つくばエクスプレスの車両。都心と臨海部を結ぶ地下鉄構想は同線と一体での整備について「検討が行われることが期待」されている(撮影:大澤誠)

2020年夏に、筆者は「新幹線が開業すれば『安く速く』なりそうな区間」という記事を公開した。この記事では、現在建設中、または計画のある新幹線が開業した場合、現在と比べて所要時間・運賃がどう変わるかを試算した。

今回はその「首都圏都市鉄道編」ということで、首都圏で構想されている新路線について「開業したら安く・早くなりそうな区間」を紹介したい。なお、本記事の新線運賃は計画資料などに基づいて筆者が試算したものであり、実際の開業時の運賃とは異なる可能性がある点は注意いただきたい。

どこを通る?「臨海地下鉄」構想

都心部・臨海地下鉄新線は、晴海や有明といった臨海部と都心(東京駅付近)を結ぶ路線として構想されている新線だ。2016年の交通政策審議会答申では、つくばエクスプレスの秋葉原―東京間延伸と一体での整備、そして直通運転等について「検討が行われることを期待」とされている。


地元・中央区の検討ルート案は、有明の国際展示場付近の「新国際展示場」駅から豊洲市場付近、勝どき・晴海、築地市場跡地付近、そして銀座を経て東京駅に至る形だ。実は京葉線の都心乗り入れは、当初はほぼこのルートで新橋を目指すものであった。

東京駅から国際展示場までは、直線距離だと東京から新宿まで(中央線で13分・200円)とほぼ同じだ。だが、現状では東京駅からだと都バスで行くか、新橋でゆりかもめ乗り換え、または大井町か新木場に出てりんかい線に乗り換えるというルートとなり、距離の割に時間も運賃もかかる。

中央区の検討資料を基に新線経由のケースを計算してみると、かなりの時短効果が見込めそうだ。

検討資料にならって秋葉原―東京間はつくばエクスプレスの運賃、東京―国際展示場間はりんかい線の運賃を基に試算すると、秋葉原―国際展示場間は13分・440円、東京―国際展示場間は10分・270円となる。国際展示場から秋葉原まで1本なら、コミケの後に秋葉原に寄りたい人にはうってつけの路線になること間違いないだろう。


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つくばエクスプレスと直通する前提であれば、同線沿線からは当然便利になる。守谷から国際展示場までは現在だと南流山で武蔵野線(京葉線直通)に乗り換え、さらに新木場でりんかい線に乗り換えて69分・1310円かかるが、新線経由だと約20分短縮されて50分・1170円となる試算だ。北千住からも現行とほぼ同じ運賃で15分の短縮だ。

また、錦糸町からだと現在の最安ルートは都バスで東雲に出てりんかい線に乗り換えるルートで420円かかるが、新線だとほぼ同じ運賃で所要時間が半分になる。現在でも埼京線のりんかい線直通列車で国際展示場まで1本で行ける大宮や赤羽からも、上野東京ラインで東京へ出て新線を利用したほうが150円程度安く、10分前後の短縮になりそうだ。


一方、新宿など東京西部からの場合は、現行のりんかい線のルートのほうがよさそうだ。

筆者は中学生時代まで北綾瀬に住んでいたが、お台場へはどんなルートでも乗り換えが多く、遊びに行くのに大変な場所であった。新線ができればスムーズに移動できるようになる。

時間はバスの半分に「東京8号線延伸」

東京8号線(有楽町線)延伸は、有楽町線の豊洲駅から東陽町を通って半蔵門線住吉駅までをつなぐ構想だ。

現在、この地域の南北方向の移動はバスが主体だが、地下鉄ができれば(東京メトロの運賃であれば)運賃はほぼそのままに所要時間が半減する区間が多い。例えば錦糸町―東陽町間は、現在は都バスで25分・210円のところが5分・170円となるだろう。また、同様に都バスで20分かかる豊洲―東陽町間も5分へと、所要時間は4分の1になりそうだ。

また、江東区の試算によれば、豊洲から成田空港へは東京へ出て成田エクスプレスに乗る(所要時間89分)より、新線経由で住吉から半蔵門線で押上まで行き、京成成田スカイアクセス線のアクセス特急を利用するほうが早く着く(86分)という。東京経由成田エクスプレス利用の運賃・料金は3240円。一方、新線経由アクセス特急利用だと1390円。早くなるうえに1850円安くなる計算だ。


一方、意外にも錦糸町から豊洲へ行く場合は、運賃こそ安くなると思われるものの、現在(清澄白河・月島乗り換え)と所要時間は変わりなさそうだ。

京成ユーザーにメリット?「都心直結線」

羽田空港アクセスの新線としては、すでに2029年度の開業予定が示されているJRの羽田アクセス線が注目を集めており、時間短縮効果まで大々的に示されていてメリットは明らかだ。だが、今回はあえて別の空港アクセスルートとして2016年の答申に記載された「都心直結線」押上―東京―泉岳寺間短絡線のほうを取り上げたい。

