世界から見た日本経済の今後について考えてみましょう(写真:kai/PIXTA)

「老後2000万円問題」「社会保障費の増大」「円安」「高校での金融教育の必修化」……不安にさせる経済トピックに欠かない今日この頃ですが、とはいえ、今まで経済について目を背けていた人にとっては「よくわからないだらけ」なのも事実でしょう。

ではまず最初に知るべき、経済トピックスとは? 経済キャスター・ラジオDJで、音声プラットフォーム・Voicyではフォロワー8.3万人の配信者でもあるDJ Nobbyさんの著書『実は大人も知らないことだらけ 経済がわかれば最強!』から一部抜粋・再構成してお届けします。

世界から見た日本の状況を把握する指標の1つであるGDP(国内総生産)。1968年〜2009年まで日本はアメリカに次いで世界第2位だったものの、2010年には中国に抜かれ第3位となりました。さらに、2022年にはウクライナ情勢の悪化や円安の影響などによりマイナス成長に陥る状態となり、4位のドイツとの差はわずか17%となりました。

米国の金融政策やロシア経済の関係、さらに中国のロックダウンの影響など、世界経済の動向が日本に大きな影響を与えています。世界から見た日本経済の今後について考えてみましょう。

世界から見た日本は豊かな国? それとも…

「日本=貧困」といわれても、ピンとこない人も多いと思います。ですが、実は2018年の時点ですでに国内の18歳未満の子どもの貧困率は15.7%を記録。これは、G7で最悪の値です。また、母子家庭世帯の約半数が貧困世帯、60歳以上高齢者の約20%が貧困状態というデータもあります。

国の経済力を評価する指標の1つとして名目GDP(国内総生産)があります。IMF(国際通貨基金)による2020年のGDPランキングでは日本は世界3位。これだけをみると日本は経済大国に見えます。

しかし、このGDPは一定期間内に国内で生み出された付加価値の総額で、人口の多さに影響されます。「日本は小さな島国だから人口は少ない」と思っている人もいるかもしれませんが、実は世界38の先進諸国で構成されるOECD(経済協力開発機構)の中で、アメリカに次いで2番目に多い人口を擁しています。

そこで、国の豊かさを比較する目安として用いられるのが、GDPを人口で割った「一人当たりGDP」です。国民一人当たりの平均的な経済力・生活水準を示すものとされており、2021年のランキングで日本は世界28位となっています。2000年には世界2位まで上昇していたことを考えると大きく後退していると言えます。

その要因として挙げられるのが、産業改革の遅れ、国内購買力の低下、労働賃金の低さの3つです。

まず、産業改革の遅れについてですが、例えばかつて日本が世界をリードしていた携帯電話などの通信機器の分野では中国や台湾にその座を奪われ、もはや日本がシェアを奪還するのは難しい状態になっています。それに付随して半導体製造の分野でも、台湾や韓国が大きくリードしています。

一方自動車産業はまだ上位をキープしているものの、電気自動車への転換が急速に進む中で、その座も危うい状況です。

さらに、原油価格の高騰でクローズアップされることとなった再生可能エネルギーの開発においても、欧米や中国から大幅な遅れをとっており、「もはや日本は先進国と言えないのでは」という意見も目にするようになりました。

購買力の低下がデフレを生む負のループ

国別の経済状況をより詳細に把握する指標の1つとして「一人当たり購買力平価GDP」があります。これは各国で異なる物価水準の差を修正して、より実質的なGDPの比較が可能になるというもの。

IMF(国際通貨基金)が公表した2021年の国別ランキングを見ると、日本は36位。アメリカは9位、ドイツは20位など、他の先進国と比較すると日本は下位にある一方で、名目GDPでは日本を上回る中国は74位。単純なGDPの比較からはわからなかった順位が見えてきます。

バブル崩壊後の1990年以降、日本では「価格破壊」という言葉が浸透するなど、経済成長が低迷していきました。「失われた30年」とも呼ばれる1990年〜2020年の物価上昇率を見ても日本の物価はほぼ横ばいとなっています。

物価が上がらずいろいろなものが安く購入できるのは、消費者にとって大きなメリットにも見えますが、物価が上昇しない分、企業は利益を削らざるを得ないため、賃金も上がりません。賃金が上がらなければ、人々はより安いものを求める、さらにそれが賃金上昇を阻む、という悪い循環に陥ってしまったのです。これを「デフレスパイラル」と呼びます。

そして、日本人は貯蓄が大好き。給料が上がらない中で将来への不安を解消するためにお金を貯める人が増え、消費に回るお金がさらに少なくなってしまいました。

特に60歳以上の貯蓄額は高く、「貯蓄過剰」とも言われています。

いまや韓国に抜かれている、日本人の平均年収

OECD(経済協力開発機構)が公表する世界の平均賃金データによると、2021年の日本の平均年収は433万円でOECD加盟国35か国中22位。日本の平均年収は直近20年で1%未満の伸びにとどまった一方で、お隣の韓国は40%を超える伸びを示していて、OECD加盟国の中では19位。日本はいつの間にか韓国に抜かれてしまっているのです。


日本と韓国とでなぜこのような差ができてしまったのでしょうか。その要因として独特の雇用慣習が挙げられます。

日本の労働基準法の下では正社員を解雇したり賃金を下げたりすることが難しいため、企業は好業績を上げたとしても基本給にはなかなか反映せず、賞与など一時金の形で支給することが多くなりました。また雇われる側も給与が増えることよりも安定した雇用を重視する傾向が強まり、ある意味では両者のニーズがマッチしたとも言えます。

また、バブル崩壊やリーマン・ショックなどの経済危機を経験し、企業はできるだけ多くの現金(内部留保)を手元に置いておくようになりました。2020年度の資本金10億円以上の大企業の内部留保は計466.8兆円となり、過去最高額を更新しています。一方韓国企業は業績向上の成果を労働者に積極的に還元していることもあり、平均年収が大きく増加したと考えられます。

(DJ Nobby(福永信彦) : 経済キャスター・ラジオDJ)