制御困難な米国のインフレと、急失速する中国経済。両大国発の経済危機が日本に襲いかかる(デザイン:熊谷直美)

世界各国で大規模な金融緩和と財政出動が行われるなど、異例の政府対応が展開されたコロナ禍。そのスムーズな手仕舞いに失敗し、世界経済は今、危機の淵に立たされている。

波乱の中心は、世界の2大経済大国であるアメリカと中国だ。

10月24日発売の『週刊東洋経済』では、「米中大動乱」を特集。急変する両大国の政治・経済の最前線を追っている。

アメリカは現在、前年同期比8%強まで悪化した歴史的な物価高が収束に向かうか、拡大するかの瀬戸際にある。コロナ禍による供給制約や資源高で始まったインフレは、労働需給逼迫による賃金上昇の加速に発展し賃金・物価スパイラルによる「ホームメイド・インフレ」へ移行しかねない。そうなれば、物価高騰に歯止めがかからなくなる。

アメリカは他国を気遣う余裕がない


そのため、FRB(米連邦準備制度理事会)は異例の大幅利上げを繰り返し、意図的に景気を潰しにいっている。

11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、4会合連続となる0.75%の利上げ実施が濃厚。その後の利上げを含め、2023年第1四半期には政策金利は5%へ接近する見込みだ。わずか1年でゼロ%から5%へ跳ね上がるのは歴史的にもまれだ。

基軸通貨ドルの金利急上昇は、各国通貨の下落など国際金融市場の動揺を引き起こすが、今のアメリカは自国のインフレ退治に精いっぱいで他国を気遣う余裕がない。




イギリスでは9月、ポンド急落や国債価格暴落(金利は上昇)が起きた。下図のようにドル独歩高で各国通貨は大きく下落しており、輸入物価上昇によるインフレに対抗するため、景気を犠牲にした利上げが世界的に進む(日本と中国を除く)。

コロナ禍の対応で各国の政府債務は膨張したため、財政や経常収支が脆弱な新興国やヨーロッパの一部では、イギリスのように国債売りが起きかねない。となれば、イギリス政府が大減税計画の多くを撤回したように、財政引き締めの動きが出てきそうだ。それは各国で政治的不安定を誘発する。


景気後退は必至

同時に株式市場のボラティリティー(変動性)も高まりつつある。ファンドや金融機関の信用不安リスクは高まり、どこから金融危機の芽が出てくるか予断を許さない。

世界経済に目を転じても、今後、景気後退に突入していくのは必至だ。その際、とくにリーマンショック後に世界経済を下支えした中国の変調が注目される。


ゼロコロナ政策への固執により、各地でロックダウン(都市封鎖)が行われ、不動産バブル崩壊の危機にも直面。中国政府は2022年の経済成長率目標を5.5%としていたが、IMF(国際通貨基金)の最新の予測では3.2%成長と失速は明らか。中国という牽引役の不在で、今後の世界的景気後退は大きな不況へと広がりかねない。

そこへ追い打ちをかけるのが、米中対立など政治的混乱だ。11月のアメリカの中間選挙でバイデン大統領の民主党は下院で敗北する公算が大きい。その結果、法案を通せず内政は停滞するため、バイデン政権は対中強硬的な外交政策へ全面シフトするとみられている。


激化する社会の分断

さらに2024年の大統領選挙では、共和党候補としてトランプ氏が表舞台に戻ってくる可能性が高い。社会の分断は一段と激化し、西側諸国結束の礎である民主主義が危機に瀕する事態に発展しかねない。

中国では10月の共産党大会で、習近平国家主席が3期目に入る見通しだ。習氏は党大会直前の9月にウズベキスタンで開かれた上海協力機構(SCO)の首脳会議に出席、新興国との結び付きを強める「グローバルサウス」戦略を鮮明にした。アメリカの弱体化が進み、西側諸国の結束が崩れれば、台湾問題などで隙を突いた外交・安全保障戦略を推し進める可能性もある。

来る米中動乱に向け、日本の備えは十分だろうか。


(野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト)