情報発信をする前に - 赤木智弘
※この記事は2014年12月20日にBLOGOSで公開されたものです
群馬県伊勢崎市に本社を置く食品メーカー「まるか食品」の製品にゴキブリが混入していたことなどを理由に、商品の回収並びに生産自粛と、その販売を休止している。(*1)と、メーカー名で言っても、さっぱりピンと来ないが「ペヤング ソース焼きそば」を発売しているメーカーと書けば、東日本の人間にはピンとくるだろう。
問題のきっかけは、Twitterだった。虫が混入したペヤングの写真がTwitterにアップされた。
商品を回収しに来た、まるか食品の担当者からは「結果がでるまで元のtweetを消しておいてほしい」などと言われて不信感を抱いたという。(*2) こうしてネット上で情報が広まる中で、外部委託機関からの調査結果が出て「混入の可能性は否定できない」ことから、生産自粛などなどが決まったという。
まるか食品側の対応が後手後手に回ったという話はリンク先(*2)の記事を読んでもらうとして、一方で僕は、こうした異物混入などのイレギュラーな事態に直面した際に、Twitterなどに書き込んでしまうことの問題を考えてみたい。
スマートフォン以前から、携帯電話にカメラが付き、インターネットにつながっているのが当たり前になって以降、数多くの「写真」がネットに掲載され、それが様々な事柄を引き起こしてきた。
今回のような食品への虫などの混入の事例は、ネットを探せば無数に見つかる。
それ以外にも、恋人同士であった頃に撮影したセクシーな写真が、別れたあとにばら撒かれる「リベンジポルノ」。店舗の冷凍庫などに入り込んで不衛生な状況を撮影しちゃったような事件。また、事故現場などで他人の不幸を携帯で無思慮に撮影してしまう問題。などなど。
僕達が「特別な何か」に接した時に、ついそれを撮影し、それを世界に広めたくなってしまう衝動。そうしたことは確かにあるのだろう。
しかし、そうした行動で発生する責任に、僕たちは自覚的でいるのだろうか?
リベンジポルノは、元々の目的が復習であり、そのことに対しては法整備をすることで対応ができる。
また、自ら冷凍庫に入って、それを自慢気に公開してしまい、それで仕事をクビになったり損害賠償を求められるのは自業自得だといえる。 これらについてはどちらもアップしている人は「加害者」であり、これらは現行法を適用するなり、足りなければ法整備をするなどで、最低限の責任を負わせることはできる
一方で、事故などの写真の公開や、今回のような虫混入の画像などは、それをアップしている人が「傍観者」や「被害者」であり、その事自体に責任を負わせることはできない。
しかし、本来であれば「虫が入っていた」という情報だけで済まされていたものが、画像付きでリアルタイムに配信される。そのことは食品メーカーにとって「恐怖」であるとも言える。その恐怖を与えているのがアップをする人だとすれば、消費者は純然たる「被害者」とも言えないのではないか。
企業を甘やかすわけではないが、食品メーカーで異物を混入させたいと思っているメーカーは無い。しかし、ある程度の確率で混入事故は起きてしまう。混入率の多少は工場にもよるが、決してゼロにはなりえない。
そうしたなかで、工場としてはある一定確率で起こりうることと、消費者としては決してあってはならないことの間をすり合わせるのが「交渉」であり、交渉は決して単純に問題の隠蔽を意図したメーカー側の責任逃れではないのである。
これを責任逃れと一方的に断罪するのであれば、メーカーと消費者の交渉の余地は失われてしまう。メーカーは機械的に商品券などを送って問題をナァナァにしようとするであろうし、逆に消費者側はTwitterなどにアップをして注目をあびるという利益を得ようとするだろう。それはあまりにギスギスした社会ではないだろうか。
すべての人が情報発信できるデバイスを取得している今、誰かのスクープが社会を大きく変革させることは十分にありえる。一方で、あまりに情緒的にすぎる個人の感覚が、他者の共感を呼び、他人に必要以上のåダメージを与えることもある。
自分の身の回りで衝撃的なできごとに出会い、それを撮影した時、それをアップするのか、自分のデバイスに秘めておくのか。こうした情報発信は慎重に選択しなければ、自分の思った以上の事態を引き起こすし、また自身が批判される立場に変わることすらあり得る。
写真をアップするなとは言わないが、こうしたことを少しだけ深く考える時間を作って欲しいと思う。そして、起きた事態に対する責任だけはちゃんととってほしいと思う。
ペンは剣より強いというが、強いペンは剣より深く、他人を傷つける。自分に対する自戒も込めて。
*1:異物混入に関する調査結果と商品販売休止のご案内(まるか食品株式会社)
*2:なぜ「まるか食品」ばかり叩かれる? 「虫混入」で評価分かれた日清vsペヤング(J-CASTニュース)