東京都が新築住宅を含む新築建物に太陽光発電の設置を義務化する、という話題が注目されています。東京都では、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正を検討しているところで、審議会の中間まとめに「太陽子発電設備等の設置義務」が盛り込まれたからです。

東京では2030年までに温室効果ガス排出量50%削減を目指す

東京都では、「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、「2030年カーボンハーフ」を表明しています。「ゼロエミッション東京」とは、世界の大都市のひとつである東京が、その責務として、平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献すること。それには直近の10年間が重要であるとして、2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)=「カーボンハーフ」するための施策をさまざまに打ち出しています。

一方、東京都だけではなく、政府も「2050年カーボンニュートラル」(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)を宣言しています。政府の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ」(以下、ロードマップ)でも、段階的に新築建物の省エネ対策を強化することを表明しています。

国の住宅省エネ対策でも、太陽光発電設置の目標を掲げている

政府のロードマップによると、まず、2025年度にすべての新築住宅が最新の「省エネ基準」に適合することを義務化し、そのうえで、2030年までにその基準をZEH(ゼッチ)水準に引き上げるとしています。2050年までには、さまざまな基準をZEH水準に引き上げて整合させ、住宅全体でZEH水準の住宅を増やすという計画です。

なおZEHとは、「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」を略したもの。住宅の断熱性能・省エネ性能を上げることに加え、太陽光発電などによってエネルギーを創り、年間の「一次エネルギー消費量」を正味(ネット)で、おおむねゼロ以下にするものです。

出典:経済産業省の資料より転載

ただし、ロードマップでいうZEH水準とは、住宅の構造や設備部分の水準のことで、必ずしも太陽光設備などの設置を義務付けているものではありません。

太陽光発電については、2030年までに新築戸建ての6割で太陽光発電設備が導入され、2050年までに導入が合理的な住宅では、太陽光発電設備などの再生可能エネルギーの導入が一般的になることを目指しています。

政府としては、太陽光発電の義務化までには踏み込みませんでしたが、設置を普及したい考えに変わりはありません。

東京都が先んじて太陽光発電の設置を強化

東京都の太陽光発電の設置義務化は、政府の政策より先んじて取り組んでいると言ってもよいでしょう。

東京都では、「東京ゼロエミ住宅」の新築を促進しています。国の省エネ基準の判定には複雑な計算が必要ですが、東京都のゼロエミ住宅の場合は、住宅の断熱性能と設備の省エネ性能を部位ごとの仕様で定めるなど、わかりやすい基準にしています。ゼロエミ住宅の新築に対して補助金を給付することで促進し、その際に太陽光発電を設置する場合は補助額を上乗せするといった支援もしています。

また、太陽光発電については、住宅が密集する東京では、太陽光発電設備を設置するのに適した屋根の広さや形状などの条件がそろいづらいということもあって、「東京ソーラー屋根台帳」(ポテンシャルマップ)も作成しています。この屋根台帳は、それぞれの建物がどのくらい太陽光発電システムや太陽熱利用システムに適しているかを理論値で算出し、適した建物を地図上に表示したものです。適している建物の屋根には、太陽光発電などの設置を促すことが狙いです。

設置義務化は特定の住宅供給事業者に対するもの

それでも、設置している住宅はまだ多くはありません。太陽光発電の設置義務化によって、一気に設置している住宅を増やしていこうということでしょう。では、いま新築住宅を建てようとしている場合、必ず太陽光発電設備を設置しなければならないのかというと、そういうわけでもありません。

まず、現時点では検討中の段階で、決定しているわけではありません。また決定しても、条例の改正や内容についての周知期間が必要なので、早くても2024年度以降と見られています。

加えて、新築住宅を建てたり買ったりする個人に対して義務づけるものではなく、分譲住宅あるいは注文住宅を供給する事業者に対して義務づけるものです。住宅を供給する事業者の中でも、都内で年間に延床面積の合計で2万平方メートル以上を供給している事業者が義務化の対象で、供給する住宅の一定割合に設置を義務付ける形です。東京都では、都内の大手住宅メーカー約50社が対象の見込みとしています。

住宅所有者に負担はある? 設置のメリットは?

太陽光発電を設置した住宅では、発電した電気を使用することができます。電気代が上がっているので、金銭的な効果も大きいですし、災害による停電時でも発電による電気を使用することも可能です。一方で、太陽光発電設備の費用が住宅価格に上乗せされる(設置費用は電気代により10年程度で回収できる想定)ほか、使用している間に設備のメンテナンスをしたり、耐用年数を超えると最終的に廃棄をしたりする必要も生じてきます。

そのため、東京都では、電力会社などのリースや屋根借りなどの手法を使って、住宅の所有者に負担がかからない方法も活用する考えです。リースは、電力事業者が自宅の屋根に設置した太陽光発電についてリース料を払って電気を使うもの。屋根貸しは、自宅の屋根を電力会社に貸して賃料をもらうもので、発電した電力は電力事業者が売電します。こうした手法なら、住宅所有者に設置費用やメンテナンス等の負担はかからなくなります。

出典:東京都環境審議会資料より転載

さて、太陽光発電の設置義務化に伴い、住宅所有者の負担をどうするか、補助金などの支援はあるかなど、検討課題はまだ残されています。しかしいずれにしても、今後は住宅のZEH化が求められてきます。省エネ性の高い住宅に太陽光発電や蓄電池のシステムが搭載されているのが当たり前の時代が来た場合、そうではない住宅が住宅市場で価値を落とすといったことも起こりえます。

義務かどうかというだけでなく、マイホームをどうするかといった観点で、住宅の省エネ性や太陽光発電の設置有無などを考えるのがよいでしょう。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)