金融庁はマニュライフ生命保険に対し、今回の処分を踏まえた経営責任の明確化など、業務改善命令を出した(記者撮影)

節税保険をめぐる行政処分としては、初めての事例となった――。

金融庁は7月14日、「節税保険」の販売をめぐって外資系大手のマニュライフ生命保険に対し、保険業法に基づく業務改善命令を出した。

2022年2〜6月まで4カ月間にわたり、同社に立ち入り検査を実施。租税回避行為を指南するような営業手法や節税保険の開発・販売実態を調べていたが、現経営陣をはじめとして組織性や悪質性が高いと判断した。

「問題あり」と判断された2つの行為

金融庁が問題視した行為は大きく2つある。1つ目は、「低解約返戻金型逓増定期保険」という法人向け商品を利用した租税回避行為だ。

同商品は契約からおおむね5年が経過すると、契約者が受け取る解約返戻金が大きく跳ね上がる仕組みになっている。その仕組みを利用して、契約者は5年目になる直前に契約の名義を、法人から役員個人に変更し契約を譲渡。そうすると、返戻金は税制上個人の一時所得として扱われることになり、役員報酬を支払うときと比べて、所得税の負担を大きく軽減できる、というからくりになっている。

通称「名変(名義変更)プラン」などと呼ばれており、マニュライフでは同プランを前面に押し出した営業手法が横行していたという。

2つ目は、「個人年金保険」を利用したものだ。2021年3月、節税保険の乱売に業を煮やした国税庁は、税務処理ルール(所得税基本通達)の改正を周知。それによってマニュライフをはじめとして、定期保険による名変プランは封じられることになった。だが、マニュライフはそれ以降も残された抜け道を探すことをやめず、個人年金保険による名変プランを編み出すと、ここぞとばかりに営業推進を図っていた。

そうした「悪質性が極めて高い事例」(金融庁)が立ち入り検査で次々に立証され、今春には行政処分は待ったなしという状況になっていた。ただその中で、金融庁が最も頭を悩ませていたのは、節税保険の開発と営業を主導していたマニュライフの旧経営陣の扱いだった。

すでにマニュライフを去っている旧経営陣については、保険業法に基づく直接的な処分を下すことが難しい。それでも、他社への移籍による“逃げ得”の前例をつくらないようにするには、どうすべきなのか。

金融庁の出した答えが、行政処分の中で旧経営陣の責任を、文書に明示的に盛り込むことだった。今回の行政処分の資料を見ると、マニュライフの「前CEO」や「前専務執行役」とほぼ名指しするかたちで、「商品開発段階から主導していた事実を鑑みると、とりわけ責任は非常に重く、一連の行為には組織性が認められる」(金融庁)と厳しく指弾している。

直接の処分は下せないものの、前職における経営責任を明らかにすることで外堀を埋め、本人や移籍先の保険会社に自主的な対応を迫るというやり方だ。そのため焦点は、マニュライフの前社長兼CEOで現在アフラックの副社長を務める吉住公一郎氏と、マニュライフ前専務執行役でアフラック常務執行役員の勝矢宏氏の処遇に移った。

金融庁がアフラックに探り

仮に今後、アフラックが両人の守りを固めてくるようなことがあれば、両人に引責させることは難しくなる。実際に金融庁はその感触を確かめようと、行政処分を下す1カ月前の6月中旬、訪問してきたアフラックの役員に対し、吉住氏を「どう評価しているのか質問している」(アフラック関係者)という。

同関係者によると、アフラックの役員はとっさに「活躍されている」などと答えたというが、金融庁の目には守ろうとしていると映ったに違いない。その面談以降、金融庁はアフラックが政治家などを使って対抗してくる可能性を考え、先手を打つようにして政府サイドや与党議員に徹底して根回しをする姿が見受けられたからだ。

一方で、金融庁のそうした思いは杞憂に終わるかもしれない。吉住氏が統括する営業部門は現在、思うように成績を伸ばせず、アフラックのアメリカ本体から厳しい視線を注がれている。金融庁がわざわざ圧力をかけずとも、そのまま失脚する可能性がある。

また、あるアフラックの役員は「監督当局から過去の行為について糾弾された人物を、経営の中枢にとどめておくことの風評リスクはやはり大きい。うちの首脳陣としても、吉住氏らに自主的な退任を促す方向にもっていくはずだ」と話す。

旧経営陣の責任にも言及するという金融庁の異例の行政処分に対し、その張本人を受け入れたアフラックは今後どう向き合うのか。処分の内容について、アフラックは「他社事案についてのコメントは控える」と回答した。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)