佐々木朗希 3年めとしては「大谷より素材は上」と大学准教授も断言!球宴で期待される史上最速「171km」
2022年4月、完全試合時の投球モーション(写真・共同通信)
今季は超“投高打低”のシーズンと言える。完全試合を達成した佐々木朗希(20)を含め、すでにノーヒットノーランを達成した投手が4人もいる。同一シーズンに4人が達成したのは、1950年の2リーグ制開始以降では初めてだ。
背景には何があるのか。バイオメカニクス(生体力学)を専門とする動作解析の第一人者で、筑波大学野球部の監督も務める川村卓同大准教授に尋ねた。
「4投手の偉業のすべてが序盤戦だったことを考えると、コロナ禍の影響が大きい。打者は、投手の生きた球を打って調整していくもので、オープン戦など実戦の場が少なかったことが、投手にアドバンテージをもたらしました」
さらに、投手力の向上も著しいようだ。
「10年前なら直球は平均で140kmで速いといわれていましたが、今は145km以上。変化球のレベルアップもあります。球種が多くなったというより、変化する幅が大きくなったり、140kmを超えるスプリットを投げる投手も出てきました」
そして、この投手有利の状況で、最大限に実力を発揮している投手として、川村准教授は佐々木を挙げる。プロ入り3年めながら、進化が目覚ましいという。
「佐々木くんの場合、2年かけてじっくり体を作ったことで、自分の持っているポテンシャルを損なわずに成長できた。球団主導で、すごく計画的にやっていると感じます。肉体改造では体を大きくすると同時に、細かい筋肉も全体的にゆっくり鍛えることが不可欠。佐々木くんは、バランスの取れた体作りに成功しました。同じ長身投手の大谷翔平というお手本がいたことも大きかった。彼もメジャーに行って徐々に体を大きくし、大活躍していますから」
フォームも、入団当初から修正されてきているという。
「佐々木くんの投球動作でまず目を引くのが、左足を高く上げること。それが160km超の球威に繋がっていますが、じつは弊害も大きい。足を高く上げれば上げるほど、人間の体は背中側へ傾きます。そうすると、バランスが崩れやすく、体が開いたフォームになる。だけど彼の場合、昨年より筋力の強さと柔軟性が加わったので、足を高く上げても軸がブレないわけです」
そのほか、テイクバックの際、左肩と右肩が地面と平行になっているため、高い位置から右腕を押し込めることも特長だという。川村准教授が絶賛するのは、プレートの使い方だ。
「左足を上げてステップしていくときに、軸足である右足でプレートを押す動作があります。そこで強く押せることが“速い投手”の条件。左足を高く上げるのは、高校時代と変わりませんが、当時はそのまま下りていくだけだったのに対し、現在は右足でしっかりとプレートを押す姿勢を作れていて、推進力が出てきた。
股関節とお尻の筋肉が使えるようになったことで、より低い姿勢でプレートを押すことができ、地面から受ける反作用の力も大きくなっている。強く長く押しているぶん、ボンと全身が跳ね上がっていくわけです。この形を普通の投手がやるのは難しい」
次に、踏み込む左足もポイントになる。
「右足でプレートを押して得た推進力を、今度は左足で受け止めます。その左足がぐらぐらすると、軸がブレる。彼は高校生のころまでは、左足で推進力を受け止められていなかった。だから、ちょっと体が下に沈むような動きになってしまい、上半身でカバーしようとしてバランスが悪くなっていました。
高校時代の投げ方では、たしかに肘を故障するリスクは高かったと思います。でも今は、推進力を受け止めた左足が突っ張ると同時に、お尻が上がる動きになっている。下半身の力を上半身にしっかりと伝えています」
フォーム自体は、昨季のほうがダイナミックだったという。
「昨季はすごく大きなフォームで、跳び上がって投げるような感じでした。ただ、タイミングが合わないとブレも大きかった。いい球と悪い球がはっきりしていました。一方、今季のフォームでは7割から8割の力で投げている。それで160km以上出るんですから(笑)。力まずに強いボールを投げるコツみたいなものを掴んだんじゃないですかね」
川村准教授が解析した佐々木朗希の投球動作
では、修正点はあるのか。
「う〜ん、課題があるとしたら(投げ込むときに)右手と頭の位置が離れてしまうこと。それは体が柔らかいがゆえなのですが、離れすぎると肘や肩に負担がかかるんです。もう少し右手が頭の近いところを通って投げられれば理想的ですが……。まあ、高校のときはもっと離れていたし、プロに入って改善されてきているので、よくなるのは時間の問題ですね。
彼は大谷くんとよく比較されますが、3年めに限れば佐々木くんのほうが上だと思います。日ハム時代の大谷くんのフォームは、1回沈み込んでから体重移動する点が課題でした。今のフォームは違いますよ。ただ、佐々木くんの場合は、もうできている感じですね」
そうなると、さらなる進化への期待が高まる。“夢の170km”は実現するのか。
「すでに170kmを投げる能力はあります。ただ、その球速が必要かどうか。やはり170kmの球を投げるには、体に負荷がかかるし、バランスを崩す可能性もある。年間を通して投げることを考えれば、今の160kmで十分かもしれない。あとは本人の考え方次第です」
投球回数の限られる球宴では、チャップマンを超える人類最速の171km超を拝めるかもしれない。そんな無限の可能性を秘めた“令和の怪物”をメジャーで見たい人は多いはず。
「メジャーへ行ったほうがいいですね(笑)。今でも通用すると思います。ただ、メジャーは移動を含めた過酷な環境で、中4日のローテーションを守らなければいけないので、いろいろな面でタフでなければいけません。そう考えると、24〜25歳くらいで行くのがベストでしょう」
日本は大谷だけではないと証明してほしいが、“朗希ロス”も心配だ。
※本文中の成績は7月22日時点