大きなメーカーだからこその苦悩も!

 クルマは大きな開発資源を使ってつくられるものだけに、社内では明確なコンセプトやターゲットユーザーが決められるものである。しかし昔は実際に出たクルマが成功したかしないか以前に、「これはどんな人に向けたものなのだろう?」と首を傾げたくなるようなモデルもよくあった。そんなクルマたちをピックアップしてみた。

1)トヨタ・キャバリエ

 1996年登場のキャバリエはアメリカでの日本車の好調による日米貿易摩擦緩和のため、「トヨタでミドルクラスのシボレーキャバリエを売る」という目的で産まれたモデルだった。

「用意周到でなかなかは約束しないが、いざ約束したことは守る」というトヨタだけに、キャバリエは右ハンドル化はもちろん、ウインカーとワイパーのレバーは日本車と同様とし、価格は日本車並み、プロモーション活動もしっかり行うなど準備は万全だった。

 しかし肝心のキャバリエ自体に魅力がなく、ターゲットとした普通のユーザーは「これなら同じ価格のトヨタ車のほうが安心」と考えるのが当然で、キャバリエを買う人をイメージしにくく、販売は振るわず。結局キャバリエは予定されていた5年間の期間を前に販売を終了。キャバリエは日本人に「日本最大企業の1つであるトヨタは政治的な配慮も考える必要がある」と、改めてその存在の大きさを感じさせた。

2)日産レパード(4代目モデル)

 1980年に初代モデルが登場したレパードは、日本車としては早かった高級パーソナルカーというコンセプトを持つモデルだ。初代モデルが2ドアと4ドア、2代目モデルが2ドア、Jフェリーというサブネームを持つ3代目が現在のクーペ的な4ドアと、コンセプトがコロコロと変わり、日本で成功したモデルはなかったものの、存在感は小さくなかった。

 しかし1996年登場の4代目モデルは、よく見ないと当時のセドリック&グロリアと区別が付かないくらい無個性な4ドアハードトップになってしまった。その理由は当時の日産は日産店、モーター店、プリンス店、サニー店という4つの販売チャンネルがあり、それまでレパードを販売していた日産店に加え、このクラスの高級車も欲しかったサニー店でもレパードを販売するようになったためだ。つまり4代目レパードはディーラーの都合で産まれたクルマとも言え、これではターゲットユーザーがハッキリしないのも当然。レパードは4代目モデルを最後に絶版となった。

今でこそ売れているが初代は成功しなかったモデルも

3)ホンダ・ジェイド

 ジェイドはストリームの後継車的なポジションでもあり、ステーションワゴンとミニバンの要素を併せ持つモデルとして2015年に登場した。

 しかしジェイドはストリームの後継車としては3列目が非常に狭いという決定的な弱点を持ち、ホンダのなかでジェイドと同じ時期に、それぞれ5ナンバーサイズとなるものの、ステーションワゴンならシャトル、ミニバンなら広いステップワゴンがフルモデルチェンジし、ジェイドは中途半端感が否めなかった。

 トドメにジェイドの価格は約250万円からと内容を考えると高く、「買う人がイメージできず、売れない」のも当然だった。ジェイドは2018年に2列シートを追加し、価格も下げるなどのマイナーチェンジを行ったものの浮上できず、つい最近絶版となった。

4)マツダ・ベリーサ

 マツダベリーサは2代目デミオをベースにボディを若干大型化し、各部のクオリティや静粛性の向上など、小さな高級車的な要素も盛り込んだコンパクトカーとして2004年に登場。

 このコンセプトは高齢化がさらに進んだ今では必要なものにも感じるのだが、当時はわかりにくかったのと中途半端なところも否めなかった。価格はそれほど高くなかったにも関わらず当時はユーザー層も浮かびにくく、結局2016年まで販売され、デミオとCX-3を後継車とするように姿を消した。

5)スバルXV(初代モデル)

 スバルは大きくない自動車メーカーだけに失敗が許されない感が強く、「ユーザー層が浮かばない」などの存在意義が薄いモデルはほとんどないメーカーだ。そのなかで珍しくそういった印象が強かったのが、今ではインプレッサファミリーの大きな柱となっているクロスオーバー、XVの初代モデルである。

 2010年にインプレッサファミリーに追加された初代XVは、クロスオーバーらしくエクステリアではフェンダーに付く樹脂製のオーバーライダーやルーフレールなどが加えられた。ここまではいいのだが、初代XVはクロスオーバーに重要な最低地上高が通常のインプレッサと変わらなかった。これでは本当に見た目だけのクロスオーバーで、買う人が浮かばず、販売が成功しなかったのも無理もない。

 ただ現在もXVが継続し人気車となっているという点では、初代XVにもそれなりの功績があったとも言えるかもしれない。