集中力が「金魚レベル」になるスマホ漬けの脅威
連日のようにスマホやタブレッドを使っている子どもの脳には、ある異変が起こっています(写真:Mills/PIXTA)
今、GIGAスクール構想による教育機関のデジタル教科書採用に疑問の声が上がっています。内容の理解度低下や脳への影響が懸念されているためです。
東北大学加齢医学研究所所長であり、ノーベル賞決定機関カロリンスカ研究所の客員研究員でもある川島隆太氏が監修した『子どものデジタル脳 完全回復プログラム』(飛鳥新社)から一部抜粋・再構成してお届けします。
私は脳を専門に研究している脳科学者です。現在所属している東北大学以外では、スウェーデンにあるノーベル賞決定機関「カロリンスカ研究所」で研究をしてきました。この研究所は、最近、『スマホ脳』(新潮社)で有名になったアンデシュ・ハンセンも学んだことで有名かもしれません。
私は宮城県仙台市の公立小・中・高校に通う7万人の子どもたちの学力や生活習慣のデータを、10年間追跡調査しました。私は10年前から、スマホやタブレットを連日のように使っている子どもの学力が「妙に低い」ということが気にかかっていたのです。
そこで、スマホを使う頻度の高い子どもの脳をMRI装置で調べたところ、学力を含む、子どもたちの認知機能に大きく関わる大脳の約3分の1の領域と、大脳白質(神経線維)の多くの領域の「発達が止まる」という衝撃の結果が得られたのです。
SNS、特に即時的メッセンジャー(LINEなど)を使った実験結果もあり、「スマホやタブレットを使っている時間の総量」よりも「LINEをやっている時間」のほうが学力を下げるデータがはっきりと出ています。
LINEはコミュニケーションツールなので、非常に気持ちを惹きつけやすく、スマホが机の上にあったり、カバンに入っていたりするだけでも気になってしまうことは、心理学の研究でも明らかです。本書の表現のように「麻薬的」な働きをするのでしょう。
IT企業が隠したい「真実」
さらに、IT企業が隠したい「不都合な真実」についても触れましょう。有名なのが、カナダのマイクロソフトの研究です。
2015年に調査した結果では、カナダ人の成人のなかに「たった10秒」しか集中がもたず、「金魚と同レベルの集中力しかない」人がいることを明らかにしました。
マイクロソフトは主な原因をICT(通信科学技術)やソーシャルメディアの活用と結論づけていますが、実はこれ、マーケティング戦略向けのプロモーションとして発表されたデータなのです。
つまり、「現代人は集中力がないので、ネット広告は10秒以内で作ろう」と勧めているわけです。
スティーブ・ジョブズをはじめとするシリコンバレー長者たちは、この事実を知っているからこそ、自分たちの子どもたちをデジタル機器から遠ざけるのでしょう。
学級崩壊が「激増している」背景とは
私は学校関連の会合に出席することも多いのですが、小学校では「学級崩壊が激増している」といった教育関係者の悩みをよく聞きます。
「教師に暴言を吐く」「授業の妨害をする」といった非行・暴力行為は低年齢化し、逆に「授業中、ウロウロと歩き回る」などの、従来は低学年の子どもに見られた行動抑制・社会性の未発達は、高学年にも見られることが増えてきているそうです。
学童期の発達障害が増加してきていることは、日本だけでなく世界的な傾向でもあります。
日本でも2006年から2019年のあいだで、ASD(自閉症スペクトラム障害)は6.5倍、ADHD(注意欠陥多動性障害)は14倍、LD(学習障害)は11.5倍に増えていると試算されています。特に数の多いADHDは、児童の10人に1人いるとも言われています。
これらの状況に頭を悩ませる児童精神科医や教師は、「社会や環境のせいだろうか?」「家庭の問題なのか?」などと答えを出せないままでした。
もちろん、家庭や社会といった環境の複雑な要因も見逃せませんが、シンプルに「デジタルスクリーンの影響」といった視点で見直してみると、意外なほど簡単に解決法が見つかるでしょう。
ここまでお話ししたことで「デジタルデトックス」に興味を持ったとしても、すでにデジタルとは切っても切り離せない毎日を送っていると、「デジタル機器のない生活なんて無理」「スマホがないと、子どもが友だちとコミュニケーションをとれない」など実践が難しいと感じるかもしれません。しかし、それらは見方を変えれば簡単に解消される悩みなのです。
1つ目は、私がPTAなどで話していて感じるのですが、親自身に「スマホ中毒」の方が多いこと。親のほうが「デジタル機器がないと暮らせない」と信じている人たちも多く、実は子どもを口実にしているものの、実際は「親自身、スマホがないと困る」から実践に踏みきれないケースも多いのです。
これについては、「親がデジタル機器と上手に付き合うためのヒント」として、本書に丁寧に書かれています。
2つ目については、中学生のみならず、小学生ですらスマホを持っていることが増えた時代です。「子どもが仲間はずれにされるかも」と不安に感じるのも仕方ないことでしょう。
しかし、私が調査した生徒の中には、自分の意志で「スマホを持ちません」という子が、5%ほど存在しました。この子たちがいじめの対象になっているかというと、まったくそんなことはなかった。むしろ、クラスでリーダー的な立場として堂々としている子も多く、「スマホを持っていないからいじめられる」とは、必ずしも言えないことがわかります。
デジタル脳からは脱却できる
2020年に東京で小学生が、2021年に北海道で中学生がいじめで亡くなる事件がありました。これらの事件のように、大人の目を逃れた陰湿ないじめがSNS上で行われることも増えており、むしろスマホやタブレットが「いじめの温床」になっている事実もあります。
「LINEで学力が下がる」と説明しましたが、実は、「デジタルの使いすぎでコミュニケーション力が落ちる」「スマホ依存の傾向が出ている子は、他者との共感性が低く、攻撃性が高い」といった調査結果もあるのです。
皆さんの家庭内や学校、地域社会で目にする子どもたちのさまざまな問題行動や学力低下の問題は、ひょっとすると「デジタルスクリーン」の罠にかかっているだけかもしれない。そして、保護者の強い意志さえあれば「デジタル脳」は脱却できる。
このことを、すべての親や教育者に知っていただきたいと思います。
(川島 隆太 : 東北大学加齢医学研究所 所長)