残業削減は管理職殺しか?「上司に負担が集中」を避けるためにすべきこと
さまざまな業界で人手不足が叫ばれ、人材の確保に苦労する会社が多いなかで「いかに人材を離職させないか」「いかに長く会社に貢献してもらうか」は各社共通の課題となっている。
人材を揃えるのに汲々としている状態では会社の成長はおぼつかない。その意味では「従業員が働きやすい職場」を提供し、離職率を低く抑えることは、企業や事業の成長に直結する。『働きやすさこそ最強の成長戦略である』(大槻智之著、青春出版社刊)はこの観点から書かれた一冊。
今回は著者の大槻智之さんにお話をうかがい「働きやすい会社とはどんな会社なのか」「働きやすい会社をどう作るか」について教えていただいた。その後編をお届けする。
大槻智之さんインタビュー前編 「週休3日制」で働きやすさはアップするか?見せかけだけのケースも を読む
■「残業削減で上司にしわ寄せ」をなくすためにすべきこと
――何年か前に「1億総活躍社会」という言葉が使われて、子育てをしている人も、親の介護をしている人も、定年を過ぎた人も、みんなが活躍できる社会にしましょう、と言われていました。多様な人たちがそれぞれ能力を発揮できる会社にするというのは簡単ではないし、すぐにできることでもないと思うのですが、どんなことが必要になるのでしょうか。
大槻:少なからず課題はありますが、一番手っ取り早いのは定年制を見直すことですかね。今はだいたい定年が60歳で再雇用で65歳までですが、それを70歳まで引き上げるとか、そもそも定年制をなくしてしまうとか。あとは育児休業とか介護休業を充実させることもやりやすいですよね。特に介護は法的な制度だけでは到底足りないので、会社として独自の介護休暇を設けたり、リモートワークを拡充して、どんな職種でも、介護離職することなく働けるような制度づくりがこれから必要になってくると思います。
――「働き方改革」が叫ばれるようになってから長い時間が経ちます。その一つに「長時間労働の是正」がありますが、10年前と比べると極端な長時間労働は減ってきたような気がします。お仕事をされていて色々な会社を見るかと思いますが、大槻さんの感覚としてはいかがですか?
大槻:「働き方改革」で労働時間の上限が作られて、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満と決められました。ただ所定労働時間以外に月に100時間働く人は全体でみると少数派なので、「これは困る」となった会社は少なかったはずです。
ただ業界や会社の規模によるところもあります。大きな会社で競争が激しいところだと月300時間くらい働いている人はいたでしょうね。今はさすがにそこまで働く人はいないでしょうけど。でも、「社内フリーランス」という労働時間の上限がない雇用契約を利用して名目上の労働時間を引き下げている可能性もありますからね。そのあたりはまだ実態が見えていない部分が多いです。
――本の中でも書かれていますが、「長時間労働の是正」はどうしても管理職に負担が集中しやすいですよね。部下を早く帰すために管理職が潰れてしまったら意味がないわけで、そうならないように会社としてどんなことができるのかというところをうかがえればと思います。
大槻:単純な話ですけども、まずは「業務の棚卸」をやっていただきたいです。これをやることで、ほとんどの場合「なんでこんなやり方をしているの?」とか「なんでこの人がやっているの?」という業務がたくさん出てくるはずです。そういった非効率な部分を洗い出して外注すべきところは外注したり、ITツールを入れるべきところは入れると、個々人の労働時間はだいぶ見直されます。
上司がやるべきはこの棚卸と効率化なんです。やってみるとわかりますが、どんな職場でも無駄なことをやっていますよ。部下を早く帰した分の仕事を上司が抱え込むのではなく、棚卸をして業務の中身をまずは見極めることが大切です。
――コロナ禍でテレワークが一気に広がりました。便利なのはまちがいないのですが、部下の労働管理の難しさや既存の評価制度との相性の悪さも指摘されています。大槻さんとしては、業務の性質的にテレワークが不可能という場合以外、テレワークは導入すべきというお考えですか?
