長期投資で複利の恩恵を享受するには、狼狽売りを避けることが重要。つまり、暴落への心の備えが大事だ (写真:SB/gettyimages)

長期投資で重要なのが、狼狽売りを避けること。複利の恩恵を得るためにも重要なポイントですが、暴落時の恐怖は経験した者にしかわからないのもまた事実でしょう。そこで重要なのは「暴落は最悪3年続くと考えること」だと、サラリーマン投資家の長期株式投資氏は語ります。『オートモードで月に18.5万円が入ってくる「高配当」株投資』から一部抜粋・再編集してお届けします。

すべての投資家が株式投資を続けていくうえで避けては通れない、そして、過去に多くの個人投資家が株式投資をやめてしまった最大の原因である「株価暴落」について解説します。

株式市場において、暴落は定期的に発生しています。私が株式投資を始めた2004年から数えても、2006年のライブドアショック、2007年のサブプライム危機、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2015年のチャイナショック、2016年のブレグジット、2018年のVIXショックと世界同時株安、2020年のコロナショックと、数年おきに暴落が発生しているのです。

株式投資の歴史を少し振り返っただけでも、「暴落は不可避」という事実が確認でき、恐怖を感じますが、しっかりと準備しておくことで、株式市場から退場させられることはなくなります。

とはいえ、実際に暴落が起こると、運用資金が急激に減少していく事態に直面し、多くの個人投資家は冷静な判断ができなくなってしまいます。苦労して貯めたお金を投資しているので、これは当然のことでしょう。

この精神的なダメージを緩和するためにも、過去の暴落で何が起こったのか、どのように振る舞えばよかったのか、その歴史から学んでおきましょう。

「下落率の高い銘柄を買う」という戦略

最悪をあらかじめ想定することは、株式市場で生き残るうえで非常に大切です。想定していなかった事象が発生すると、対処するのに多大な労力と困難をともないます。

しかし、暴落が起こった時にどうするのかをあらかじめ決めておけば、パニックになって相場から退場させられるという最悪の事態だけは、少なくとも回避できるはず。

では21世紀の株式市場を振り返って、最悪を想定するとしたら? 100年に1度の暴落と言われたリーマンショックが妥当でしょう。また、直近のコロナショックも、10年に1度は起こりえる暴落として認識しておきたいところです。

それでは、個別株がどの程度の下落となったのか、具体的に数字を見ていきましょう。


(出所)『オートモードで月に18.5万円が入ってくる「高配当」株投資 ど素人サラリーマンが元手5万円スタートでできた!』(以下同)

(外部配信先では図表や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

上の図は、日本を代表する大企業の株価が、コロナショックでどれほどの影響を受けたか、コロナショック前の株価とコロナショック後の株価を比較したものです。

また、同銘柄におけるリーマンショック時の下落率も掲載しています。コロナショックでは数カ月という比較的短期間で株価が戻りましたが、リーマンショックでは数年をかけて最安値をつけた銘柄も少なくありません。

長期間にわたって株価が低迷する事態も起こりえることは、あわせて知っておきたいところです。

これまでの暴落では、とくに金融やリース、建設機器等の下落率が高くなっています。ただ、下落率の高い銘柄は、株価が反転して上昇局面に入った時の上昇率も高くなります。なので、暴落が起こった時には、そのような下落率の高い銘柄を中心に買っていくという戦術を取ることもできるのです。

また、株価に過熱感があると感じている時は、暴落時に下落率が小さいことが予想される通信や医薬、食料品等の生活必需品関連株を中心に買っていくのも、暴落耐性を高めるという観点から、選択肢としてはありだといえるでしょう。

日経の1日の下落率ランキング20

暴落が発生した時に、個別の銘柄がどの程度下落する可能性があるかを学びました。

続いて、日経平均株価が1日でどの程度下落するのかも、歴史から学んでおきましょう。


上の図をご覧ください。日経平均株価の下落率ランキング上位20日です。ランキング1位は1987年のブラックマンデー、2位は2008年のリーマンショック、3位は2011年の東日本大震災となっています。直近では、2016年のブレグジットに関連した暴落が、下落率7.92%で9位にランクインされています。

