●本家『紅白歌合戦』出場アーティストが登場

テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第204回は、18日に放送されたNHKの音楽番組『明石家紅白!』(19:30〜)をピックアップする。

同番組は今回で10回目を迎える明石家さんまMCの音楽バラエティ。今年は本家『NHK紅白歌合戦』に出演するアーティストをズラリそろえた。

NiziU、鈴木雅之、AI、DISH//、miletが出演するほか、さんまがどんな切り口からトークを盛り上げるのか。とりわけ初対面のNiziUとmilet、さらに下積み時代のエピソードが豊富なDISH//のパートが期待されていた。

『明石家紅白!』MCの明石家さんま


○■1曲目はさんまリクエストのコラボ

番組開始早々、さんまから「(本家の『紅白歌合戦』)出場おめでとうございます。うれしいもんなんですか?」と声をかけられて「2年連続なんでね」とクールに返した鈴木雅之。すぐに鈴木のヒストリー映像が流れ、その中には過去の『紅白歌合戦』出演シーンがふんだんに盛り込まれていた。

「デビューしたばかりの頃に、なんば花月でライブをして、さんまとも交流があった」というだけにトークの息はピッタリ。年齢、デビュー、売れた時期など、「どちらが先で、どちら兄さんか」を争うようなかけ合いで、オープニングトークを盛り上げた。

話題が「現在65歳で健康のためにトレーニングをしている」に移ると、miletがトークに参加。「筋肉がつきやすくて、腹筋ローラーやりはじめたら1日でスジがついて、2日目で割れはじめて。15回しかやってないです」と話すと、さんまが「ちょっと待って! (出っ歯のジェスチャーをしながら)あんたもコレ入れる(話を盛る)、さんまちゃんやねえ」とツッコミを入れて笑わせる。

さらに、DISH//の北村匠海、AI、NiziUらにも話を振り、いきなり“さんま御殿状態”に。さんまの話術はもちろんのこと、話しやすそうなリビング風のセットを組み、事前アンケートから笑いを生み出すスタッフの仕事が冴えていた。

歌の話題に入ると、さんまのお願いで「ロンリーチャップリン」をAIとのコラボで歌うことを発表。おそらく約2週間後に迫った『紅白歌合戦』本番とは異なる楽曲であり、豪華コラボは特番らしく華やかだ。

鈴木とAIが歌い終えると、さんまは「素晴らしい!」、miletも「最高にカッコよくて全身トリハダです」などと称えながら迎え入れた。歌唱後にアーティスト同士が称え合うのも、『明石家紅白!』の魅力であり、それは「トーク席の真横で歌う」という演出あってのものではないか。

○■さんまのスイッチを入れたmilet

2番手のAIも、同様にヒストリー映像と『紅白歌合戦』出演シーンが流れたあと、トークタイムに突入。2児を子育て中であるAIが、ふすまに描かれた落書き写真を見せると、さんまは大竹しのぶのモノマネをしながら新築引っ越し時や、IMALUの子育てエピソードで話を広げる。さらに、miletから「子守歌は?」と質問されたAIが「ママが歌ってくれたイタリア語の子守歌を歌いはじめ、さんまが「ちょっと僕、抱いて歌ってもらえます?」とボケてオチをつけた。歌ったのは「ハピネス」。

3番手のDISH//は、「子役の小学生時代を経て10年前に結成」「楽器をさわったことがないところからスタート」「小さな車1台でライブをしながら全国を旅」「あいみょん提供の『猫』誕生秘話」などエピソードがてんこ盛り。ただ、最もウケたのは楽曲作りの話題になったときに鈴木が語った「昔はボイスレコーダーがなかったから忘れちゃう……だからだいぶ名曲なくしてると思うんだよね」だった。歌ったのは「猫」。

