世界最大の半導体製造企業であるTSMCは台湾を本拠地としており、多くの技術者が台湾で暮らしています。新たに、中国企業が台湾の技術者に対する違法な引き抜き作戦を展開しているとして、台湾の捜査当局が約100社を対象に捜査を進めていることが判明しました。

'Tip of the iceberg': Taiwan's spy catchers hunt Chinese poachers of chip talent | Reuters

https://www.reuters.com/world/asia-pacific/tip-iceberg-taiwans-spy-catchers-hunt-chinese-poachers-chip-talent-2022-04-08/

半導体は日本を含む世界中の国々で製造されていますが、半導体の微細化に追従している半導体製造企業は少なく、「2019年12月時点では10nm未満の半導体の92%が台湾で製造されていた」という(PDFリンク)分析結果が報告されるなど最先端半導体市場で台湾が一人勝ちしている状況が続いています。この状況を打破するべくIntelが2兆円規模のファウンドリサービス拡充戦略「IDM 2.0」を発表したり、日本政府が半導体成長戦略を発表したりと、各国・企業が半導体開発のための資金・人材確保に動いています。

中国でも同様に半導体技術の開発に力が注がれており、世界中から優秀な技術者が集められています。中国企業が台湾の技術者を雇用すること自体は違法ではありませんが、台湾の法律では中国企業が半導体サプライチェーンの一部に投資することが禁じられており、投資が禁止されていない分野でも厳しい審査を通過する必要があります。このため、中国企業が台湾で合法的に半導体事業に関わることは困難とされています。

技術者の確保を急ぐ中国企業は、技術者に対して台湾よりも2〜3倍高い給与を支払うとアピールしており、合法的な手段での技術者確保を目指しています。これに対抗するために、台湾に拠点を置く企業は福利厚生を充実させて技術者の流出を防いでいます。また、台湾政府は「中国に技術情報を漏らした者に対して最高12年の懲役を科す」という法律を制定。さらに2020年12月には法務省管轄のスパイ対策機関に技術者の流出を防ぐ専門チームを立ち上げるなど中国への人材・情報流出対策に力を入れてきました。



そして、2022年4月には台湾調査当局の高官が「半導体技術者やその他のテクノロジー人材を引き抜いている中国企業約100社」に対して調査を開始したことを明かしました。

上記の状況の中、中国企業は人材や情報を入手するために非合法な手段を用いる場合があります。例えば、捜査中のケースには「上海の半導体企業が『台湾のデータ分析企業』を装って台湾から中国へ半導体の設計図を送信している」といったものがあるとのことです。