※この記事は2015年02月13日にBLOGOSで公開されたものです

萬歳章・JA全中会長(編集部撮影) 写真一覧
12日、JA全中(全国農業協同組合中央会)の萬歳章会長が会見を行った。萬歳氏は、JA全中を一般社団法人に転換させることなどが盛り込まれた政府与党の農協改革案を受け入れることを表明したばかり。会見では、今回の改革案が、その目的である農業者の所得向上にどのようにしてつながるのか、疑問を呈する発言もあった。

萬歳会長の冒頭発言

JA全中の萬歳と申します。
本日は日本外国特派員協会でお話をさせていたける機会を頂まして、心より感謝を申し上げます。
また、今回は世界94か国、283団体が加盟をし、10億人の組合員を有する協同組合の世界組織であるICAのグリーン会長とバンセル理事に同席を頂いております。
私も、このICAの理事を務めておりまして、JA全中として、世界の協同組合運動の発展に長年尽力をしてまいったところでございます。

後ほどお二人からもご報告をいただきますが、まず私から、農協改革の考えかたについてのJAグループの説明をさせていただきます。

ご案内のように、私どもJAグループは、農業者自らが作る協同組合組織として、1947年の農業協同組合法制定以降、地域農業の振興や地域住民の暮らしの向上に関わる様々な事業ー私共は"総合事業"と呼んでおりますが、農業経営指導や暮らしの指導、農産物の販売、肥料等の購買、また貯金や融資などの信用事業・共済事業、医療、福祉事業などを実施をしてきたところでございます。

日本農業・農村は高齢化や就業人口の減少、また需給率の低下などの構造的な問題などを抱えておりますが、JAは組合員の多様なニーズに答える事業を展開し、日本農業の振興と地域での重要な役割を果たしてきたと考えております。

ところが昨年5月に政府の諮問機関である規制改革会議が、中央会制度の廃止や准組合員の事業利用制限を含む農業協同組合制度の見直しを提言いたしました。
その後、与党での検討を経て、政府は6月末に発表した規制改革実施計画において、農業者の所得向上に向けたJA自らの改革を進めよとの方針を決定したところであります。

私どもは自らの取り組みを振り返り、またJAの現場や農業者の声、さらに外部の有識者の意見も踏まえて11月に取りまとめをいたしまして、現在、具体化に向け、取り組みに着手いたしております。
そのような中、政府から全中の社団法人化、監査について監査法人による会計士監査の導入、そして日本のJA特有制度である准組合員の事業利用制限導入など、JAグループがこれまで経験したことののない組織の大転換が提起をされました。

この問題について、現場から多くの不安の声が出されましたが、政府与党とも協議行い、組織内での議論を積み重ね、先日、准組合員の事業利用制限の見送りを含む政府案の容認という、大きな一歩を踏み出す重い決断を致しました。
私はあくまでも農業所得の増大と、地域の活性化、農業の成長産業化を目的とする自己改革しっかり取り組むべきであると考えております。これは政府・与党の考えと一緒であります。

JAグループは今年の秋に第27回JA全国大会を開催し、今後3年間の活動方針を決定いたします。
JAは食と農を築くとして、地域に根差した協同組合として、今後とも農業者・地域の皆さんの付託にこたえてまいりたいと考えております。そのため、今回の自己改革については組織の総力を挙げて強力に取り組む所存であります。

また、本日はせっかくの機会でありますので、その他について3つのテーマを持って、お話をさせていただきたいと思います。

まずはじめに、今年は世界の食糧問題をテーマとミラノの国際博覧会が5月から10月まで開催されます。また、日本の和食が世界文化遺産に登録されるなど、食と農に関する関心が世界的にも高まっております。
ミラノ万博に関して、JAグループはメインスポンサーとして、イベントの開催や「ジャパンデー」への協力など、我が国の農業、JAの素晴らしさを世界に向けて発信をしてまいります。
また、「ジャパンデー」の期間中、ICAの皆さんと一緒に、FAO(国際連合食糧農業機関)やイタリアの協同組合と、世界の食糧確保と持続可能な農業に貢献する共同組合の役割を発信するシンポジウムを開催する予定です。