4番手のmiletは、さんまと初対面ながら、出色のトークを披露。まず“謎多き歌姫に迫る”というコンセプトが紹介され、次に「好きな食べ物…馬刺し、好きな動物…ハイエナ、趣味…長時間の散歩(6〜9時間)、特技…ゆで卵の早むき」が明かされると、笑いのムードが漂いはじめる。

miletは「世界一、馬刺し好きです!」「ハイエナは狩りの成功率が一番高くて、仲間思いで情に厚い。この前も天王寺動物園に“ハイエナ納め”してきました」「東京の自宅から羽田空港まで歩いて行って飛行機見て帰ります」「(ゆで卵の早むきを失敗し)何言ってもダメだ今日。もう助けてください……」と笑いを連発。さんまから「すべてがウソ」と疑惑をかけられたほか、番組の最後までイジられ続けていた。

DISH//が「猫」を披露した直後に、「いやあうれしいです。生の『猫』はすごく温かかったです」とコメントをした点なども含め、今後は彼女のトークにも期待するテレビマンが増えるのではないか。歌ったのは「Fly High」(NHKウインタースポーツテーマソング)。

●「紅白」と選曲の必然性は不明

最後はNiziUが登場し、それぞれ特技のMAKOの高速ダンス、MAYAの似顔絵、NINAの口芸、AYAKAの風船早ふくらましを披露。「すごいものから始めてグラデーションのようにダメになっていく」という構成はいかにも、さんま好みに見えた。歌ったのは、「Chopstick」。

パフォーマンス後、リーダーのMAKOは真摯(しんし)な表情で「さんまさんと素敵なアーティストの方々の生のパフォーマンスを見ることができて、すごく心も温かくなって今年の寒い冬も乗り切れそうだなって」とコメント。すかさず、さんまから「何そのまとめ方。そんなん昭和の司会者やで。NiziU、“これから”やから」とツッコミを入れてオチをつけた。

エンディングはアーティストを帰らせて、さんまひとりに。“紅白”とうたっているだけに、紅組のAI、NiziU、miletと、白組の鈴木雅之、DISH//の勝敗を発表するという。ドラムロールが鳴り、さんまの「紅組です! 今日は面白さで勝者が決まりましたね」のひと言で番組は終了。miletがさんまにハマりまくっていただけに当然だろうが、やはり最後まで“紅白”というフレームに必然性は感じられなかった。

1つ気になったのは、選曲のコンセプトとPRについて。どうせなら「本家の『紅白歌合戦』とは違う楽曲をやります」などと言い切ったほうが差別化できるだけでなく、ファンも喜ぶのではないか。あるいは、『明石家紅白!』なのだから鈴木雅之がそうだったように、すべて「さんまのリクエスト」という形でいいかもしれない。民放各局で大型音楽特番が多い時期だが、NHKなら大人の事情うんぬんや視聴率狙いは言い訳にできないはずだ。

さんまは1曲ごとに幸せそうな笑顔を見せていたし、それはアーティストたちも同様。トーク席の真横にステージを設けているだけあって、スタジオにはアーティストがリスペクトし合うようなムードが漂い、MCを中心に広がる笑顔と一体感があった。そして、それは制作陣が視聴者に届くことを前提にしたものだろう。

さんまは話術で笑わせるだけでなく、自らも常に笑顔で振る舞うことで、視聴者をより笑顔にできる音楽番組を作り上げていた。今回放送されたAIの「ハピネス」にある「君が笑えばこの世界中にもっと幸せが広がる」というサビの歌詞が『明石家紅白!』の本質的なところなのかもしれない。

○■次の“贔屓”は……ダウンタウンMCの大型年末特番! 『お笑いアカデミー賞』

ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功 (C)TBS


今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、25日に放送されるTBS系バラエティ特番『お笑いアカデミー賞2021』(19:00〜)。

そのコンセプトは、「総合司会・ダウンタウン 2021年、各ジャンルで最も活躍した芸人を表彰する年に一度の“笑い”の祭典!!」「50名以上の人気芸人が大集合! 全6部門のノミネート芸人を一挙発表!」と、実に単純明快かつ豪華絢爛。

6部門の内容は、「最優秀多忙賞」「最優秀かくし芸賞」「最優秀バズりゲーム企画賞」「最優秀話題賞」「最優秀ドラマ演技賞」「最優秀福男芸人賞」が用意されているほか、ダウンタウンとおぼん・こぼんの初対面などもあり、1年を振り返るようなお祭りムードが期待できそうだ。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら