(左から)松山ケンイチ、中村勘九郎、井上真央

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ほかのドラマなら合格点の視聴率でも、“テッパン”といわれる大河ドラマでは厳しい評価が下される。そんな“ワーストランキング”作品の主演俳優たちがハマる“落とし穴”とは──。

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 “朝ドラ”と並んで国民的なドラマと言われるNHKの『大河ドラマ』。1963年に始まり、かつては平均視聴率30%を超える大ヒットドラマも生まれた。

 ところが2000年代に入ると視聴率も頭打ち。2010年代には“平均視聴率15%を獲得したら、合格”といった空気がNHK内にも漂っているという。

 2月7日に最終回を迎えた『麒麟がくる』の視聴率もふたケタ台前半を推移するのがやっと。やや物足りなさを感じるが、その一方で内容に関しては高く評価する声もある。

「史実に忠実に視聴者が知っている歴史をそのまま見せてくれたのが昔の大河ドラマ。でも『麒麟がくる』では新しい織田信長像を作り出した。本能寺の変についても諸説ある中、今までと違う視点から魅力的に描いてみせた。そのあたりは見応え十分でした」

 と話すのはドラマウォッチャーでフリーライターの田幸和歌子さん。しかし以前に比べ、視聴率をとれていないということも事実。

人気脚本家でも大スベリ!
『いだてん』はどうだった?

 いったい大河ドラマに何が起きているのか。『ワースト大河』のランキングを振り返りながら、考えてみたい。

 ぶっちぎりの『ワースト大河』第1位は、一昨年放送の中村勘九郎、阿部サダヲがリレー形式でW主演する『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(平均視聴率8・2%)。朝ドラ『あまちゃん』で大ヒットを飛ばした脚本家“クドカン”こと宮藤官九郎がオリンピックをテーマに書き下ろしたオリジナル作品。大きな期待が寄せられていただけに、残念な結果となった。

「時代が行ったり来たり。それが後で結びつき、大きな快感が待っているのですが、序盤はやっぱり難解で戸惑う面もあった。それが原因で脱落する視聴者も多かったようです」(田幸さん、以下同)

 物語が時系列で進まず、ストーリーのテンポが早い。さらにドラマの中に映像資料を入れたことにも田幸さんは異論を挟む。

「貴重な映像資料が豊富なNHKだけに、使わなければいけないと思ったのか……。途中に当時の映像を挟むことで物語が途切れる違和感や、もったいなさを感じました。入れるなら、最後にまとめる方法もあったのではないでしょうか」

 さらに視聴率を考えるなら、中村勘九郎よりも、親しみやすい阿部サダヲのパートから始めてみたほうが見やすかったのではないかと、田幸さんは言う。

 2019年のラクビーW杯、日本vsスコットランド戦の劇的勝利の裏で放送された第39話『懐かしの満州』は史上ワーストの視聴率3.7%を記録。実は同時期、阿部は自動車での接触事故を起こし、まさに受難続きとなった。

 しかし、この回こそクドカン自身が最も描きたかった放送回でもあり、ファンの間では“神回”と呼ばれている。脚本家が力を込めた話だったが、まさかの最低視聴率を記録してしまうとは思いもしなかったことだろう。

実力派俳優でも難しいのはなぜ?

『ワースト大河』の第2位にランクインしたのは2015年に放送された井上真央主演の『花燃ゆ』(平均視聴率12.0%)。

 江戸末期の長州藩を舞台に吉田松陰の末妹・文役を井上が好演。当時旬の東出昌大、高良健吾、賀来賢人たちイケメン俳優がそろい踏みしたことから当初“イケメン大河”と呼ばれた。

「ほかにも“セクシー大河”“幕末男子の育て方”などのキャッチコピーが躍り、始まる前から拒絶反応を起こしてしまった大河ファンが続出。ファンの多くが見たいのはそんなことじゃないんですよ。完全に作り手サイドの戦略ミス。イケメンや胸キュンのポイントは視聴者が勝手に見つけて、SNSで盛り上がるもの。制作サイドが仕掛けるものではありません」

 しかも主人公である文の知名度が低く、視聴者の興味を引くポイントが少なかった。そういった題材選びにも問題があったと田幸さんは、低視聴率の原因を分析する。

 さらに主演する井上真央が「主人公である私の力不足」と放送中にもかかわらず謝罪するという前代未聞のオマケつき。

「真央さんは2011年、朝ドラ『おひさま』でもヒロインを務めるなど誰もが認める女優。『花燃ゆ』での演技も魅力的でよかった。

 朝ドラや大河は視聴率がとれないとその後、民放の連ドラに呼ばれなくなるなど前途ある俳優の将来をつぶしかねない諸刃の剣でもあります」

 実はワースト大河第2位で同率、2012年に放送された大河ドラマ『平清盛』でも、主演する松山ケンイチがそのような憂き目にあっている。大河放送終了後、約1年間テレビドラマに出演していないのだ。