この新路線は、空港アクセスのためというより京成・京急の沿線価値向上が期待できる。とくに京成は速度が遅いイメージが強く、同線の最混雑区間が都心部ではなく大神宮下―京成船橋間であることからも、かなりの人数が船橋で総武快速線に乗り換えて都心へ出ていることがわかる。これらの利用者が時間短縮によって京成線で都心まで行くようになれば、相当な増収が見込めるに違いない。

例えば、八千代台から東京へ、現行の船橋乗り換え・総武快速線利用の場合は45分・660円。これを新線の押上―東京間5kmは京成線の運賃水準と仮定して(加算運賃なしで)試算してみると、乗り換えなしで43分・550円となる。

京急も、東京駅まで1本で行けるとなれば沿線人口獲得のアドバンテージが高まるだろう。

また、高額な運賃で敬遠される北総線も東京駅まで直通となれば、先日発表された運賃値下げ構想も併せて少しは印象がマシになるのではないか。新線区間で加算運賃なしなら現在の都営浅草線直通よりも運賃は安くなる。千葉ニュータウン中央から東京までだとその差は200円弱。それでいて13分も早くなる。

前述の通り押上―東京間は京成線運賃、東京―泉岳寺間6kmは京急線運賃として試算してみると、京急線の上大岡―東京間は品川乗り換え37分・600円から、直通33分・500円。北総線の千葉ニュータウン中央―東京間は東日本橋(馬喰町)でJRに乗り換える現行ルートだと51分・1240円だが、新線経由だと直通38分・1050円となる計算だ。


ただ、この新線ができるとJRに流れていた乗客の逸失がなくなるため、京成押上線の混雑率は200%を超えるとの試算が以前の国交省資料にあり、京成押上線の10両化や1時間最大24本運行ができるよう信号設備の改良などで線路容量の向上を図ることが提案されていた。ただ、現在はこの試算資料はネット上からは消えている。

野田市などが熱望「東京直結鉄道」

東京直結鉄道は、豊洲―住吉間と同様に「東京8号線」延伸として構想されている豊洲―押上―亀有―八潮―野田市間の一部で、八潮―野田市間の部分だ。途中で越谷レイクタウンを経由するほか、6つの新駅を設ける構想となっている。

どの経路でも東京へ行くには遠回りになってしまう野田市を中心に渇望されている路線で、地元期成会はミツバチを模したイメージキャラクターOTTOくん(イタリア語で8を意味するらしい)を制定し誘致活動を熱心に行っている。最近は利根川を越えて茨城県の坂東市なども計画に相乗りしてきている。野田市から先は坂東市、常総市を通って下妻に至り、下妻から関東鉄道常総線の下館まで乗り入れる構想となっているようだ。

一方、都心部へは豊洲方面ではなく、八潮からつくばエクスプレス線への直通運転という検討も上がっている。もしこのルートが完成すると、野田市―東京間は現在なら東武アーバンパークライン・つくばエクスプレス・JR線経由(流山おおたかの森・秋葉原乗り換え)で57分・970円のところ、直通37分で1010円(野田市―八潮間はつくばエクスプレス並み運賃で想定=18km480円)となる。

しかし、TX乗り入れを想定すると、現状でも朝ラッシュ時に1時間最大25本を走らせている八潮―秋葉原間で、直通列車を受け入れるだけの余裕があるかは疑問もある。

東京直結鉄道にメリット?別の新線構想

そこで活用できるであろう路線が「池袋・竹ノ塚線」構想だ。池袋から直線距離で10kmの足立区竹ノ塚までを結ぶ地下鉄新線で、西巣鴨・王子・豊島五丁目団地・江北・大師前を通るルートで、平成初期に足立区、北区、豊島区を中心に構想されていた。実現すれば現在は西日暮里・北千住乗り換えで35分・500円の竹ノ塚―池袋間が10分に短縮され、運賃もつくばエクスプレス線の水準なら340円になるだろう。


そして竹ノ塚から先、八潮まで延伸して東京直結鉄道線・つくばエクスプレス線と線路を繋げば、東京直結鉄道線の乗り入れによって圧迫されるつくばエクスプレス線の線路混雑緩和や、八潮から東京方面へ直通できずにあぶれてしまう列車の受け皿になるだろう。近年はあまり動きがない構想だが、東京直結鉄道などと組み合わせれば北関東各地からの利用者が見込め、時間短縮効果も広範囲にわたりそうだ。実現すれば東武線、東京直結鉄道、TX沿線からは東京方面だけでなく池袋へも1本で行けるようになる。

今回はいくつかの新線計画と予想される効果を紹介したが、いかがだったであろうか。都心部やその周辺がほとんどであり、路線単体で見ればインパクトは小さいが、直通先や接続路線との組み合わせによっては大きな時短効果と運賃低減効果を引き出せる可能性を秘めているものが多いのではないか。新路線の開業には高いハードルがあるが、今後どうなるかが楽しみだ。