「客は選び、捨てろ」商売繁盛に不可欠な成功法則
「お客さまは神様」とは言っても、お客にはいい客も悪い客もいる。
繁盛はして欲しいが、横柄だったり、社会常識がなかったり、過度に怒りっぽかったりする客には、できるだけ来て欲しくないというのがお店側の本音だろう。
こうした「スジの悪い客」をすっぱり捨てるのは勇気がいるものだが、それこそがスモールビジネス成功のカギだとするのが『お客を捨てる勇気』(クロスメディア・パブリッシング刊)だ。
お店はどのように「大事にする客」と「そうでない客」を選別するのか。それがなぜビジネスの成功に結びつくのか。自身でも複数の店舗を経営し、成功させている著者の中谷嘉孝さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。
中谷嘉孝さんインタビュー前編を読む
■「明確なニーズを持っているお客は多くない」
――大事にすべきお客か捨ててもいいお客かを判断するために大切なのが、お店の売りやミッションなどの「旗」です。この旗を作る時に注意すべきポイントがありましたら教えていただきたいです。
中谷:本の中でも書いていますが、まずは、ありきたりでファジーな旗にならないこと。たとえば「アットホームなお店です」と打ち出している居酒屋があるじゃないですか。
――ありますね。
中谷:アットホームなことしか売りがないなら、お客さんは家に帰って飲みますよ。家が一番アットホームなんですから。こういう旗だと意味がないんです。
上手くいっている店の真似ごとではなく、自分自身が本当に追求したいことなのかどうか、その情熱や想いがしっかりこめられた旗を打ち出すのが大切です。
――また、「旗」はどのように打ち出していけばいいのかについてアドバイスをいただければと思います。
中谷:これから出店や商品発売を予定しているのなら、そのまま屋号や商品名に反映させる。弊社の例でいえば、若返りに特化したサロンと決めたから店の屋号を『A・NO・KO・RO・NO・KI・MI』(あの頃のキミ)にして、そこで販売する化粧品のラインナップを『タイムスリップシリーズ』と命名しました。
既存の店舗の場合は、自店の想いをキャッチフレーズやエレベーターメッセージに落として、名刺やHP、ニュースレターや店頭のメッセージボード等、至るところに散りばめる。
ちなみにエレベーターメッセージは、口コミを広めていくのにも有効なツールです。これは文字通り、1階からエレベーターに乗り込んで2階につくまでの間に自店の特色を簡潔に語れるところまで研ぎ澄ますことが重要です。そのくらい短くて強いメッセージがないと口コミは発生しないので。
――「顧客ニーズ」という言葉の曖昧さも指摘されています。「明確なニーズを持っているお客は多くない」というのはその通りだと思うのですが、なぜビジネスの世界ではこの言葉が絶対視されるのでしょうか。
中谷:ビジネスにおける大きな括りとして、時代に応じての大まかな顧客ニーズは確かに存在するんです。
たとえば戦後のギブミーチョコレートな時代と今のような飽食の時代では人々の求める甘さは違います。老舗和菓子屋の二代目や三代目がそのことに気付かず、何かとヘルシー志向が求められる現代に砂糖の塊みたいなお菓子ばかり作っていたら、それは市民権を得られずに店を潰すわけですよね。おそらくこれが長く絶対視されてきた顧客ニーズという言葉の正体です。
――時代が求めるものという意味の「顧客ニーズ」は存在している。
中谷:そうです。でもそのことと、その道のプロフェッショナルとしてお金をいただいている僕らが、素人であるお客様たちの要望を全て受け入れて「御用聞き」に落ち着こうというのは話の次元が違います。そういう要望をすべて「顧客ニーズ」だと考える必要はない。
実際のところお客の要望に応えてれば楽なんですよね。頭を使わなくていいし、いざとなったらお客の要望のせいにできますから。でも、それはプロじゃないと思うんですよ。プロだったらラクしないでお客に提案しないといけないと思います。
この肉はこのぐらいのロースト加減がベスト、この真鯛ならこのくらいの熟成加減がベストなんだって、僕がお客だったらそんなプロの想いやこだわりを味わわせてほしいです。常にお客様と密接な関係にあるスモールビジネスで生きる僕たちだからこそ、お客様の想像を超える努力を惜しまずにプロを目指し続けたいって思うんです。
――これまで「そもそもリピーターにならないお客」を追いかけていたお店が、大事にするお客を選び、それ以外を「捨てる」ように方針転換した場合、その効果が数字となって表れるのにどれくらいの時間を要しますか?