「ロンドンオリンピックなどもあり、最低視聴率を更新するなど苦杯をなめ、その後の松山の俳優人生にも影を落としてしまいました」

 だがその一方で、いまだに“清盛最強説”を唱える熱心なファンもいる。

「画作りもリアリティーを追求したため、当時の兵庫県知事が“画面が汚い”など発言。“受けつけない”と離脱した視聴者もいました。ですが悪役と捉えられがちな清盛を主人公にとらえ、その光と影を描く藤本有紀さんの脚本が本当に素晴らしかった」

 ちなみに藤本氏が脚本を手がけた2007年の朝ドラ『ちりとてちん』も視聴率にこそ恵まれなかったものの熱狂的なファンに支えられDVDの売り上げは上々。「日が当たらない人に日を当てる」藤本脚本ならではの持ち味が出ていると田幸さんは解説する。

『ワースト大河4位』にランクインしたのは2018年の大河ドラマ『西郷どん』(平均視聴率12.7%)。主演する鈴木亮平が役作りのために体重を25キロ増やすなど徹底し、明治維新の英雄・西郷隆盛を熱演。

 だが、メジャーな主人公なのに、視聴率は伸びず──。

「『不機嫌な果実』『anego』でもコンビを組んだ林真理子原作、中園ミホ脚本のヒットメーカーが再びタッグを組み女性の視点から“愛にあふれるリーダー”を描き、人間ドラマとして魅力は十分。ただ薩長連合など歴史ドラマとしての描き方が薄く、大河ファンからは歴史のツボを押さえていないと指摘する声も上がっていました」

 やはり、王道の歴史を押さえない限り、大河ファンの琴線に触れることは難しいのかもしれない。

イケメン俳優が多くてもダメ?

 “王道”からはずれるということでは、2017年に放送された『おんな城主直虎』(平均視聴率12.8%)は、チャレンジした作品に違いない。

 主人公・直虎(柴咲コウ)、井伊直親(三浦春馬さん)、小野政次(高橋一生)3人の幼なじみの友情と恋愛模様を絡め、新鮮ではあった。

「主人公の井伊直虎は、今も『男性説』『女性説』があって視点の面白さは抜群。女性ファンの中には高橋一生、三浦春馬、菅田将暉たち俳優同士の掛け合いに萌えるオタクファンもたくさんいましたが、“イケメン”に興味がなく、歴史ドラマを欲している従来の大河ファンには今ひとつ響いていません」

 そして、2013年放送の『八重の桜』(平均視聴率14.6%)は、善戦したにもかかわらず平均視聴率15%に届かなかった。

「幕末の会津出身で同志社大学を創設した新島襄の妻となった新島八重を大河ドラマ初出演の綾瀬はるかが熱演。でも“みんなが見たい綾瀬はるかはこれじゃない”という意見が噴出していました」

 当初はまったく別の作品を企画していたものの、2011年の東日本大震災をきっかけに、NHK内部で東北の復興を支援するため、福島県を舞台にした企画が浮上。昭和期まで存命の人物を取り上げるのは1985年『春の波涛』以来。異例づくしの大河ドラマに対するファンの反応は今ひとつ冷ややかだった。

 大河ゆえに“ワースト”に入ってしまったが、ほかのドラマなら十分に合格点の、2010年以降、平均視聴率15%超えを達成した大河ドラマにも注目してみたい。

15%超えした大河ドラマは?

 まずは2014年に放送されたV6のメンバー岡田准一が主演する大河ドラマ『軍師官兵衛』(平均視聴率15.8%)。

「主人公・黒田官兵衛に対する岡田君の気合がすさまじかった。1年に及ぶ幽閉シーンでは、蓬髪に髭もボウボウ。皮膚病に侵され五体も満足に動かすことができない迫真の演技には、ここまでやるのかと胸打たれました。

