収入高動向

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 一般社団法人日本映画製作者連盟の日本映画産業統計によると、2019年に日本で公開された映画の興行収入は、新海誠監督の『天気の子』やディズニーの『アナと雪の女王2』などヒット作に恵まれ、過去最高となる2611億8000万円(前年比17.4%増)となり、入場者数も1億9491万人(同15.2%増)を記録するなど同年は業界にとって恵まれた1年となった。しかし、今年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言下での休館や宣言解除後に座席制限の営業を余儀なくされるなど、営業環境が昨年から一転した分、2020年の興行収入は大幅な落ち込みは避けられないとみられ、映画館運営業者にとっても厳しい1年となることが予想される。

 帝国データバンクは、2020年11月時点の企業概要ファイル「COSMOS2」(147 万社収録)のなかから、2015年度から2019年度決算の収入高が判明した映画館運営業者97社(法人・個人事業主)を抽出し、収入高合計比較、規模別、業歴別について分析した。

 調査は今回が初めてとなる。

収入高合計比較 〜収入高合計は2期連続で増加〜

 2015年度から2019年度決算の収入高が判明した映画館運営業者97社の収入高合計をみると、2017年度は前年度比1.9%減となったものの、概ね右肩上がりで推移しており、2018年度、2019年度は2期連続で増加した。

 2019年度は、邦画、洋画ともに公開本数が増加したことに加え、邦画では新海誠監督の『天気の子』、洋画ではディズニーの『アナと雪の女王2』『アラジン』『トイ・ストーリー4』など興行収入100億円を超えるヒット作に恵まれ、入場者数も増加したことから、同年度の収入高合計は3224億2200万円(前年度比8.8%増)となった。

 97社のうち、直近3期連続で収入高の増減が比較可能な96社の収入高動向をみると、2019年度は「増収」企業が34社(構成比35.4%)で、「減収」企業が18社(同18.8%)となった。「横ばい」企業は44社(同45.8%)と全体の5割弱を占めた。加えて、2017年度、2018年度、2019年度「3期連続増収」企業は5社(構成比5.2%)となる一方、「3期連続減収」企業は3社(同3.1%)となった。

 2019年度の収入高トップは、TOHOシネマズ(株)。2020年2月末時点で、全国70サイト660スクリーン(共同経営5サイト56スクリーン含む)を運営。以下、2020年3月時点で、92サイト785スクリーンを有し、国内最大級のシネマコンプレックス「イオンシネマ」を運営するイオンエンターテイメント(株)、「MOVIX(ムービックス)」のブランドでシネコンを運営する(株)松竹マルチプレックスシアターズ、東証2部上場で、「109シネマズ」としてシネコンを運営する(株)東急レクリエーション、ローソン系列で、「ユナイテッド・シネマ」「シネプレックス」ブランドのシネコンを運営するユナイテッド・シネマ(株)と続き、シネコン大手5社が上位を占めた。上位5社の2019年度の収入高合計は2465億4300万円となり、全体の76.5%となった。

規模別比較 〜収入高10億円未満が全体の約8割を占める〜

 映画館運営業者97社を収入高の規模別にみると、「1億円未満」(46社、構成比47.4%)が最多となった。次いで「1億〜10億円未満」が31社(同32.0%)となり、10億円未満が全体の79.4%となるなど、ミニシアター系、単館系と呼ばれる小規模運営業者が大半を占める結果となった。

 一方、50億円以上の大手・中堅の運営業者は8社(同8.2%)にとどまり、大手・中堅シネコン運営業者が占め、構成比で1割にも満たないことが判明した。

 また、97社のうち、直近2期連続で収入高の増減が比較可能な96社について、収入高規模別(2019年度)に動向をみたところ、50億円以上(8社)の大手・中堅シネコン運営業者は減収企業がなく、7社が増収で、1社が横ばいとなるなど総じて好調な業績を示した。一方、10億円未満(76社)の小規模運営業者は40社(構成比52.6%)が横ばい、17社(同22.4%)が減収となるなど、苦戦を強いられている業者が多くみられる結果となった。大手・中堅シネコン運営業者と小規模運営業者の二極化が鮮明となっており、2019年度の収入高合計の増加は、大手・中堅シネコン運営業者の好調な業績が全体を牽引していることが判明した。

業歴別比較 〜50年以上が全体の4割強を占める〜

 映画館運営業者97社を業歴別にみると、「10〜30年未満」「50〜100年未満」がともに35社(構成比36.1%)と最も多く、次いで「30〜50年未満」が17社(同17.5%)と続いた。「10〜30年未満」が多かった背景としては、1990年代から2000年代にかけてのミニシアターブームが、一因とみられる。また、その一方、50年以上(42社、同43.3%)が全体の4割強を占めるなど、戦後、各地域の重要な文化・娯楽施設として、長い間、地元に根差した運営が続けられてきた業者が多いことが判明した。
 今回の調査結果で、大手・中堅運営業者が総じて好調な業績を示した一方、小規模運営業者の多くが苦戦を強いられ、大手・中堅シネコン運営業者と小規模運営業者との二極化が鮮明となっていることが判明した。
今年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言下での休館や宣言解除後の座席数制限、座席数に応じた上映中の食事制限など運営面での制約に加え、興行収入が見込まれる海外作品の相次ぐ公開延期など、映画館運営業者は事業規模を問わず、かつてないほど厳しい運営を強いられている。

 こうしたなか、10月16日から公開されたアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、公開から39日間で観客動員1939万7589人、興行収入259億1704万3800円を記録し、『君の名は。』(2016年公開)の約250億円、『アナと雪の女王』(2014年公開)の約255億円を超え、日本における邦画・洋画を合わせた歴代興行収入で第3位にランクインした。コロナ禍においても、これだけ多くの観客を動員するという作品の力が改めてクローズアップされ、同作品の爆発的ヒットが、ここに来て映画館運営業者の業績回復に大きく貢献している。しかし、同作品の恩恵を最大限に受けることができるのは、多くのスクリーンで1日に、同作品を数十回上映することができる大手シネコン運営業者に限られており、同作品の公開に携わっていない小規模運営業者は引き続き厳しい運営を強いられているものとみられる。

 昨今、資本力のある大手シネコン運営業者は、「4DX」や「ScreenX」といったエンターテインメント性の高い設備や「IMAXレーザー」など最先端の映像・音響設備など「体感型」の設備の導入に加え、応援上映やアーティストやアイドルのライブビューイングなど、映画館に足を運んでもらうための取り組みを強化することによって顧客の獲得に努めてきた。一方、長い間、各地域で映画文化を育んできたという文化・芸術的側面が強い小資本の小規模運営業者は、映画監督による舞台挨拶や上映後のトークイベントなど顧客の獲得のための施策は限られている。

 今後については、足元で全国的に新型コロナウイルスの新規感染者が急速に増加しており、外出自粛の動きが加速していくものとみられる。こうしたなかで、大手・中堅シネコン運営業者と小規模運営業者の二極化はますます進むものとみられ、場合によっては体力のない小規模運営業者の廃業もしくは倒産などが進む可能性もあろう。