異様な中日ベンチ「やばくないか?」 物議醸した“代打三ツ間”…本人が語る真相
2020年7月7日のヤクルト戦で起きた“珍事”…当事者の三ツ間卓也氏が回顧
2年前の七夕、SNS上で話題となったワードが、プロ野球ファンをざわつかせた。「代打三ツ間」。延長サヨナラのチャンスで、打席に立ったのは中日のリリーフ投手だった三ツ間卓也氏だった。ベンチに野手が足りなくなったことで生まれた“珍事”。打席に立った当の本人は、意外にも重圧を感じていなかったという。
2020年7月7日、ナゴヤドーム(現バンテリンドーム)でのヤクルト戦は息詰まる展開だった。中日は6回に先制を許すも、8回に同点に。両者譲らず延長に入り、10回に1点を勝ち越された。そんな状況の中、ベンチ裏のブルペンも、慌ただしくなっていた。
投手コーチからは、救援投手たちが代走で出場する可能性があると告げられていた。まだ登板していなかったのは祖父江大輔、鈴木博志、ルーキーの橋本侑樹、そして三ツ間氏ら。「ネクスト(バッターズサークル)までは行ってもらうかもという話になり、防具をつけてストレッチはしていました」。といっても、「ネクストまでだろう」と落ち着いて構えていた。
試合は風雲急を告げる。10回1死一、三塁から平田良介がライナー性の右飛を放つも、三塁走者の遠藤一星は一か八かのタッチアップはせず。「二塁は空いてる。あれ? 計算上やばくないか?」と三ツ間氏も思った。2死一、三塁で打者は京田陽太。その次は4番手で10回に登板した岡田俊哉。嫌な予感は的中した。
なぜ白羽の矢が立った? 「ロングティーは結構飛ばす」
「ベンチで待機してくれ」
そう指示され、ブルペンから異様な雰囲気が漂うベンチへ。白羽の矢が立ったのには理由があった。鈴木は打撃練習で鋭い打球を飛ばすことが少なく、橋本はまだ新人。三ツ間氏は筋骨隆々の体で「ロングティーは結構飛ばすんですよ」とパワーには自信があった。
予想通り京田は歩かされ、2死満塁に。一打逆転サヨナラの大チャンスで、投手から投手への「代打三ツ間」が告げられた。
マウンドには、守護神の石山泰稚。右打席に立ち、うまく気持ちを切り替えた。「抑えの人の球を直近で見る機会なんてない。どんな球を投げるのかまず見極めよう」。配球も考えながら、ファウルでなんとか食らいついた。しかし、結果的には空振り三振。七夕の願いは叶わなかった。
チームにとっては痛恨の敗戦だったが、奇しくも名前が広く知れ渡ることに。2021年限りで現役を引退し、開設したYouTubeチャンネルは“幻の打撃姿”も公開。Tシャツ化も実現した。「自分のことだけ考えるなら、いい経験にはなりました」。思い出しても少し苦笑いになる、まさかの大役だった。(小西亮 / Ryo Konishi)