 でも、黒田官兵衛は決して知名度が高いわけではありません。歴史ファン以外には受け入れられにくかったのでしょう」

 また、「恋愛や家族パートはいらない」「もっと合戦を見せてほしい」「いろんな手柄がすべて官兵衛の手柄って本当なの?」といった声も放送当時に上がっていた。

「いろいろな声はありましたが、この作品をきっかけに岡田君は馬術や剣術にも磨きをかけ、後に映画『関ヶ原』『散り椿』で日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞。数字はとれなかったけど、彼にはプラスになった作品ということが救いですね(笑)」

 そして忘れてはならないのが2016年に放送された『真田丸』(平均視聴率16.6%)。

「本能寺の変や関ヶ原の戦いなど真田家が関わっていない出来事は“ナレ死”ですませるなど、話題を呼んだヒットワードも満載。三谷幸喜脚本による新しい大河ならではの面白さがちりばめられていました」

 “ナレ死”とはナレーションだけで歴史上の大きなターニングポイントをすませてしまう演出。そこに物足りなさを感じた視聴者も多かった。

 そしてランキング外だが18位に入った、2010年に福山雅治主演で放送された『龍馬伝』(平均視聴率18.7%)。

「当時人気の頂点にいた福山が、憧れのヒーロー坂本龍馬を演じるとあって始まる前から大河ファンもヒートアップ。フィルム調の画質をはじめ、映像も攻めていました。このとき、岡田以蔵役で出演していた佐藤健が『龍馬伝』の大友啓史監督と組んでスタートするのが『るろうに剣心』シリーズ。今をときめく佐藤健の出世作でもあります」

 平均視聴率15%でも“コケた”枠に入ってしまう大河。だが、それぞれの作品がファンの心をつかむ歴史ドラマの魅力にあふれているのだ。

プレッシャーを押し返せるか!?

 そして注目されるのは、2月14日からスタートする吉沢亮主演の『青天を衝け』。

 新しい1万円札の顔になる日本の“資本主義の父”と言われる渋沢栄一の生涯を描いた、大河ドラマでは鬼門といわれる近代モノ。なぜ視聴率がとれないとされるのか。

「大河ファンは、華やかな合戦シーンを繰り広げる有名武将の活躍を期待している。近代モノだとつい“これ、朝ドラでもよかったんじゃない”といった気分になってしまう」

 しかし今回のマイナス要素は、これだけではない。スタートが2月にずれ込み、放送回数も未定のまま。さらに来年には三谷幸喜脚本・小栗旬主演の『鎌倉殿の13人』、再来年には嵐・松本潤主演の『どうする家康』といった作品が早くも発表された。

「三重苦ともいうべきマイナスからのスタート。でも、そのぶん頑張ってほしいという思いで大河ファンも応援します。主演する吉沢亮は朝ドラ『なつぞら』でも、登場シーンが少ないにもかかわらず抜群の輝きを見せてくれました。地味な内容でもまわりが盛り上げて、彼にはぜひ輝いてほしい」

 しかも徳川慶喜役には、元SMAPの草なぎ剛が登場。長瀬智也、堂本剛とともにジャニーズ枠に収まりきらない素晴らしい演技力にも注目したいと田幸さんは熱く語る。こんな状況で始まる『青天を衝け』。はたして、近代モノのジンクスを覆すことができるのか、それともワーストランキングに名を連ねることになるのか──。

 華々しく大河主演俳優としてスポットを浴びた吉沢だが、その足元にあるのはスターへの階段か“落とし穴”か──。

■大河ドラマワースト15■

1 『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019) 8.2% 中村勘九郎 阿部サダヲ
2 『花燃ゆ』(2015) 12% 井上真央
2 『平清盛』(2012) 12% 松山ケンイチ
4 『西郷どん』(2018) 12.7% 鈴木亮平
5 『おんな城主直虎』(2017) 12.8% 柴咲コウ
6 『花の乱』(1994) 14.1% 三田佳子
7 『竜馬がゆく』(1968) 14.5% 北大路欣也
8 『八重の桜』(2013) 14.6% 綾瀬はるか
9 『軍師官兵衛』(2014) 15.8% 岡田准一
10 『真田丸』(2016) 16.6% 堺雅人
11 『武蔵 MUSASHI』(2003) 16.7% 市川海老蔵(当時・新之助)
12 『琉球の風』(1993 1〜6月) 17.3% 東山紀之
13 『新選組!』(2004) 17.4% 香取慎吾
14 『江・姫たちの戦国』(2011) 17.7% 上野樹里
14 『炎立つ』(1993 6〜12月) 17.7% 渡辺謙・村上弘明

田幸和歌子:たこう・わかこ ドラマコラムの執筆や、ジャニーズウォッチャーとして活動。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など

(取材・文/KAPPO INLET GROOVE)