そこは「天空の秘境IC」だった 「日本一長い名前のIC」越えて山奥へ 全通待ち続けて30年
飯田〜浜松をむすぶ「三遠南信道」の整備事業が進んでいます。飯田市から伊那山地を抜ける山奥の工事現場では、巨大な構造物が全通の日を待っていました。
急峻な伊那山地を貫通する高規格道路
長野県飯田市から南アルプスの麓の山岳地帯を抜け、静岡県浜松市へむすぶ高規格道路「三遠南信自動車道」の建設事業が進められています。
飯田市側では「飯喬道路」として中央道に接続する飯田山本IC〜飯田上久堅・喬木富田IC間と、喬木IC〜程野IC間(矢筈トンネル)が開通済み。その間の、伊那山地を本格的に越える区間が工事進行中となっています。
三遠南信道の喬木IC(乗りものニュース編集部撮影)。
ところで飯田上久堅・喬木富田(いいだかみひさかた・たかぎとみだ)ICは、全国の高速道路のIC名で最も長いものとなっています。飯田市街から天竜川を越えて、山道を一気に上った先の上久堅地区に位置しています。標高650m、段々になった斜面にリンゴ畑もちらほら見えます。
さて、ここから伊那山地を越えて、赤石山脈に挟まれた谷間の旧上村へ向かいます。とはいえ、現状では喬木ICまで喬木村の市街地経由で北へ大きく迂回する山道しかありません。飯田市街から喬木ICへ向かう場合、天竜川を越える地点の案内標識が、早くも北回りのルートを取るように示しています。
リンゴ畑を横目に見つつ、小川川の上流へ、県道は次第に標高を上げていきます。道中には何か所も、三遠南信道の工事車両入口がありました。
三遠南信道は飯田上久堅・喬木富田ICと喬木ICを真っすぐ結ぶのではなく、トンネルを最短距離にするためにいったん北東の氏乗地区へ出て、小川川沿いの県道に並行する形で南下し喬木ICに接続するルートとなっているのです。したがって県道から見える工事現場は、切土や橋梁工事などが主となっています。
山道を登った先に見えたものは
やがて矢筈ダムを過ぎたところで視界に入ったのは、天まで登るような円柱形の橋脚群と、絡みつくように何本も曲がりくねる高架橋でした。まさに「天空のIC」といった雰囲気、これが喬木ICです。
ここから山を貫く矢筈トンネルは1994(平成6)年に開通。それまで旧上村と飯田市を結ぶのは、狭隘で急勾配・急カーブが延々と続く赤石峠のみでした。遠山方面へ向かう教員や警察は周辺の峠道の過酷さに仕事を辞めたくなったことから「辞職峠」のあだ名がつけられたほどでした。4176mのトンネルの開通により、たびたび災害で通行止めとなるこの長い峠道を通る必要はなくなり、飯田市街への所要時間は大幅に短縮されることとなったのです。
「天空のIC」喬木ICの高架橋は深い山中で唐突に終わり、むなしく山肌にぶつかったまま、30年近い年月を経てきました。飯喬道路の全通により、いよいよ旧上村と飯田市街は山道をほぼ完全にショートカットし、直結されることとなります。
さらに三遠南信道では南側の青崩峠を越えるトンネルが建設中。浜松・豊橋方面へのアクセスも飛躍的に向上し、いよいよ”秘境”から”大動脈”へ変化を迎えつつあります。