こうした取り組みを通じまして、日本の食と農、そして協同組合に関する国民理解を図ってまいりたいと考えております。

続いて、東日本大震災からの復旧復興への、JAグループの取り組みであります。
来月、東日本大震災の発生から4年を迎えます。被災地では未だ営農や生活の再建がたたない方や原発事故の風評被害に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。

私は被災地の厳しい環境のもとで、組合員の助け合い、権益を超えた全国からの支援、がれき撤去や被災JAの事業支援など、まさに"共同"という言葉を体現するJA組合員、役職員のボランティア活動に大変感銘を受けました。
改めて、JAが食糧の安定供給だけではなく、地域の暮らしなど、大きな役割を発揮していることを強く感じ、そして誇りに思っております。

今後も、JAグループが農業振興にとどまらず地域組織に貢献する組織であることを、組合員・役職員だけでなく、より多くの国民に理解をしてもらうよう、取り組みたいと考えております。
来月にかけて、東日本大震災の教訓が風化しないよう、メディアのお力をお借りしながらその広報活動に取り組むとともに、一刻も早い復旧復興に向け、助け合いの理念のもと、被災地の目線に立った支援に取り組んでまいります。

最後にTPPに関してであります。
1月末からニューヨークで首席交渉官会合が行われ、その後ワシントンで日米二国間協議が行われたと承知をいたしております。一方で米国では、議会から大統領に交渉権限を付与する法律、すなわちTPAがまだ成立をしていないという事情もあるようでございます。

全国の農業者は交渉の行方について大変不安に思っておりますので、きちんとした情報開示をお願いするとともに、交渉の節目節目で国民各所の意見を聞く場を設定して欲しいと思います。
また、改めて言うまでもありませんけれども、米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの重要品目について、国会決議の遵守をなんとしてもお願いしたいと考えております。

最後になりますが、引き続きJAグループに対するご理解を賜りますようお願いを申し上げ、ご挨拶を終わりたいと思います。ありがとうございます。
萬歳章・JA全中会長(編集部撮影) 写真一覧
ーJAグループとしては関税を特別品目にかけることには反対していると理解しているが、TPPの結果、その関税が下げられた時には、JAとしてどう対応するのか。

TPPにつきましては、国会で衆議院、参議院、農林水産員会での決議がございます。米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、製品甘味資源、この重要5品目につきましては、きちんと守っていきます、という決議がされております。あるいは選挙公約にもにあります。その内容をTPP交渉におきましては遵守を願うということであります。

同時に今、二国間交渉の中では色んなお話がマスコミを通じて出されますけれども、情報開示が国レベルからは一切出てまいりません。当然、守秘義務の中で交渉が行われている状況でありますけれども、そういうことが明らかになった際には、私たちとしては反対でありますので、国会レベルでの批准では、先生方におきましてご理解頂くよう、再度お願い申し上げるということになると思います。

ーJA全中と政府と合意をしたということは、農業組合の活動が損なわれることはないとうことで納得したのか。今回の措置によってどんな不安、懸念があるのか。

萬歳氏:今回、農協改革につきまして、概ね我々の考えと一緒だということで、先般判断をいたしました。

ただ、我々中央会制度の組織改編等が農業所得にどうつながっていくのか、説明が足りない状況にあります。それを明確に政府の方から説明願いたいというのが我々の思いであります。
まさに政府等の議論の中でも、我々の農協の組織の改変につきましての問題と、農家所得の向上というものがなかなかつながらないという思いでございますので、その点も、これから法律案を作る際にも、細部に渡って十分に検討してもらいたいという思いであります。その点がまだ残念な面がございます。

まさに農協改革という成長産業化は、組合員、農家所得を増やすということが基本だと私は思っていますし、政府と一体で、そういう方向性は示してあります。

ーでは、なぜ今回合意にいたったのか。また、監査部門を切り離したとしても、他の組織に機能が移るだけで、事実上は従来どおりJA全中による監督だという記事もある。

萬歳氏:監査制度については、外に出しても内容的には変わらないということを担保するというのが政府・自民党の中の考えかたで示された内容ですので、その線に沿って、きちんと法律案の内容を詰めていきただきたい。これから細部に渡って詰める議論が全中なり、公認会計士協会なり、農水省なりの中で決められると思っている。つまり、外出しをしても同じレベルの内容の監査ができると担保されたものと私は理解しています。

