく結婚がしたかったのである。
でもバツイチだった純太さんには、結婚願望がなかった。加えて前妻との間に中学生になる娘がいるとかで、子どもがほしいとも思っていない。
医者なんて、一生安泰な職業。下手に起業するよりも、絶対に安心な仕事だ。
だから私は、ひたすら彼に結婚を迫った。
「純太さん。私、結婚がしたいの」
「あゆみちゃん…。僕は一度失敗してるから、結婚する気がないんだよね」
「知ってる。でも関係ない。純太さんだって、わかってるでしょ？私、19も年下だよ。こんなに若くて可愛い子と付き合えるなんてこと、もう二度とないんじゃない？」
純太さんが女性に対して弱いことは、付き合い始めてからなんとなくわかっていた。だからここは強気で攻めるしかないと思ったのだ。
「結婚してほしいの。純太さん」
結局、執念が勝ったのかなんなのか…。
ちょうど交際1年の記念日にパーク ハイアット 東京の『ニューヨーク グリル』で、真っ赤なバラとともに1.5カラットの指輪を彼から貰った。
― これで、ずっと安定した生活を送れるわ。
そして結婚後。神楽坂にある家賃65万円、100平米のタワマンへ引っ越してきたあの日。
私の心は、かつてないほど高鳴った。
でも結婚生活は、想像していたものとは違っていた。
結婚前の純太さんはたくさんプレゼントをくれたのに、結婚後は急に財布の紐が固くなったのだ。
「純太さん、来月の15日は私たちの結婚半年記念日だよ？」
「半年って…」
「何かプレゼントはないの？」
「どこかいいところへ食事に行こう」
食事は行くに決まっている。だけど…。
私はもっと、インスタで見るようなリッチな奥様みたいな暮らしができると思っていたのだ。
1個100万超えのバッグやハイブランドのゴージャスなジェエリーを、毎月夫からプレゼントされるような生活。
「ねえ純太さん…。私のこと、好きじゃないの？」
「…僕があゆみちゃんのことを大事にしてるって、わかってるでしょ？それにお金は、そんな湯水のごとく湧いてこないからね？」
「そうだよね。わかってる」
そうは言うものの、納得のできない自分がいる。でも結婚を機に仕事を辞めた私は、彼と離婚すると文字通り“一文なし”になってしまう。
それに純太さんがいなければ、自分には何もないことも知っている。だから私は彼に縋る以外、道がない。
もちろん私は、純太さんのことが好きだった。でも私が歳を取っていくとともに、彼も歳を取っていく。
一緒のベッドで寝ているといびきもうるさい。加齢臭はしないけれど、させないようにボディソープなどにはかなりこだわっている。
「純太さんは、私の何が好きなの？若さ以外で」
「あゆみちゃんのまっすぐなところかな。あと可愛らしいところ。優しいところ」
大事にしてくれているのは、知っている。
でも休診日前日になると飲み歩いて、帰宅が遅い純太さんの帰りを待っている間、自分が本当に無価値な人間のように思えて怖くなることがあった。
「ほかに誰か女ができたらどうしよう。それが私より若い子だったら…」
そんなときに家から新宿の夜景を見ると、心がさらに虚しくなっていく。
無数に光る、ビル群の煌めき。まばゆい光にそっと窓越しに触れてみると、薬指の結婚指輪が色褪せて見えるのだった。
そんななか。私は突然、スニーカーを履いて新宿御苑まで足を延ばすことにした。窓から見える景色が12月の澄んだ空気と相まって、綺麗に見えたからだと思う。
純太さんと結婚してから、5分以上の距離は基本的にタクシー移動だ。なので歩くこと自体、かなり久しぶりな気もした。
そもそも、自然にはあまり興味がない私。だから同じ新宿区内にあるというのに、引っ越してきてから新宿御苑に来ることなんてなかった。
でも平日だというのに、敷地内には結構な人がいる。
新米ママらしき、幼い子どもを広場で遊ばせている人。仕事中にサボっていると思われる、スーツ姿の男性。幸せそうな学生カップル…。
そんな人たちを見ながら散歩しつつ、新鮮な空気を吸っているうちに、体の中に溜まっていた“東京の毒素”のようなものが排出されていく。
「新宿って、面白いな…」
新宿は、不思議な区だ。ギラついたイメージのある歌舞伎町やゴールデン街がある一方で、四ツ谷駅から御苑にかけては緑も多く、閑静な住宅街もある。
大人の街・神楽坂は新宿が誇るエリアだ。それに早稲田大学だってあるし、新大久保もある。
魅力的なスポットが点在しているけれど、それぞれの個性が豊かであまりまとまりがない。
でもそれが、この街の良さなのかもしれない。
みんないい意味で別々の方向を向いているけど、それでいい。だってここは大都会・東京だ。見えもしない敵に怯える必要もないし、自分が選んだ道を信じて突き進めばいいから。
「私は、何を怖がっているんだろう…」
ネイルをオフした手を、思いっきり伸ばしてみる。指の隙間から、太陽の光がこぼれ落ちてきた。
別に何もない自分を卑下する必要はない。ブランド物で固めなくても、存在価値はある。それに純太さんが妻として私を選んでくれたこと。それだけで、十分なのかもしれない…。
今日も日が落ちて、夜になると街が輝きだす。その灯りだって、誰かが一生懸命生きている証なのだろう。
そんなことを思いながら、私は神楽坂のマンションへと戻った。
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幸福度が高い！？文京区夫婦
