※この記事は2018年05月20日にBLOGOSで公開されたものです

最近コンビニでよく見かける「色の付いてない飲み物」。
高齢者や外国人などが、通常の水と間違えて購入するなど、混乱することがあるという。(*1)
記事中では「糖分を制限されている人」や「アレルギーを持つ子供」の話も出ている。
確かに、気にならない人は気にならない話なのかもしれないが、気にする人にとっては、命に関わる可能性があり、単なる笑い話で片付けるべき問題ではないだろう。

現状に至るには、2つの流れがある。
1つはナチュラルミネラルウォーターブランドのバリエーションとしてのフレーバー添加である。
ナチュラルミネラルウォーターのバリエーションとして砂糖入りのフレーバーを出してきてヒットさせたのは「いろはす」シリーズ(*2)であると記憶している。

かつて、華原朋美による「ヒューヒュー」のCMとともに一世を風靡した「桃の天然水」というものはあったが、この桃の天然水は「ミネラルウォーター」としては認識されていなかったように思う。

しかし「いろはす」シリーズは、ベースとなる商品がミネラルウォーターであるために、そのフレーバー付きの商品もミネラルウォーターとして認識されがちである。しかし実際には甘味料などが含まれる清涼飲料水だ。

いろはすの成分表を見ると、味なしのいろはす天然水は「品名:ナチュラルミネラルウォーター」と書かれている。一方で味付きのいろはす天然水は「品名:清涼飲料水」となっており、原材料名の筆頭として「ナチュラルミネラルウォーター」が記載されている。

書かれている場所こそ違えど、そのどちらも最初の方に「ナチュラルミネラルウォーター」と記されていることから、食品品質表示の基本的な知識がなければ、どちらも「ミネラルウォーターではないか」勘違いする人がいるのは、仕方がないと思う。

実際僕も、血液検査をする前についフレーバーウォーターを買ってしまい、飲む前に糖分が入っていることに気づいたという経験がある。

フレーバーウォーターに糖分が含まれている事があるという話は、糖尿病などで糖分を制限しなければいけない生活をしなければいけない人以外は、あまり気づいていない事実では無いだろうか。

もう1つの流れが、本来であれば色がついている飲料の透明化ブームである。 このブームを産んだのはサントリーが「天然水」シリーズとして発売された透明なレモンティー「プレミアムモーニングティー」(*3)だろう。

ニュースリリースには商品開発にあたって「フレーバーウォーターは見た目がジュースっぽく、デスクに置くには子供っぽい」という理由があったと記されており、社内の会議などにも違和感なく置ける紅茶のペットボトルとして売り出された。

そしてこの透明化ブームを見た他社も黙ってはおらず、次々に透明な製品を売り出しに来ている。アサヒ飲料は「おいしい水 天然水」シリーズの1つとして「クリアラテ」(*4)を発売した。これは透明でありながら、コーヒーとたっぷりの牛乳をつかった「アイスラテ」の味を目指した商品である。この商品には乳成分が含まれることから、アレルゲン表示がされている。

さらにサントリーはノンアルコールビールの「オールフリー」シリーズとして、透明なノンアルコールビール「オールタイム」(*5)を発売する予定である。

普通の水である「ナチュラルミネラルウォーター」と、糖分が添加された「フレーバーウォーター」。そして「透明化された飲料」である紅茶やコーヒーにアルコール。透明であれど、性質は違うものなのだから、コンビニやスーパーの店に並ぶときに適切に棚分けされていれば迷うことは無いように思う。

しかし、筆者の近くのコンビニの棚では、品名(名称)上の「ナチュラルミネラルウォーター」(いろはす)と「清涼飲料水」(いろはすフレーバーウォーター、クリアラテ)と「紅茶飲料」(プレミアムモーニングティー)が全く同じ「透明な飲料グループ」にまとめられて販売されていた。

いろはすと、いろはすのフレーバーウォーターが並ぶのは仕方ないにしても、紅茶は紅茶の棚、コーヒーはコーヒーの棚が離れた場所にあるにも関わらずあるにもかかわらず、水と一緒のカテゴリとして陳列されているのである。

まさかこれから発売されるノンアルコールビール(オールタイム)が同じ棚に並ぶことはないだろうと思いつつも、紅茶やコーヒーも一緒にされているのだから、一緒に並んでもおかしくないなと邪推してしまうには十分な状況である。

こうした状況で、急激な変化についていけない人が「ただの水はどれ?」と迷ってしまうのは当然であると言えよう。

さて、糖分を制限しなければならない人にとってはこうした状況があることを知っている人は多いだろうが、アレルギー等で乳成分を避けなければならない人に、この状況を理解している人はいるだろうか?

