あおり運転として摘発されたうち約4割が1キロ超も挑発していた

 2017年のいわゆる東名高速夫婦死亡事故以降、あおり運転はたびたびニュースでも大きく取り上げられ、今年の6月から「妨害運転罪」が創設され、違反1回で免許取消処分となり、最長5年の懲役刑や罰金など厳しい罰則が科されることにもなっている。

 これだけ大きな社会問題として注目されているにもかかわらず、あおり運転をするドライバーが後を絶たないのはなぜなのか?

 それはその原因が、単なるモラルの問題ではなく、知的退廃と身体性の問題だからだと考えられる。

 あおり運転をしたドライバーは「割り込まれた」「前方を塞がれた」といったことを自分が煽り運転をした理由に挙げているが、仮にその言い分が事実であったとしても、あおり運転で仕返し(?)をするというのは異常としか言いようがない。

 ちなみに朝日新聞の記事によると、2018年と19年に全国の警察が悪質なあおり運転として摘発した133件のうち、約4割が1キロ超の挑発で、22%は同乗者ありだったという。

 道路上で、何かをきっかけに他者に対し、イラッとすること、怒りを感じる事があったにせよ、その怒りの解消を優先し、相手のクルマに1km以上も嫌がらせをし、そのあと大きな社会的制裁を受けることになるというのは、どう考えても間尺に合わない。にもかかわらず、一瞬の怒りに任せ、未来の自分を安売りするのは、モラル的な問題ではなく、知的な問題といわざるを得ない。「今さえよければOK」という発想は、動物のそれに近い……。

日本人は「肚腰文化」を取り戻すべき!

 もう一つは、身体性の問題。古来、日本人の身体文化は『肚腰文化』といわれてきた。「肚(はら)が据わった人」「腰を据えた人」が理想型だったが、現代の多くの日本人は、その大事な『肚』をなくしてしまったようだ。

 身体論的にいえば、人の怒りの段階には三つの段階がある。

 普段、何でもないときは意識が下腹部の臍下丹田=肚に収まっている。それが何かの刺激で怒ると、『腹が立つ』。つまりヘソの下から、胃の方に意識がムカムカと立ち上がってくる。それでも怒りが収まらないと、意識はさらに上昇し『頭にくる』。頭で収まりきらないと、頭部の上にはもう身体が残っていないので、怒髪衝天、いわゆる『キレる』状態に!

 あおり運転をするような輩は、普段からすでに『肚』の意識は失っていて『頭にきている』のがデフォルトの状態。『頭にきている』状態でハンドルを握っているので、ちょっとでも「不快だ」と思うと、キレてしまい、我を忘れて、煽り運転をはじめてしまったのではないだろうか。

 では、こうした怒りの感情はどう向き合って、どう制御すればいいのか。

 アンガーマネージメントの分野では、『6秒ルール』という言葉をよく聞く。

 人間が怒りを覚えるとき、脳内では興奮物質のアドレナリンが激しく分泌され、 それにより興奮し、冷静さを失ってしまう。しかし、このアドレナリン分泌のピークは、怒りを発してから6秒後と言われ、その最初の6秒間をやり過ごしてしまえば、その後は徐々に冷静さを取り戻すことができるという考え方のことだ。

 とはいえ、その「最初の6秒をやり過ごす」ことはなかなか容易ではないのはご存じのとおり……。

 そういう意味で、根本的にあおり運転をなくすには、座禅や伝統的な武道の修行に取り組んで、肚を練り直すのが一番ではないだろうか。お腹まわりの余計な脂肪は減らすべきだが、お腹の内側は肚の据わった『太っ腹』な人間こそが理想。

 あおり運転の問題をきっかけに、日本人全体が『肚腰文化』を取り戻す努力をはじめる時期が来ているように思えてならない。