大学受験は「人生をやり直す方法」のひとつ…私が不登校やひきこもりの人に学び直しを勧めるワケ
※本稿は、安田祐輔『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■不登校やひきこもりになっても大学進学は可能
不登校やひきこもり、中退した人のための個別指導塾を経営していると、本人・保護者から「これまで勉強してきていなくても、大学に進学することはできますか」といった相談が多く寄せられる。
勉強していなかった期間が長ければ長いほど、「勉強習慣を身につけられるのか」「今からでも短期間で学び直すことができるのか」といった不安が出てくるため、悩みは尽きない。
そうした悩みを抱く人に対して僕が必ず伝えていることは、「自分に合った勉強法を見つけ、正しく努力をすれば、確実に学び直しはできる」ということだ。
なぜ断言できるのか。
それは、実は僕自身も、まったく勉強ができない状態から大学進学を叶えた経験があるからだ。そしてその経験をもとに、現在は、不登校やひきこもり、中退を経験した人たちの「学び直し」を学力面・メンタル面の両側からサポートし、多くの生徒たちを無事に大学に送り出してきたからだ。
■学校にも家庭にも居場所がなかった
僕は幼少期から発達障害の特性によって人とコミュニケーションを取るのが苦手で、クラスに馴染むことができずによくいじめられていた。両親が不仲なことから家庭の居心地も悪く、どこにも居場所がなかった。
家族から離れるために全寮制の私立中学に進学したものの、またしてもクラスメイトや先輩にいじめられて不登校になり、公立中学へ転校した。家庭にも学校にも居場所がないまま高校生になった僕は、夜の街を彷徨(さまよ)う生活を送るようになった。
「僕の居場所はどこにもないし、誰にも必要とされていない。僕はこの世界にいなくても良い人間なんだ。」
そんな僕が勉強に集中する余裕があるわけもなく、また、勉強する意味もわからず、ますます苦手意識が強まるばかりだった。
■「人生を変えたい」と大学進学を目指し猛勉強
この状況が一変するきっかけは、大学に進学するために猛勉強を開始したことだ。
学びたいことが見つかったこと、そして何より自分の人生を変えたいと思ったことから、大学進学を志したのだ。2年間の浪人生活を経て、なんとか1校だけ受かった大学は、さまざまな人との出会いや経験に溢れていた。多くの人の優しさに触れ、僕は「生きていていいのだ」と実感できるようになった。10代の頃は苦手だった勉強についても、入試に向けて塾で受験勉強を頑張ったことで、少しずつ「勉強のやり方」がわかってきた。
「自分に合う勉強法を知れば、全く勉強をしてこなかった不良の僕でも学び直しはできるのだ。」
無事に合格した時、このように思ったことを鮮明に覚えている。
■学び直し成功の鍵は「自分に合う勉強法」を知ること
不登校からの学び直しをするにあたって大事なことの一つは、「自分に合う勉強法を知り、短期間で学び直しの範囲をキャッチアップすること」だ。
「自分に合う勉強法」というのは、自分の生活リズムや特性(※1)にあった勉強法のことを指す。
例えば、「昼夜逆転はすぐに直さなくてもいい」と僕は考えている。不登校の子を持つ保護者のなかには、「せっかく学び直しを始めるのなら、生活リズムも直し、朝から勉強をする生活習慣を身につけた方がいいのではないか?」と、本人以上に思っている人も多い。
しかし、勉強習慣をつけるために大事なのは、本人が続けやすいスタイルで始めることだ。
そもそも、昼夜逆転している生徒の場合は、少なくとも学び直し開始時点においては夜に学習したほうがずっと活動しやすく、頭に入りやすい可能性も高い。だとすれば、「あえて夜に勉強する」という選択もアリである。
実際には、入試の直前には試験時間に合わせて生活スタイルを変えていく必要はあるものの、開始時点(=最も挫折をしやすい時点)においてはそれまでの生活を変えずにできる方がずっと継続しやすいだろう。
■長時間じっとするのが苦手な僕の勉強法
また、「自分の特性に合わせた勉強方法」を見つけることで、効率良く勉強を進めやすくなる。
例えば、僕の場合は、発達障害(ADHD/ASD)がある。特に視覚優位(視覚から得た情報を処理することが得意な特性)が強く、授業を聞くよりも自分で参考書を読み進める勉強を中心に行った方が、効率が良いことが多かった。
教え方にもよるが、口頭で説明される授業よりも、文字・図・イラストで説明される参考書を読む方が、集中が続くのだ。
一方で、苦手分野については参考書では理解しづらく、個別指導塾に通った。苦手な分野は口頭での表現も混ぜてもらった方が理解しやすい。また、集団で授業を受けていると眠くなってしまうが、個別指導塾では僕に合わせた授業をしてもらえたこともあり、集中が続いた。