「表示があるから見ればいい」というのは簡単だが、水を買いたいと思っている人が間違ってこれらの商品を購入した場合に、いちいち乳成分が使われてないかという表示を探そうとするだろうか。水には乳成分が入っていないのが当たり前だと思えば探さないのではないか。

逆に言えば、水のような見た目の飲料であっても乳成分が入っている実例がある以上、今後は水を買ったと思っても、アレルギーを持つ人は必ずアレルゲン表示を探さなければならないということになる。

今のところは乳成分だけだが、そのうち「透明なミルクセーキ(卵・乳)」「透明なトムヤムクン(えび)」「透明な蕎麦湯(そば)」といった商品が出ないとも限らない。その度にアレルギーを持つ人は水のような商品を水であるか水ではないか、正しく判別する必要が求められる。それは相当な負担になると考えられる。

必要なことは、「ただの水」であることを、消費者が表面からラベルを見たときに、ハッキリ認識できる新しい表記を作ることである。

「ジュース」という表記が濃縮還元を含む果汁100%の製品に限られるように、糖分などが添加されていない水であることを示す表記が必要だ。もちろん知っている人であれば、品名や名称の「ナチュラルミネラルウォーター」とか「ボトルドウォーター」などの表記を確認すればいいのだが、知らない人はそうはいかない。また先に記したように、原材料としての「ナチュラルミネラルウォーター」が記載されてしまっている現状が厄介である。

さらに「天然水」という表記も使えない。なぜなら今回あつかったフレーバー飲料のラベルには「天然水」という表記が踊っているからだ。多くのメーカーは透明化した商品を「天然水シリーズの1つ」として扱っており、この状況を変えることは不可能である。

一方で、本来は色付きなのに、わざわざ透明にした商品が悪いのだから、それを禁止すればいいと考える人もいるかもしれないが、それだけでは紅茶やコーヒーはいいとしても、ナチュラルミネラルウォーターにフレーバーを添加した商品の問題は解決しない。

これはシリーズ化したゲームの最初の作品をなんと呼ぶかという問題に似ている。「ドラゴンクエスト11」といえば、それが示す作品は明確だが「ドラゴンクエスト」が、1986年にファミコンで発売されたドラゴンクエストというゲームを指すのか、ドラゴンクエストというシリーズ名を指すのかはわかりづらい。

ゲームの場合は「ドラゴンクエスト1」とか「初代ドラゴンクエスト」などと称することで選別しているが「水」というあまりに一般的なものに対して「ただの水」を表す表記は可能なのだろうか? そう考えるとわりと難しいことに気づくのではないか。水に「水1.0」とか「オリジナル水」という表記はそぐわないだろう。

いずれにしても「ただの水」を意味する表記は必要である。厚生労働省には、消費者が安心して「ただの水である」を選択できる表記を作成してほしい。

水と安全はタダと言われた昔と違って、わたしたちにとってペットボトルの水を買うことは生活の一部となっている。より身近なものだけに、より分かりやすい表記が求められているのである。

*1:高齢者「ただの水はどれ?」 続々登場の透明ドリンク、水と区別つかず高齢者や外国人は混乱も(BIGLOBEニュース)https://news.biglobe.ne.jp/trend/0518/blnews_180518_1541583025.html
*2:い・ろ・は・す 公式サイト(日本コカ・コーラ)https://www.i-lohas.jp/
*3:「サントリー天然水 PREMIUM MORNING TEA レモン」新発売(サントリー)https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF0516.html
*4:CLEARLatte(クリアラテ) | おいしい水 |(アサヒ飲料)https://www.asahiinryo.co.jp/oishiimizu/sp/clearlatte/
*5:ALL-TIME|オールフリー サントリー ノンアルコールビールテイスト飲料(サントリー)https://www.suntory.co.jp/beer/allfree/alltime/