ただ、その後はランキングに変動はなく、1日当たりの下落率という観点からは、最近は大きな暴落が発生していません。

また、同じ年にこの規模の暴落が起こっているのは、2008年リーマンショックの7回、1953年スターリンショックの2回だけであり、暴落は決して頻発するものではないことも読み取れます。

実際に暴落が起こった時に、株価の下落がどの程度の期間続くのか、見通しが立たないと不安な気持ちになって、「もう株式投資をやめてしまおう」と思うかもしれません。

パニックの中で精度の高い見通しを立てることは、極めて困難でしょう。この点も歴史から学び、事前に最悪を想定しておくことで対処可能です。


図3をご覧ください。21世紀における主な暴落時の下落率と、最安値をつけるまでの下落期間が記載されています。図を見ていただければすぐに気がつきますが、下落率も下落期間もまちまちです。

暴落が発生しても、その日のうちに底値をつけたものもあれば、サブプライムローン危機とリーマンショックでは1年3カ月程度、また、ITバブル崩壊のように3年程度かけてジリジリと底値を切り下げていくパターンもあります。

しかしながら、私たちが想定しておかなくてはならないのは、最悪の事態です。したがって、ITバブル崩壊を参考にして、「3年程度」は下落し続ける可能性を念頭に置いておいたほうがよいでしょう。

失うことは得ることより「2倍つらい」理由

10万円の利益を得た場合と10万円を失った場合、金額は同じ10万円ですが、損失は利益よりも心理的な影響を大きく受け、それはおおむね2倍程度と言われています(プロスペクト理論と呼ばれています)。

つまり、10万円の損失時の嫌な思いを打ち消す喜びを得るには、20万円の利益が必要ということ。これは非合理的な感情のように思えますが、悪い出来事が起こった時に強い恐怖を感じることは、生物として生き残るための本能としては合理的な感情とも考えられます。

とはいえ、株式投資の世界では、この感情はリターンの阻害要因となるため、コントロールしていく必要があります。

株式に限らず、投資は安い時に買って、高い時に売らなくては、リターンを上げられません。感情のおもむくままに売買していては、どんどんとお金は逃げていってしまいます。

人間の本能に逆らう行動となりますが、株価が上昇している時には怖れながら、そして株価が下落している時には積極的に投資していくことで、リターンを得ることができるのです。

さて、ここまで、暴落は定期的に発生すること、暴落が起こった時にはどの程度株価が下落するのか、下落相場はどの程度の期間続くのか、そして暴落が起こった時に私たちはどのような感情を抱くのかを学んできました。

それに加えて当然ですが、暴落が起こると一時的に運用資産が減少します。このことを喜ぶ投資家は少ないでしょう。

しかし、暴落や下落相場は、私たち長期投資家にとって資産形成のチャンスとなり、喜ばしい状況と考えることもできるのです。

理由はこうです。株価が下落すれば、それ以前よりも安く投資ができます。

業績や配当が安定している銘柄へ投資ができていれば、暴落時においても減配されることはめったにありません。仮に減配されても、株価の下落率よりも減配率が大きくなることは少なく、多くの場合、これまでよりも高い配当利回りで投資することができるようになります。

つまり、株価が低迷している期間が長くなれば長くなるほど、安く投資できる機会が増えるのです。


しかし、多くの人は暴落時に、運用資産が急激に減少していくことに耐えられず、狼狽売りして株式投資をやめてしまっているのが現実でしょう。非常に残念な話ではありますが、株式投資の歴史においては、このようなことが何度も繰り返されてきています。とくに投資初心者ほど、暴落が起こった時にはパニックに陥りやすく、安値で株式を売却してしまっています。

これは長期の資産形成において、絶対におこなってはならない行動です。人間は、自分が考えているほど強くありません。だからこそ、事前に投資や運用の仕組みを作り上げておき、本章で学んだように、暴落が発生することで何が起こるかを事前に知っておく必要があるのです。

(長期株式投資 : サラリーマン投資家)