2021年にフルモデルチェンジされたMT-09とトレーサー9GT、マイナーチェンジされたMT-07に試乗。僕はこの日にいちばん印象に残ったモデルをインプレッションしようと決めていた。前日まではMT-09が本命だったが、僕がインプレッションしたくなったのはトレーサー9GTだった。

走るシチュエーションや自分のコンディション、その時の欲しいバイクになってくれるトレーサー9GT。ツーリングもスポーツも楽しい!

トレーサーのパッケージは、ありそうでないヤマハのオリジナルだ。888ccの3気筒エンジンを搭載し、IMU(慣性測定装置)を使った一般的な電子制御はすべて搭載。ここにKYB製の電子制御式サスペンションを追加し145万2,000円という価格を実現している。価格帯を上げれば外車勢を入れて何台か同ジャンルが思い浮かぶが、この価格帯でフル装備はかなり頑張っている。

スタイルも独特。一見アドベンチャーにも見えるが、ロードタイヤを履き、アドベンチャーにありがちな威圧感はない。身長165cmの僕にも手に負えない感はなく、どちらかといえば逞しいバイク、という印象だ。

3.5インチのTFTメーターをダブルで装備。左は速度や電子制御の状況、右はトリップや燃料計、クルーズコントロールの設定速度など、12個から4個を選んで表示可能

サスペンションはKYB製のセミアクティブ。モードを変えると減衰力の特性が変化する。本来減衰力のアジャスターがある部分からはコードが飛び出しており、リヤにはストロークセンサーも装備。プリロードは前後とも機械式。リヤは油圧のプリロードアジャスターを装備しているため、タンデム時や荷物積載時は簡単に調整できる

世界で鍛えられたトレーサーブランド

発売された2015年当初は、MT-09の派生モデルだったが、この6年間、世界中で鍛えられトレーサーというブランドを確立。今回のモデルチェンジの際もプラットフォームという考えではなく、最初からトレーサーありきで開発が進められたはずだ。
並列3気筒エンジンは、MT-09同様に845ccから888ccに排気量を拡大し、120psを発揮。
フレームは軽量化を徹底しつつ、横剛性をアップ。MT-09からはプレートを追加し、専用のシートレールを採用することでタンデムや荷物の積載に対応。スイングアームはMT-09より60mm長く、よりオールマイティなシチュエーションに対応し、安定感のあるライダーを急かさないハンドリングを実現している。

マットグレーがいまっぽくていい感じ。写真のシルバーの他、レッドも用意。シート高は前モデルから40mm低く設定し、2段階に調整できる

845ccから888ccに排気量をアップした並列3気筒エンジン。直感的に使えるわかりやすい電子制御が、その魅力をさらに引き出す

ライダーを疲れさせない、遠くへと誘う電子制御

走り出して最初に感じられる電子制御はアップ&ダウン対応のオートシフターだ。これまでヤマハのこのクラスのシフターは、アップのみでしかも高回転域でしか機能しなかったが、トレーサー9GTは低中速域でもスムーズに作動する。発進時と停止時、そしてUターンなどのシチュエーション以外でクラッチレバー操作は必要ないということだ。

跨ると目に飛び込んでくるトレーサー9GT専用のメーターもいい。デザインが個性的だし、視認性が高く、電子制御の状況を判断しやすい。走行モードは「1」~「4」の4種類から選べ、スライドコントロールシステムやリフトコントロールシステムも装備する。

スクリーンは5mm単位で10段階に可変。IMUでバンク角を検出するコーナリングランプも装備。これが夜間走行時の疲労を軽減する

安定感と軽快感をバランスさせる、ヤマハのハンドリングの上手さ

ハンドリングはGTの名にふさわしい穏やかさ。この手のモデルが背が高く感じるため、高いところから一気に倒れるダイナミックなハンドリングが多いが、トレーサーはダイナミックさよりも手の内になる安定感と扱いやすさが光る。

これは前モデルよりもフレームのヘッドパイプの位置を30mm低く設定していることも大きい。ロール軸と重心を下げ、さらに各部を軽量化してマスを集中させたことで、向き変えの精度が飛躍的に向上しているのだ。コーナーの速度や曲率を問わず一定の感性で曲がれる安心感は、初めて走る峠、そして長距離を走破し少し疲れている時なども心強いはずだ。

今回はサーキットにパイロンスラローム区間を設けての試乗だったが、サスペンションはスポーティなA-1よりも柔らかめA-2がよかった。A-2だとスロットルワークで車体姿勢をコントロールでき、タイトな切り返しでの軽快性もアップ。パワフルなモード「1」の、公道ではありえないスロットル全開域では車体を揺らしながら加速するが、その後の収束性が良いため不安はない。

また、今回はテストできなかったが、グリップヒーターやクルーズコントロールも装備している。これはツーリングの必須装備である。

もしかすると時代の流れもあり、前モデルのMT-09から乗り換えるライダーが増えるかもしれないと思った。コンフォートにもスポーツにも走れるトレーサー9GTは、週末を欲張りに楽しみたいライダーにふさわしい。

トップケース(50L)やサイドケース(片側30L)をはじめ、シートやスクリーンなど様々なアクセサリーを用意。サイドケースは下部をフローティングすることで振動対策している

シックなカラーリングがいま風。ヤマハらしいデザイン、そしてハンドリングを様々なシチュエーションで楽しめる!

SPECSpecificationsYAMAHA TRACER9 GTエンジン水冷4ストロークDOHC4バルブ並列3気筒総排気量888ccボア×ストローク78×62mm圧縮比11.5対1最高出力88kW(120ps)/10,000rpm最大トルク93Nm(9.5kgf・m)/7,000rpm変速機6速フレームダイヤモンド車両重量220kgキャスター/トレール25°/108mmサスペンションF=テレスコピック倒立
R=スイングアーム(リンク式)+モノショックタイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17全長/全幅/全高2,175/885/1,430mm軸間距離1,500mmシート高810/825mm(2段階)燃料タンク容量18L価格145万2,000円~

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