中谷:僕の経験上、立地や戦術にもよりますが、数字として結果が出るのは大体半年後ですね。むかし某有名先生の本を読んで、90日とかを目指しましたが、実際はやはり半年かかりました(笑)。
ただ「やるぞ!」と決めた瞬間から機運が上がるとか、無駄なランニングコストが下がるとか様々な変化があらわれますから、寧ろそのプロセスを楽しんでいただきたいと思います。
――90日は無理でも半年あれば変われるんですね。
中谷:変わりますよ。その人の決意とか覚悟によると思うんですけど、店を変えるという決意を固めた時点で、色々なものが変わってきます。
多分、大事にするお客さんを選ぶ決心がなかなかつかない人って、たとえば、「旗」のお話であったようにお店のポリシーを打ち出したり、うちのお店のように会員制にしたり値上げをしたりすることで「新規顧客」を獲得しにくくなることが怖いんだと思うんです。
でも実際はそうはならないかもしれません。事実、うちのお店は会員制にしてからも新規顧客の数は変わらないです。会員の方から「うちの娘もお願いできないか」と頼まれたり、僕が飲み屋さんで知り合った人から「私も行ってみたい」と言われたり、会員制にしても一定数新規客は来ます。それに、こういう紹介の形でやってきた新規客の方が絶対的にリピーターにはなりやすいはずです。
――本書は説得力ある内容でした。とはいえなかなかお客を捨てる勇気は出ないものかもしれません。最後に背中を押す一言をお願いします。
中谷:人生においていちばん大切なものは時間です。限りあるわけですからね。だから大好きな人たちと大切な時間を共有するということはこの上なく素敵で贅沢なことなんです。
特に、小さなお店のオーナーやスモールビジネスを営む僕たちにとって「ビジネス=人生そのもの」。同じ時を過ごしていくならHappyなことが多いほうが絶対いいはずですよね。
もっと言えば、人間なんて所詮は「起きて半畳、寝て一畳」ですから。そりの合わない客なんかと無理に付き合わなくても毎日が幸せなら何とでもなりますよ(笑)
(新刊JP編集部)
中谷嘉孝さんインタビュー前編を読む
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こうした「スジの悪い客」をすっぱり捨てるのは勇気がいるものだが、それこそがスモールビジネス成功のカギだとするのが『お客を捨てる勇気』(クロスメディア・パブリッシング刊)だ。
お店はどのように「大事にする客」と「そうでない客」を選別するのか。それがなぜビジネスの成功に結びつくのか。自身でも複数の店舗を経営し、成功させている著者の中谷嘉孝さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。
■「明確なニーズを持っているお客は多くない」
――大事にすべきお客か捨ててもいいお客かを判断するために大切なのが、お店の売りやミッションなどの「旗」です。この旗を作る時に注意すべきポイントがありましたら教えていただきたいです。
中谷:本の中でも書いていますが、まずは、ありきたりでファジーな旗にならないこと。たとえば「アットホームなお店です」と打ち出している居酒屋があるじゃないですか。
――ありますね。
中谷:アットホームなことしか売りがないなら、お客さんは家に帰って飲みますよ。家が一番アットホームなんですから。こういう旗だと意味がないんです。
上手くいっている店の真似ごとではなく、自分自身が本当に追求したいことなのかどうか、その情熱や想いがしっかりこめられた旗を打ち出すのが大切です。
――また、「旗」はどのように打ち出していけばいいのかについてアドバイスをいただければと思います。
中谷:これから出店や商品発売を予定しているのなら、そのまま屋号や商品名に反映させる。弊社の例でいえば、若返りに特化したサロンと決めたから店の屋号を『A・NO・KO・RO・NO・KI・MI』(あの頃のキミ)にして、そこで販売する化粧品のラインナップを『タイムスリップシリーズ』と命名しました。
既存の店舗の場合は、自店の想いをキャッチフレーズやエレベーターメッセージに落として、名刺やHP、ニュースレターや店頭のメッセージボード等、至るところに散りばめる。
