家庭的でありながらも美しい料理が人気の料理研究家の大原千鶴さん。55歳を超えて、忙しくても、暮らしを段取りよくまわせたらいい。そう考えて、自宅のキッチンを改装しました。それを機に、心地よい暮らし、空間づくりを心がけるようになったそう。そんな大原さんの暮らしについて教えてもらいました。

大原千鶴さんが心がける「昨日より今日、今日より明日、心地よい場所に」

本書に描かれている大原さんの暮らしは、心地よさそうであることはもちろん、読んでいると不思議とワクワクしてきます。

「導線」を意識した大原さんのキッチン<写真>

大原さんはどのように今の心地よい生活を構築されていかれたのでしょうか。

 

●大原さんが意識したキッチンの動線

「毎日の暮らしの中で、『こうした方が便利になる』『快適になる』ということをいつも考えています。

日々、なにかひとつでも改善できたことがあると毎日が楽しくなりますよね。例えば、結婚した当時も、主人の母の古いキッチンの、火力が弱いガス台だけでも新しくしたいと自分で取りかえたり。少しずつカスタマイズしていって、昨日よりも今日、今日よりも明日、少しでも便利になるように、と暮らしている延長線上で、それに合わせて暮らしを変えてきた、という感じですね」

あつらえのキッチンがあれば、多くの人は「こんなものだ」と思って受け入れてしまう部分はあります。でも、大原さんは少しでも便利なように、と改善をしていく中で、自分が目指すキッチンの方向性が自然と決まっていったといいます。その中で、重要になってくるのが日々の動線です。

「じつは、動線は人によってそんなに大きく違うものではないんですよね。だいたい冷蔵庫から出したものを洗って切って、調理して盛りつけて…。そうやって毎日使っていると、使っていないものって意外とたくさんあるんです。

キッチンで使うものはキッチンに置いておかないといけない、と思っていますけど、そんなことはないんです。たまにしか使わないミキサーとか、ホットプレートは、思い切って違う収納スペースにしまうことも。動線上に要らないものがあると、無駄な動きができてしまうんですよね」

 

●好きでも使わなかったら処分 洗練されていくもの選び

使わないものはどんどん処分していっているという大原さん。フリマアプリも活用し、フリーマーケットにもよく出店していたのだとか。そのため、大事にしているもの以外で、使わないのに置いている、というものはほぼ家にはないと言います。

「ストイックになりすぎるといけないから、『これはどうしようかな』というものは決めた箱に入れておいて、しばらくしてふんぎりがついたら処分するようにしています」

そうしているうちに、自然と自分が使っていきたいと思うものも決まっていくのだそう。

「例えば、食洗器を使っているんですけど、そうするとおしゃれやな、と思って買った食器でも、形が複雑だったり、欠けやすかったり、という器はどうしても使わなくなってきます。

だから、普段の生活はスムーズにストレスなく暮らしていけるように、食洗器にもかけられて頑丈で、そんなに高くなくて使ってて嫌じゃないもの、使っていて幸せになるものをセレクトするようにしています」

そのため、食器も定期的に入れ替わっているのだそう。好きだと思って買っても、使わなかったらどんどん処分。料理を盛って映えない器も頻度は当然落ちていきます。

「料理が映えるという点では、やっぱり無地のものがいいですね。ちょっと汁溜まりがあるような感じ。まったいらなお皿っておしゃれに見えますけど、盛りにくいし、綺麗に盛るのにはストレスがかかるんです。それが、少し窪みがあるだけでも使いやすくなります。色は、白でも風合いのある乳白色のものだとか、ベージュ系や少しピンクが入っているものの方が、お料理が明るくなります。ブルー系も、温かみのあるものの方が料理は絶対においしそうに見えます」

●キッチンで育む 成長した子どもとの関係性

お子さんが成長されて、お子さん自身も料理をする機会は増えつつあるそう。収納についてもその点を踏まえた配慮がされています。

「決めた場所からあまりものを動かさないようにしていますね。自分のやりたいように、と思って動かしすぎると分からなくなってしまうから。場所を決めるまでは、もちろん動かしたりもしましたけど、今は決まった場所にあるので、子どもたちも迷わずにある程度のことができるようになっています」

昔は家族そろって囲んでいた食事も、時が経つにつれて変化していくもの。大原さんとお子さんの関係も、料理を挟んで変化を迎えていました。

「この子家で食べへんわ、と思っていたのに今帰ってきたわ、みたいなときに、冷蔵庫にあるものなんかでつくったりすると、新しい料理ができたり、発見したり。そういうのもおもしろいな、と思ってやっています。

娘は私が料理をつくり終えたあとに、お菓子をつくり出すことがあるんですけど、その横で私はお酒を飲みながらいろんな話を聞いたり。面と向かってよりも、なにか作業しながらの方が話せるっていうのかな。そういうところはいいな、とも思っています」