大槻:できるならやったほうがいいと考えています。働ける人の幅が広がりますし、会社としても余分なコストが減るので。
――テレワークという働き方に評価制度を合わせようとすると、成果主義のほうに寄ってくると考えられますか。
大槻:2通り考えられます。一つはおっしゃるように成果主義に寄っていく方向で、もう一つは欧米のようにジョブ型の働き方にして給料は各人の職務に対して払うスタイルにする方向です。ただ後者は日本ではかなりハードルが高いです。働き方や評価制度を欧米型に完全に変えるのは国もあきらめていると思いますし、私も無理ではないかと思っています。
――今回の本の読者としては企業の人事担当者や経営者が想定されます。最後にこうした方々にメッセージをいただきたいです。
大槻:コロナで若干頓挫したといいますか、いつの間にか消えつつある「働き方改革」ですが、もう一度しっかりと思い出していただいて、今でこそ人手不足で採用困難になってきている状況がさらに悪化しても耐えられるような業務、人事体制を作っていただきたいです。
将来勝つために、今から準備を始めるべきです。今回の本をその準備として何をするかを考えるために役立てていただけたらうれしいですね。
(新刊JP編集部)
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■「残業削減で上司にしわ寄せ」をなくすためにすべきこと
――何年か前に「1億総活躍社会」という言葉が使われて、子育てをしている人も、親の介護をしている人も、定年を過ぎた人も、みんなが活躍できる社会にしましょう、と言われていました。多様な人たちがそれぞれ能力を発揮できる会社にするというのは簡単ではないし、すぐにできることでもないと思うのですが、どんなことが必要になるのでしょうか。
大槻:少なからず課題はありますが、一番手っ取り早いのは定年制を見直すことですかね。今はだいたい定年が60歳で再雇用で65歳までですが、それを70歳まで引き上げるとか、そもそも定年制をなくしてしまうとか。あとは育児休業とか介護休業を充実させることもやりやすいですよね。特に介護は法的な制度だけでは到底足りないので、会社として独自の介護休暇を設けたり、リモートワークを拡充して、どんな職種でも、介護離職することなく働けるような制度づくりがこれから必要になってくると思います。
――「働き方改革」が叫ばれるようになってから長い時間が経ちます。その一つに「長時間労働の是正」がありますが、10年前と比べると極端な長時間労働は減ってきたような気がします。お仕事をされていて色々な会社を見るかと思いますが、大槻さんの感覚としてはいかがですか?
大槻:「働き方改革」で労働時間の上限が作られて、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満と決められました。ただ所定労働時間以外に月に100時間働く人は全体でみると少数派なので、「これは困る」となった会社は少なかったはずです。
ただ業界や会社の規模によるところもあります。大きな会社で競争が激しいところだと月300時間くらい働いている人はいたでしょうね。今はさすがにそこまで働く人はいないでしょうけど。でも、「社内フリーランス」という労働時間の上限がない雇用契約を利用して名目上の労働時間を引き下げている可能性もありますからね。そのあたりはまだ実態が見えていない部分が多いです。
――本の中でも書かれていますが、「長時間労働の是正」はどうしても管理職に負担が集中しやすいですよね。部下を早く帰すために管理職が潰れてしまったら意味がないわけで、そうならないように会社としてどんなことができるのかというところをうかがえればと思います。
大槻:単純な話ですけども、まずは「業務の棚卸」をやっていただきたいです。これをやることで、ほとんどの場合「なんでこんなやり方をしているの?」とか「なんでこの人がやっているの?」という業務がたくさん出てくるはずです。そういった非効率な部分を洗い出して外注すべきところは外注したり、ITツールを入れるべきところは入れると、個々人の労働時間はだいぶ見直されます。
上司がやるべきはこの棚卸と効率化なんです。やってみるとわかりますが、どんな職場でも無駄なことをやっていますよ。部下を早く帰した分の仕事を上司が抱え込むのではなく、棚卸をして業務の中身をまずは見極めることが大切です。
――コロナ禍でテレワークが一気に広がりました。便利なのはまちがいないのですが、部下の労働管理の難しさや既存の評価制度との相性の悪さも指摘されています。大槻さんとしては、業務の性質的にテレワークが不可能という場合以外、テレワークは導入すべきというお考えですか?
大槻:できるならやったほうがいいと考えています。働ける人の幅が広がりますし、会社としても余分なコストが減るので。
――テレワークという働き方に評価制度を合わせようとすると、成果主義のほうに寄ってくると考えられますか。
大槻:2通り考えられます。一つはおっしゃるように成果主義に寄っていく方向で、もう一つは欧米のようにジョブ型の働き方にして給料は各人の職務に対して払うスタイルにする方向です。ただ後者は日本ではかなりハードルが高いです。働き方や評価制度を欧米型に完全に変えるのは国もあきらめていると思いますし、私も無理ではないかと思っています。
――今回の本の読者としては企業の人事担当者や経営者が想定されます。最後にこうした方々にメッセージをいただきたいです。
大槻:コロナで若干頓挫したといいますか、いつの間にか消えつつある「働き方改革」ですが、もう一度しっかりと思い出していただいて、今でこそ人手不足で採用困難になってきている状況がさらに悪化しても耐えられるような業務、人事体制を作っていただきたいです。
将来勝つために、今から準備を始めるべきです。今回の本をその準備として何をするかを考えるために役立てていただけたらうれしいですね。
(新刊JP編集部)
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