日本の協同組合の組合員制度には、正組合員と准組合員という2種類の組合員が存在します。その中で今回、准組合員という組合員に対する利用制限をルール化するという話がございました。
まさに我々の農業協同組合なるものは総合事業をやっておりますが、准組合員の皆さんのその利用が制限されることは、全国にある農協に大いに関係してくる。つまり農協の力が大いに削がれてしまうということになろうかと、私どもは心配しておった状況でございますので、この度出された案につきましては、それは5年間は状況を見るということになっています。それも含めまして、私共は概ね評価をしたということでございます。

もう一点、今、地方の活性化も我々の大きな役割だと思います、地方創生が日本の大きな政治の目標として色々な施策が講じられていきます。現場実態にあった状況の中で、JAの事業があるべきだという思いの中で、農業振興と地域の活性化が准組合員のサポート役として我々の中で位置づけられるべきだという思いでありますし、協同組合というのは教育が原点にあると私は思っております。まさに共通の考え方、理念をもった同志だとして考えております。

ー事実上何も変化はないということか。

萬歳氏:これから細部に渡って、法律案の作成段階で、いわゆる一つの評価が出るものと思います。

ー土地所有形態の問題もあると思う。つまり、農業の産業化にあたって、大きな会社が産業として農業をやっていくことについては、今の日本の土地所有形態では課題があるのではないか。

萬歳氏:農地法という法律が戦後できて、自作農育成という、戦前の地主小作制度を、まさに自分の農地を持って農業・耕作をするというが基本となったわけでした。まだ農地法上は生きておりまして。耕作権としては、法人の中でいわゆる専有しながら農地としての使用ができますけれども、所有という段階には至っておりません。

これはいわゆる社会資本改革の中で、法人が結果的に収益を産まないという結果になってしまいますと、土地の利用が非常に乱雑化する、スプロール化するという状況になってしまうことが危惧されたということでありまして、自作の中で、所有権は個人の立場で、耕作権は法人で持って有効利用してもらうというのは出来ますけれども、農地に関しては法人の所有権という形までは至っていないというところであります。付け加えますと、農業生産法人という形態では所有もありえます。

ー遺伝子組み換えの作物についての考え方は。

萬歳氏:私どもは、遺伝子組み換えにつきましては直接人間の口に入るものについては、まさに厳しい、ということであります。餌、飼料的なものには入っておりまして、その面につきましては我々は許す段階にありますが、直接口に入るものにつきましては拒否反応がある。そういう活動をされている皆さんもたくさんおられますが、私ども遺伝子組み換えについては注意をしなければならないと思っております。

"慎重に検討を"

会見には「規制改革に関する連携調査団」として来日しているICA(国際協同組合同盟)のポーリン・グリーン会長、ジャン・ルイ=バンセル理事も同席。

グリーン氏は、「日本の規制改革の行方が世界の協同組合員の活動にも影響を与えうる」とし、動向を注視してきたという。「世界トップ300の協同組合の売上高は年間で合計2.2兆ドルに上り、英国のGDPよりも大きく、その伸び率は世界のGDPの伸び率に比べ拡大幅が大きい」こと、また、「共済(保険組合)の運用資産は市場の29%に当たる8兆ドルという規模で、市場全体の成長率12%を上回る28%を記録した」ことなどを紹介、海外では協同組合事業が上場企業と対等以上のビジネスを行っていることを強調。

また、協同組合には実体経済だけでなく、社会的な貢献、コミュニティーへの貢献などの側面もあるとし、「日本の議論に干渉するつもりはないが、農業が元気な国には非常にしっかりした、頑張っている農業協同組合がある」と指摘。「規制改革を行うことで、本来意図しない結果が生まれてしまうことが世界で経験されている」と、農協改革に対する懸念も示した。

バンセル氏は、政府・国会と協同組合の連携、協同組合についての理解、教育が重要だと指摘。 また、フランスの協同組合銀行グループの会長を務めている経験から、金融危機の際に協同組合よりも銀行のほうがダメージが大きかったことが示されているとし、「所得を増やしていくことは大変良いことだが、そのためには法律や、様々な数字も十分勘案しなければならない。生み出された富がどこに帰属するのか、どこに移されなければならないか、ということも考えなければならない。株式会社化・一般社団法人化することが、どうして所得の増加につながるのか、わからない部分もある」と述べ、農協改革が与える影響について、多方面に渡って検討をしてほしいとした。