他にも、ADHDで机の前に座って長時間じっとすることが苦手だったため、部屋の中を歩きながら参考書を読み、気分転換をしながら勉強していた。このように、特性に合わせた勉強方法に変えてからは、成績も伸びるようになった。
※1 特性 本記事においては、「その人自身が持つ性質や癖、傾向のこと」を指す。
■大学の学びのスタイルは不登校経験者にも合っている
「学校」に通うことが苦痛だった自分が、大学に合格したとしても通えるのだろうか? また、行くメリットがあるのだろうか? と思う人もいるだろう。しかし、実は不登校経験者の中には、むしろ大学進学が向いている人も多い。大学の先生方のなかにも、そのような思いでいる人は多いのではないだろうか。
なぜなら、大学は、高校までのようにクラスなどの自分の意志とは無関係な集団で足並みを揃えて行動することが求められる場面が少ないからだ。もちろん、少人数制で管理が細かく他者と進捗を合わせる必要のある授業もあれば、小規模な大学には高校のようなクラスが存在することもあるが、比較的過ごしやすい環境の大学を受験して進学することもできる。
そして、大学には全国各地から多種多様なバックグラウンドを持つ人々が集まるため、自分と気が合う人が見つかる可能性も高い。特に同じ学部を志した人は、趣味が近いかもしれない。そうした交流を持つなかで、人付き合いに少しずつ慣れていくこともできるのだ。
授業の時間割を自分の興味や生活スタイルに応じて選択できる余地が大きい点も、重要なメリットだ。好きなことをとことん突き詰めたい“オタク”タイプの人間にとって、大学の授業は楽しく感じるかもしれない。
■志望校を決める時の留意点
志望校を決める時は、以下の点に留意すると良いだろう。
・通学時間と距離、生活環境
多くの時間を割くことになる大学周辺、あるいは大学に行くまでの環境が、ストレスなく過ごせるものであるかどうかは、非常に重要だ。
・クラス課外活動の方針、授業スタイル
大人数の講義形式が多いのか、少人数制の授業が多いのかは、大学の雰囲気によっても異なる。自分の特性に合う大学を選ぼう。
・受験科目と選抜方式
好きな科目で勝負できる大学・学部や、科目の試験以外にも面接や作文を評価してもらえる選抜方式もある。それらをよく調べ、自分が最も自信をもって試験に臨める状態であれば、力を最大に発揮できるだろう。
他にも、特定の大学や学部に思い入れがある場合は、その大学・学部に合格できるように逆算して計画を立てることが必要だ。
■大学受験は「人生をやり直す」方法の一つだ
大学進学を機に、一人暮らしをするなど生活に大きく変化がある人も多い。一人暮らしをしなくても、行動範囲が広がったり、知り合う人の数も多くなったりする。そうした環境の変化は、自分自身を見つめ直すことにも繋がるだろう。
生活の変化は、自分を変えるきっかけになるのだ。「大学生」ということでチャレンジできる機会も増えるため、自分には何ができて何ができないのかを見極めるチャンスでもある。
もし、元々「自分のやりたいこと」がわからない場合でも、大学生活を送るなかで行うさまざまなチャレンジから見つけることができるのだ。そうしたチャンスと時間を得られるのも、大学に行く意義の一つだ。
「やりたいこと」が既にある場合も、これから決める場合も、大学で過ごす時間はこれからの人生、また自分自身と向き合う貴重な時間なのだ。
だから、僕は、大学受験を通じて「人生をやり直す」ことを応援している。
もちろん、人生をやり直す方法は、勉強だけではない。仕事を通じてやり直す人もいれば、そのほかの強みによってやり直す人もいる。人それぞれだろう。
「不登校でも大学進学を通じて人生をやり直したい」と考える人には、本記事で紹介した方法を実践して、ぜひ希望の大学へ進学してほしい。
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安田 祐輔(やすだ・ゆうすけ)
キズキ代表
1983年生まれ。ICU(国際基督教大学)卒業、総合商社を経て、キズキを立ち上げ。現在は、中退不登校向けの学習塾「キズキ共育塾」、自治体から委託を受けた貧困家庭支援、うつや発達障害の方向けの就労支援「キズキビジネスカレッジ」等の事業を全国40か所で展開。著書に『暗闇でも走る 発達障害・うつ・ひきこもりだった僕が不登校・中退者の進学塾をつくった理由』(講談社)、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』(翔泳社)がある。
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(キズキ代表 安田 祐輔)