野球人口回復へ、少年からプロまで一体に 画期的な「競技者登録システム」導入へ
正確な野球人口や推移、野球歴を把握して普及や振興に活用
時に“国技”とも言われる野球だが、競技人口の減少は大きな課題となっている。対策を講じる際にハードルの1つとなっているのが、少年野球からプロ野球まで幅広いカテゴリーの組織がそれぞれに活動していること。野球界全体の現状を正確に把握し、効果的な策を打つために導入されたのが「競技者登録システム」だ。
歴史があり、各団体や組織が単独でも活動できたために野球は他競技から後れを取った。サッカーやバスケットなどでは既に一般的になっている「競技者登録システム」が、野球界にも導入された。少年野球にはじまり、中学や高校、社会人やプロまで老若男女、チームに所属している選手を一括管理するシステムだ。
現在どのチームに所属しているのか、いつまでどんなチームで野球を続けているかなど、選手個人の野球歴が分かる。今年からテスト導入する全日本軟式野球連盟の小林三郎専務理事は、新システムへの期待を口にする。
「全ての選手に登録してもらえば、正確な野球人口、推移を把握できます。軟式から硬式に移行する選手、大学や社会人まで野球を続ける選手などを知ることで、野球振興や活動、指導者講習など幅広い活動に生かせると思います」
各カテゴリーや組織で濃淡はあるものの、これまでも選手登録や野球人口拡大を目指す取り組みは実施されていた。ただ、それぞれの活動成果や課題が共有されない問題があったという。小林氏は「各組織がバラバラでした。このままでは大変なことになると野球界全体で認識し、一体感を持って取り組んでいこうという気持ちの表れと言えます」と新システム導入の背景を語る。
発案は5年前、歴史のある野球界ならではの苦労があった
野球界の慣習を変えるのは想像以上に時間がかかる。最初に競技者登録システムの話が出たのは約5年前。どのカテゴリーの団体や組織も「早急にやる必要がある」との意識は共通していた。だが、野球界の組織は複雑で数が多い。全日本軟式野球連盟を例にとっても、全国の大学や女子野球の連盟、各都道府県連盟など6つの加盟団体を管轄している。
6つの加盟団体の下には小学生・中学生の部などが細かく分かれている。組織に所属するチーム数や選手数によって地域の事情も異なる。チームが県や市の組織に属す地域もあれば、区単位で所属が変わるところもある。シニアやボーイズといったクラブチームと、中学校の野球部に接点がない地域もある。システムの説明をするだけで膨大な時間を要する。競技者登録には個人情報の入力や費用もかかるため意見や反発もあり、調整は簡単ではなかった。
それだけの困難があってもシステム導入が前に進んだのは、野球人口の減少に歯止めがかからないためだ。全日本軟式野球連盟によると、40年前に2万8000以上あった学童野球チームは、1999年度に1万5000を割った。そのまま減少傾向は続き、2020年度は1万607まで減っている。日本の人口自体が減少し、子どもたちの野球以外の選択肢が増えたとはいえ、野球離れは深刻だ。
競技者登録システムが機能すれば、選手の増減が地域やカテゴリーで明確になる。課題が具体的になったり、成功例を他の地域で生かしたりできると期待されている。システム構築は目的ではなく手段。活用してこそ、野球界の未来が開ける。(間淳 / Jun Aida)