ちなみにエレベーターメッセージは、口コミを広めていくのにも有効なツールです。これは文字通り、1階からエレベーターに乗り込んで2階につくまでの間に自店の特色を簡潔に語れるところまで研ぎ澄ますことが重要です。そのくらい短くて強いメッセージがないと口コミは発生しないので。
――「顧客ニーズ」という言葉の曖昧さも指摘されています。「明確なニーズを持っているお客は多くない」というのはその通りだと思うのですが、なぜビジネスの世界ではこの言葉が絶対視されるのでしょうか。
中谷:ビジネスにおける大きな括りとして、時代に応じての大まかな顧客ニーズは確かに存在するんです。
たとえば戦後のギブミーチョコレートな時代と今のような飽食の時代では人々の求める甘さは違います。老舗和菓子屋の二代目や三代目がそのことに気付かず、何かとヘルシー志向が求められる現代に砂糖の塊みたいなお菓子ばかり作っていたら、それは市民権を得られずに店を潰すわけですよね。おそらくこれが長く絶対視されてきた顧客ニーズという言葉の正体です。
――時代が求めるものという意味の「顧客ニーズ」は存在している。
中谷:そうです。でもそのことと、その道のプロフェッショナルとしてお金をいただいている僕らが、素人であるお客様たちの要望を全て受け入れて「御用聞き」に落ち着こうというのは話の次元が違います。そういう要望をすべて「顧客ニーズ」だと考える必要はない。
実際のところお客の要望に応えてれば楽なんですよね。頭を使わなくていいし、いざとなったらお客の要望のせいにできますから。でも、それはプロじゃないと思うんですよ。プロだったらラクしないでお客に提案しないといけないと思います。
この肉はこのぐらいのロースト加減がベスト、この真鯛ならこのくらいの熟成加減がベストなんだって、僕がお客だったらそんなプロの想いやこだわりを味わわせてほしいです。常にお客様と密接な関係にあるスモールビジネスで生きる僕たちだからこそ、お客様の想像を超える努力を惜しまずにプロを目指し続けたいって思うんです。
――これまで「そもそもリピーターにならないお客」を追いかけていたお店が、大事にするお客を選び、それ以外を「捨てる」ように方針転換した場合、その効果が数字となって表れるのにどれくらいの時間を要しますか?
中谷:僕の経験上、立地や戦術にもよりますが、数字として結果が出るのは大体半年後ですね。むかし某有名先生の本を読んで、90日とかを目指しましたが、実際はやはり半年かかりました(笑)。
ただ「やるぞ!」と決めた瞬間から機運が上がるとか、無駄なランニングコストが下がるとか様々な変化があらわれますから、寧ろそのプロセスを楽しんでいただきたいと思います。
――90日は無理でも半年あれば変われるんですね。
中谷:変わりますよ。その人の決意とか覚悟によると思うんですけど、店を変えるという決意を固めた時点で、色々なものが変わってきます。
多分、大事にするお客さんを選ぶ決心がなかなかつかない人って、たとえば、「旗」のお話であったようにお店のポリシーを打ち出したり、うちのお店のように会員制にしたり値上げをしたりすることで「新規顧客」を獲得しにくくなることが怖いんだと思うんです。
でも実際はそうはならないかもしれません。事実、うちのお店は会員制にしてからも新規顧客の数は変わらないです。会員の方から「うちの娘もお願いできないか」と頼まれたり、僕が飲み屋さんで知り合った人から「私も行ってみたい」と言われたり、会員制にしても一定数新規客は来ます。それに、こういう紹介の形でやってきた新規客の方が絶対的にリピーターにはなりやすいはずです。
――本書は説得力ある内容でした。とはいえなかなかお客を捨てる勇気は出ないものかもしれません。最後に背中を押す一言をお願いします。
中谷:人生においていちばん大切なものは時間です。限りあるわけですからね。だから大好きな人たちと大切な時間を共有するということはこの上なく素敵で贅沢なことなんです。
特に、小さなお店のオーナーやスモールビジネスを営む僕たちにとって「ビジネス=人生そのもの」。同じ時を過ごしていくならHappyなことが多いほうが絶対いいはずですよね。
もっと言えば、人間なんて所詮は「起きて半畳、寝て一畳」ですから。そりの合わない客なんかと無理に付き合わなくても毎日が幸せなら何とでもなりますよ(笑)
(新刊JP編集部)
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